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戦国異伝供書

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第二十四話 奥羽仕置きその八

「しかと緒を締めてな」
「被っておられますな」
「その様にしておられますな」
「今だからこそ」
「勝ったからこそ」
「勝って喜んでおる」
 今の信長もそうだ。
「しかしな」
「その時こそですな」
「落ち着いて、ですな」
「周りには気をつける」
「そうすべきですな」
「刺客がおるとする」
 信長はその危険もわかっていた、天下を目指すとなれば何時誰から襲われるかわかったものでないことをだ。
「何時狙うか」
「油断する時ですな」
「その狙う相手が」
「そうした時こそです」
「刺客は仕掛けてきます」
「だからじゃ」
 それでというのだ。
「わしはこうした時こそじゃ」
「用心されていますな」
「この様に」
「そうですか」
「うむ」
 その通りだというのだ。
「この様にな」
「では、ですな」
「今こそ気を引き締めて」
「そのうえで岐阜まで戻り」
「そうされますな」
「殿、何かあれば」
 信長にとりわけ強い忠誠心を持つ者の一人である佐々が言ってきた。
「それがしがです」
「わしをじゃな」
「お護り致します」
「無論我等もです」
「これまで通りお傍にいますぞ」
 信長のすぐ後ろから毛利と服部も言ってきた、信長を常に護っている二人がだ。
「ですから何があろうとも」
「ご安心を」
「そして飛騨者達もいます」
「殿の御身は何があってもお護りしますので」
「兜を被られる用心と共に」
「我等のこともお忘れなき様」
「わかっておる、ではこれからも頼りにさせてもらう」
 信長も彼等に笑って応えた。
「これまで通りな」
「そうして頂くと何よりです」
「我等も」
「ではな、しかしじゃ」 
 ここでこうも言う信長だった。
「お主達これまた相変わらずじゃな」
「と、いいますと」
「何がでしょうか」
「弾正を気にし過ぎじゃ」
 松永のことを言うのだった、見れば彼は今はその場にいない、実は今先陣を務めている森がそのすぐ傍に置いているのだ。
「これまたな」
「いえ、気にし過ぎではないかと」
 前田がすぐに信長に答えた。
「あ奴については」
「裏切ると思っておるな」
「はい、こうした時にも」
「よくこの度で何もなかったものですな」
 稲葉が見てもだった。
「何時か何時かと思っていましたが」
「若し何か動く素振りがあれば」
 安藤の言葉には既に剣が宿っている。
「その時にこそ」
「斬り捨て憂いをなくしていましたが」
 氏家の言葉も本気だ。
「隙を見せぬのでは仕方なきこと」
「だからお主達は気にし過ぎでじゃ」
 信長はここでも松永げの警戒と嫌悪を隠さない家臣達を窘めた。
「あの者を一方的に見過ぎじゃ」
「実は違うとですか」
「そう言われますか」
「実は悪い者ではないと」
「殿もそう言われますか」
「そうじゃ、わしはあの者を見ておるとな」
 松永、彼をというのだ。 
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