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Unoffici@l Glory

作者:迅ーJINー
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1st season
  13th night

 
前書き
そろそろ自分でもちゃんと書かないと。 

 
 流離いの天使が撃墜されてから一ヶ月ほど。高級車を専門に取り扱うチューニングショップ、「ガレージフェイト」。営業時間終了後に、黄色いインテRの青年がやって来た。オーナーである「金色の不死鳥」が彼を出迎え、喫煙ブースに通す。

「よぉ、最近よく来るな」
「面白い噂が転がってないか、気になってね」
「そうかい」

 このショップの取引先は、主に高級車を中古販売する店である。依頼があればどんな車でも直し、どんなチューニングにでも対応するというその技術力が、業界でも評価され始めたためだ。本来最初に新車で手にするオーナーである富豪は最新モデルを常に欲しがる。そんな彼らはモデルチェンジ毎に乗り換えてしまうため、少数ではあれど市場に流れてくるのだ。

「まぁ、そういう噂はここには滅多に来ないよ。金の話ならいくらでも転がってくるけどな」
「それは結構。私も別の伝で稼ぎ口は持っているさ」
「さよけ」

 しかしそのまま乗り捨ててしまうのもまた、彼らのプライドに関わるのか、捨て値でブローカー等を通して市場に流してくる。不死鳥曰く、最初のオーナーである富豪達は、その車で取引先などに行く関係から、整備も清掃もしっかりやらせるために酷い状態では来ないとのこと。だが彼が受け持つことになる車の大半は、二番目三番目と所有者を渡っていった物がほとんどである。経過年数もあるのだろうが、移っていく度に状態が酷くなるため、最終的には怪物として仕上げていかなければ売り物にならなくなるとか。

「走りの噂が聞きたいなら、ここよりいい店は知ってるよ」
「ほう?」
「「Garage carcass」。あそこなら、そこそこな数の走り屋が集まるから、一度顔を出してみるといい」
「他の店の宣伝までするか。もしかして、そこと繋がりがあるのか?」
「ないとは言わない。取引先の一つだ。あそこでどうしようもなくなった車が、怪物に仕上げることを条件に、たまにウチに持ってこられたりはするね。ホレ」
「お、すまんね」

 青年のタバコに火をつけた彼から時折語られる「怪物を作る」という言葉。デモカーであるアウディR8を見るに、間違いではないのだろう。

「待てよ、それじゃあまさか噂の「D」は……」
「18年前だぞ?俺ら今何歳よ?俺だって現物を見れるなら見たいもんだ」
「……それもそうか。親父さん方も知らないんだっけな」
「知ってたら何かしらリアクションでわかるさ。それにしても、お前さんが見たって言ってた車、なんだったっけ?」

 その話だけは、即座に否定した不死鳥であった。そして彼は、青年に走り始めた動機を聞く。

「ん?あぁ、あれはな……」




 同時刻。グレーラビットはメンテナンスを依頼していたNSX-Rを引き取り、首都高に繰り出していた。深川線からの湾岸合流エリア。右コーナーを抜け、下りの直線でアクセルを踏み込む。その足にはいつも以上に力が入っていた。

「……ここまで踏んでもブレやがらねぇ……こっちはようやく慣れてきたってところなのによ」

 咆哮を上げ、後輪を蹴飛ばすNSX-R。メンテナンスの際に聞いた男の話によれば、エンジンは前期のC30Aをベースに各部補強をし、ツインターボ化したとのこと。それに合わせて各パーツを補強し、今回ターゲットと指定した赤いFD3SとS15には十分勝ちうる所まで仕上げたという。

「……だが、こんなMonsterが作れるショップならもっと有名でもおかしくない。一体何者なんだ、あの男は……」

 彼は疑問を胸に、雄叫びを上げるNSXーRを踏み込み、湾岸からレインボーブリッジ方面へと抜けていく。幾多の雰囲気組や中堅ドライバーなど、様々な走り屋を置き去りにしながら。




