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獣篇Ⅲ

作者:Gabriella
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49 策士は駆け引きがお上手

その間私は、ガサゴソとペンを取り出すのを確認し、刀を少しずらすと、総悟が書類にサインするのをじっと見ていた。

そして総悟(かれ)がそっとポケットを漁っているのを観察していた。どうやら、印鑑を置いてきてしまったようである。そりゃあそうだろう。普段から持ち歩いている人なんて、いるだろうか。

_「どうされました?沖田さん…?」

ヒッと小さい悲鳴の後、細々と声が紡がれる。

_「ね、姐さん…あの…判子を置いてきてしまいやした。取りに帰ってもいいですかィ?」

_「んー…どうしましょうか…。あなたさえ良ければ血判でもよいですよ?その方が確実に誓うことになりますから。ですが、たかが部屋の掃除くらいで血判を押させるのも…かわいそうですし。いいですわ、判子を取って来て下さい。」

総悟(かれ)があからさまにホッとしたので、その様子に気付かれないようにニンマリと笑みを浮かべる。

_「刀は…外して差し上げましょう。只し、五分以内に戻ってこない場合は、左手の小指を頂きますので。よろしくお願いしますよ?…もちろん、判子がなければ戻ってきて頂いて構いません。では、どうぞ?」

わ、分かりやした。と言って副長室を出ていったのを確認すると、副長(ひじかた)が息を撫で下ろした。

_「零杏…お前、中々ドSじゃねェか。見てるオレさえ背筋が凍りついたぜェ?…あの総悟がビビってるくらいだからなァ。お前、無自覚か?」

刀を鞘にしまい、畳の上に座る。

_「いえ、勿論自覚していますわ。というか、あれは演技です。総悟(かれ)が二度と私の部屋に色々置かないように。一度恐怖を体験させてやろうと思いまして。」

恐ろしいな、と土方が言葉を漏らした。

_「賢い総悟(かれ)のことですから、一度体験すればもう二度と同じ過ちは繰り返さないだろうと思って。駆け引きですよ。」

そこでタイミング良く、総悟(かれ)が戻ってきた。恐らく、さっきの話も聞いていたのだろう。

_「判子、持ってきやした。」

_「はい。お疲れ様です。では、判子をお願いします。」


大人しく判子を押す姿に、少し感動してしまったのは内緒である。判子押しやした、と総悟(かれ)が言ったので、書類をもう一度確認し、okを出す。

_「はい。ではしかと受けとりました。契約は、今から果たしていただきます。また、私はまだ部屋に戻る前にすることが色々とありますので、しばらくは部屋に戻りません。…恐らく15分後くらいになると思います。では、よろしくお願い致しますね?…あとは、先程も言いましたが、私の目をごまかそうだなんて野暮な真似はしないことをお薦めしますわ。その場合、契約違反とさせていただきます。勿論、人間ですから、お手洗いなどに行きたい場合には、部屋においてある呼び鈴を鳴らしてください。きちんと管理をせねばなりませんので。これに違反した場合は、左手の小指を頂きます。では、始めてください。」

では、副長。失礼致しました。と言って総悟を護衛しつつ、副長室を後にした。


すぐ部屋の前に到着した。ではどうぞ、宜しくお願いしますね?と言ってその場を去る。中に入り、襖が閉まったのを確認してから、呼び鈴をならしてからでは襖に触れると電気ショックが走る魔法をかけた。ちなみにこの魔法は、私が考え出したオリジナルのものである。ラテン語の組み合わせで、いくらでも魔法を作り出すことができるのだ。
私はその場を離れ、空室の部屋に入り、真選組の制服に着替えた。最後にスカーフを巻き終えて、そして着ていた着物をきれいに畳み、バッグの中に仕舞う。腰の刀は健在だ。片付けが済んだとき、呼び鈴が鳴った。どうやら掃除が終わった模様である。バッグを持って部屋へ戻ると、襖を開けてすぐのところに総悟(かれ)が大人しく座っていた。

_「沖田さん?…掃除が終わったのですか?」

_「そうでさァ。…今しがた掃除し終わったところでィ。」

_「そう。それはご苦労様でしたね。では、お礼にこれをどうぞ。」

と言って、ゴティパのチョコレートの箱詰めをあげると、にっこりと総悟(かれ)は笑った。

_「ありがとうごせェやす。…ところで姐さん、今度真選組で預かることになった佐々木家のご子息について、なにか知ってることとかありますかィ?」

_「佐々木家…?何という名前なのですか?」

_「まだはっきりとは分からねェんですが、どうやら『鉄之助』っていうらしいですぜィ?」

そうですか、と相槌を打っておく。勿論、鉄之助(かれ)のことなら知っているが。真選組に入るであろうことも知ってはいたが。真選組(ここ)では言わない、知らない振りをするのがお約束。

_「…なるほどね。初めて聞いたわ。…でも、確か佐々木と言えば、今度新設される警察組織の(トップ)の名前でしょう?…もしかして、それと鉄之助(かれ)は関係あるのかしら?」

_「さすがは姐さんですねィ。…そうでさァ。近藤さんも言ってやしたが、どうやらそんな感じのようですぜィ?」

_「そうなの。私も小耳に挟んだだけだったから、まさかそうだったなんて知らなかったわ。」

_「…とか言って、本当は姐さん、知ってたんじゃねェんですかィ?」

危ねェ。バレてる。

_「いやぁね、知るわけないじゃない。釜をかけてるでしょう?」

_「姐さんのことですぜィ?やっぱり色んな情報持ってんじゃねェか、って聞いてみたんでさァ。…でも、姐さんもご存じなら、情報は共有されたってことでいいですかねィ?…姐さんが戻ってくる前に、近藤さんから一応、伝えておくように、って言付けられてたもんで。じゃ、オラァここいらで失礼しやすぜィ?」

_「了解。情報共有、ありがとうね。じゃあ、今からは自由よ。お疲れ様。」

お疲れ様でした、と軽く頭を下げ、総悟は小走りにその場を去っていった。まて、することも終わったので、副長に仕事を貰いに行かなければならない。だがその前に、バッグの中身を片付け、薬を作る部屋を拵える作業を済ませることにした。部屋を作り終え、バッグから一式道具を出して薬剤を刻み、あとはただ煮込むだけにして鍋を火にかけてから、副長室へ向かった。もちろん、薬は弱火で時間のかかるものである。
改めて副長の部屋へ向かい、失礼します。久坂です。と声をかけると、入れ、とさっきのリプレイがあったので、遠慮なく襖を開けて中に入る。
 
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