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永遠の謎

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616部分:第三十五話 葬送行進曲その十五


第三十五話 葬送行進曲その十五

「どうだ。飲まないか」
「ワインをですね」
「神の血だ。どうだろうか」
「それはあの城で頂きます」
 騎士も微笑みだ。そのうえでだ。
 王に礼儀正しく一礼してからだ。こう返したのである。
「陛下があの城の玉座に座られた時に」
「わかった。ではその時にな」
「はい、それでは」
 こうした話をしてだった。王はその旅に入ろうとしていた。その頃ミュンヘンではまた密談があった。
 大公は今度はホルンシュタインだけでなく首相のルッツとも会っていた。そうしてだ。
 彼は苦渋に満ちた顔でだ。首を横に振り言うのだった。
「では。一年と一日か」
「はい、それだけです」
「法にある通りです」
「陛下は退位となるのだな」
 大公はホルンシュタインとルッツに述べる。
「そうなるのだな。しかしそれは」
「確かに陛下は今も臣民や軍には圧倒的な人気があります」
 ホルンシュタインは事実を否定しなかった。決してだ。
 だが肯定的な事実だけでなく否定的な事実もだ。彼は口にするのだった。
「ですが我が国の財政をです」
「わかっている。しかしだ」
「大公は陛下の退位には今もですか」
「反対だ。あの方には私がお話したい」
 大公にしても逃れるつもりはなくだ。こう言うのだった。
「それであの方に浪費を止めてもらいたい」
「御会いできますか?今のあの方に」
「それは」
 そう言われるとだ。大公も返答に窮した。
 その大公にだ。ホルンシュタインは苦い声で述べたのである。
「そうですね。御会いできないのです」
「しかしオットーを出すのはよくない」
 大公は今度はだ。彼に対しての気遣いを見せたのだった。
「彼はそっとしておいてくれ。世に出すのは可哀想だ」
「わかっています。しかしです」
「あれを王にして私が摂政になればか」
「問題はないのですから」
「私が泥を被るのはいい」
 大公はそれはよしとした。大公とて覚悟がある。
 だがそれでもだとだ。大公は言うのだった。
「しかしそれでも。陛下もオットーも」
「傷つけるべきではありませんか」
「その為に最善の策だ。それはやはり」
「私はそれは退位だと思います」 
 ホルンシュタインも引かない。しかも一歩もだ。
 そのままだ。彼は大公に話すのだった。
「陛下の為にもなります」
「あの方にこれ以上か」
「はい、浪費による財政破綻」
 それが王に何をもたらすかというのだ。
「それはそのままあの方の名声を落とすのではありませんか」
「それはそうだが」
「大公もおわかりの筈です」
 ホルンシュタインは一歩も引かないまま述べる。
「これ以上の浪費は認められません」
「ではやはりか」
「はい、オットー様が王になられ」
 その心を病んでいる彼、そしてだった。
「大公殿下が摂政となられるのです」
「私が実質的にこの国の元首となるのか」
「大公にそうした御気持ちがないのはわかっています」
「私には野心はない」
 自分でそのことを言う大公だった。
「王家の者としての義務感はあるつもりだが」
「それでもですね」
「そうだ。私はそんなものは求めていない」
 どうしてもだった。大公には王の座を狙うという野心は起こらなかった。そのことを自分でもよくわかっていた。わかり過ぎる程に。
 
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