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永遠の謎

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644部分:第三十六話 大きな薪を積み上げその二十一


第三十六話 大きな薪を積み上げその二十一

「悪意に基かない醜さ、企みがあるからこそあの町には」
「戻られないのですか」
「そうです。ですから貴方も」
「しかし私は」
「いえ、帰るのです」
 デュルクハイムにもだ。こう告げたのである。
「宜しいですね」
「陛下、それは」
「私を王だと言いましたね」
 このことをだ。今は楯にする王だった。
「それならです」
「命令に従えというのですか」
「そうです。これは王の命令です」
 他ならぬだ。それだというのだ。
「わかりましたね」
「左様ですか」
「では。いいですね」
 また言う王だった。
「陛下、何故そうして全てを捨てられるのですか」
「私は捨ててはいません」
 王は穏やかな声でデュルクハイムの嘆きを否定した。
「そうしたことは一切です」
「ですが今そうして」
「この世にあるものだけが全てはありません」
 彼にもだ。王は言うのだった。
「私はまたあらたなものを手に入れるのですから」
「あらたなものとは」
「玉座です」
 まずはだ。それだというのだ。
「そして槍と聖杯です」
「その二つだと仰るのですか」
「そうです。ですから私は捨てないのです」 
 その目にだ。王が旅の先に手に入れるものを見ながら話すのだった。
「むしろ手に入れるのですから」
「どういうことなのか私には」
「おわかりになりませんか。ですが」
「去れと仰るのですね」
「貴方は貴方の人生を歩んで下さい」
 こうデュルクハイムに告げてだ。そのうえでだ。
 彼を去らせ。王は玉座に向かった。退くことを決められた、この世ではそうなった座にだ。
 デュルクハイムは項垂れて城を後にした。そうしてだ。
 麓の村に入った。そこに入るとだ。
 王に忠誠を誓う民衆がだ。口々に彼に問うてきた。
「大佐、それでどうなったのですか」
「陛下は」
「陛下はミュンヘンに向かわれますか」
「どうされるのですか?」
「いや」
 まずはだ。首を横に振ってだ。 
 デュルクハイムは目を閉じ塞ぎこんだ顔でだ。彼等の期待する声に答えた。
「陛下はノイシュバンシュタインの城を去られないとのことだ」
「ではミュンヘンには行かれない」
「そうだと」
「君達はミュンヘンまで陛下を御護りすると言ったが」
 民衆の他には兵達もいる。しかしだった。
 その彼等にだ。デュルクハイムは言うのである。
「無駄に終わる」
「無駄、そんな」
「それでは我々は」
「我々のすることは」
「なくなった」
 こう告げた。王に忠義を使う者達に。
「何もかもがだ」
「そんな、ミュンヘンに行けばそれだけで済むというのに」
「何故陛下はミュンヘンに行かれないのか」
「我々が何があっても御護りします」
「陛下には指一本触れさせません」
「その君達に危害を加えたくないのも理由だ」
 彼等も気遣ってのことだというのだ。
 
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