 再び、「ガレージフェイト」。インテRの青年が語るには、身内のヤンチャなグループが車にのめり込んでいた時期があり、首都高サーキットにも解禁当初からいたという。

「その時にはもういたんだよな?お前さんの言うバケモンポルシェが」
「あぁ。確かカレラ4Sだったはずだ」

 ポルシェ911カレラ4S。車格としては最高速チャレンジをするような車ではない。だがその当時の青年からすると、まるで鬼神のような速さだったという。

「明らかに違ったよ。今思えば、あれは本当に走り込んでいないと出せない雰囲気だった。臨戦態勢に入るまで、全く他の一般車と変わらなかったのに、入った途端に重圧が襲ってきた」
「ふーん……そんな奴がいるとはね。初バトルだったから緊張してた、とかじゃなくてか?」
「最初はそう思ったよ。だが今や私もそれなりに走って来たつもりだが、あのポルシェより重圧を感じたことはなかったな」
「それはまた」

 その正体は、未だに青年自身でさえも掴めていない。それを探ることもまた、彼が走る目的なのかも知れない。話が一段落したところで、青年はタバコの火を消す。

「それでは、私はそろそろ行くとしようか」
「お、誰かと約束かい?」
「約束をしたわけではないが、売ったケンカをそのままにはしておけないだろう?」
「それは大事だ。で、誰に吹っ掛けた?」

 青年は不死鳥に、一ヶ月前の「雷光の疾風」とのやり取りを話した。それを聞いた不死鳥は一瞬呆気にとられ、理解した途端に笑い出す。

「クハハハハハハッ!そうか、「奴」に吹っ掛けたか!」
「……知っていたのか?」
「最近やけに疾風さんが気合い入れまくっててよ、あちこちのドライバー食い散らかしてる噂をよく聞くなぁと思ったら、まさかお前さんのせいだったとはな!これが笑わずにいられるか」

 不死鳥は肩を震わせながらタバコの火を消すと、立ち上がって喫煙ブースを片付け始めた。いつもここだけは、他の従業員に清掃だけやらせて、片付けは自分でしている。青年の他にも、こういう時間に来る客の相手をするためだと不死鳥が漏らしたとか。

「奴との結果報告、楽しみに待ってるよ」
「そういうお前こそ、「R4A」にケンカ吹っ掛けるんだろう?無茶だけはするなよ」
「それは約束できねぇなぁ。今の俺じゃ、どんな無茶しても勝てるかわかんねぇよ、あのバケモンGT-Rには」




 同日、日付が変わる頃、辰巳第一PAにてグレーラビットが火をつけたタバコをくわえ、ベンチに腰かけた。湾岸合流からベイブリッジへ抜けるルートは、彼なりに色々掴めた様子。

「……冗談じゃねぇ……」

 まるで激務でくたびれた若いサラリーマンのように、思考が出口の見えない迷路をさ迷っている。吐き出す煙が闇の中へ浮かんで消える様子を眺めながら、彼はかつて投げ掛けられた課題の答えを求めて空を見上げた。

「……あの野郎が抜かしてやがった二台……さっさとケリをつけてぇんだかな……」

 今乗っているNSX-Rを借り受けた青年から告げられたターゲット、C2湾岸・ベイブリッジルートに現れるドライバーではトップと言われている、赤いFDと赤いS15。それっぽい車を見つけては吹っ掛けてきたものの、どれも彼からすれば『本物』とは思えないレベルの相手しかいなかった。

「……どうも」
「……アンタか」
「調子は……その様子だと、行き詰っているようですね」

 グレーラビットはその質問に答えない。見ればわかるだろうと言わんばかりに。

「焦る必要はありません。まだ会う時ではない、そういうことです」
「……その二台と、連絡つくのか?アンタは」
「ええ、まぁ。つけようと思えば。でなければわざわざターゲットに指定はしませんよ」
「なら……」
「でもそれでは意味がない。予定されたバトルなら、あなたに預けたNSXが有利すぎる」

 あくまでエンカウントバトルの中で勝つのが条件、と青年は言い切った。

「心配せずとも、いずれ出てきますよ。ただ彼らにも生活があり、走るリズムがある。慌てても何にもなりません」
「……そうかよ。まぁ、今日はもう帰るわ」

 吸いきった煙草をガラ入れに捨て、グレーラビットはNSXに乗る。求める相手はいまだ見えずとも、無慈悲に時は過ぎるのみ。目標が見えない中走っていることもまた、彼の思考が晴れない要因なのであろう。、 
 

 
後書き
バトルなし回。 
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