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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第二百話 森鴎外という人その四

「それならね」
「作家としての森鴎外を語るならですか」
「けれど森鴎外、森林太郎としても語るならね」
「脚気のことや家庭のことにですか」
「バロン森と名乗ったり出世にこだわったこともね」
「全部考えないといけないですか」
「チートって言葉が出たけれど」
 先生は僕が出したその言葉に非常に不快なものを感じていた、それは表情と言葉の色でよくわかった。
「それにはね」
「とてもですね」
「森林太郎としての出世も見て言ってるんだよね」
「若くしてとか」
「だったら脚気のことを学んだらいいよ」
 そのチートとか持て囃している人はというのだ。
「最低だってわかるから」
「そうなりますよね、絶対に」
「偉人といっても人間的に問題のある人はいるよ」
 先生はこの現実も僕に話してくれた。
「モーツァルトもベートーベンもね」
「二人共悪人ではなかったにしても」
「モーツァルトは多分に性格破綻の気が強かったね」
 無邪気で純粋な人だった、けれどそれがそのまま裏返って浪費家で下品で社会生活能力はなかった。
「ベートーベンもね」
「気難しくて尊大で、でしたね」
「頑迷で癇癪持ちだったよ。けれどね」
「二人共ですね」
「偉人といっても人間的にはどうかという一面は多かったけれど」
 僕も先生も話した通りにだ。
「卑しくなくて悪人でもなくてね」
「多くの人を死なせる様なこともですね」
「なかったからね」
「森鴎外よりもですね」
「ずっとましだったよ」
「そうですよね」
「太宰治は愛人がいて心中騒動も起こした」
 最初の心中では一緒に死のうとした人が死んでいる、地元の有職者で政治家でもあったお兄さんが事件の解決に奔走したとのことだ。
「けれど卑怯かというとね」
「終戦直後のことでもですね」
「はっきり言ったからね」
 あの戦争のこと、そして皇室のこともだ。
「変節はしなかったからね」
「ずっといいですね」
「夏目漱石も谷崎潤一郎もね」
 二人共DVを起こしたけれどだ。
「人は殺していないからね」
「死なせる様なことはですね」
「だから問題じゃないよ」
 今だと人間失格と言われる様な所業をしていてもだ。
「まだね」
「そうですよね」
「けれど森鴎外はね」
「沢山の人を死なせているので」
「遥かに酷いよ」
「医師としてですね」
「日露戦争で陸軍は沢山の脚気患者を出しているから」
 この現実が厳然として存在している。
「死者も多く出てね」
「戦争にも多くの影響を受けていますね」
「そうだよ、実際に」
 戦局にもだ。
「何しろ万単位の患者を出しているから」
「影響が出ない筈ないですよね」
「陸軍は旅順でも奉天でも多くの戦死者を出したよ、そしてね」
「脚気患者もですね」
「海軍は殆ど出していなかったんだ」
 それにより満足な戦力で戦えたことは言うまでもない。
「現実があるからね」
「よくて失態ですね」
「後で陸軍軍医局は事実を改竄しているから」
 森鴎外が頂点に立っていたこの組織はだ。 
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