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永遠の謎

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615部分:第三十五話 葬送行進曲その十四


第三十五話 葬送行進曲その十四

「果たしたいことを果たせるのだからな」
「それでだというのですね」
「それはやはり幸運だと思うが」
「はい、確かに」
 王の幸運は騎士も認める。しかしだった。
 騎士はそれと共に王にだ。こうも述べたのだった。
「ですがそれは定まっていたことなのです」
「神によってだな」
「そうです。ですから幸運以上のものがあったのです」
「私が果たさなければならないことだったのか」
「城達を築かれること、そしてワーグナー氏のこともです」
「彼の芸術は私がいなければか」
 どうなっていたのか。それは言うまでもなかった。
「彼の芸術はこれだけ世には出なかったな」
「だからこそです」
「私が果たすべきだったのだな」
 そのことを言うのだった。
「ワーグナーのことも」
「確かにリスト氏という理解者もいました」
 王がこよなく愛するローエングリンはリストが初演指揮者を務めている。コジマの父でもある彼の尽力があってローエングリンは上演されたのだ。
 しかしだった。彼や信奉者達だけでなくだ。王がいてこそだというのだ。
「ですが陛下のお力があってです」
「彼の芸術が最後まで実現されたのだな」
「陛下があの方を助けられたからこそです」
「それも私の果たすべきことだったか」
「左様です。ですから幸運以外のものもあったのです」
 義務、それがだというのだ。
「神の定められたものがです」
「何度かそう言われたな、そういえば」
「私にですね」
「いや、他の誰かにも言われたと思う」
 その辺りの記憶は曖昧なところがあった。だがそれでもだった。
 王はそのことに心当たりがあった。それで言うのだった。
「私は果たすべきことがあるのだとな」
「そうです。そしてそれはです」
「間も無く全てが終わるか」
「そのことは神が御存知です」
 全ては神だった。予定説めいたものがそこにあった。
「しかし陛下は神に定められた方ですから」
「神が私を選んでくれたのか」
「この時代に。そしてこの国に」
「ドイツ。父なる国にか」
 ドイツ人達は祖国に対して父なる国と話す。そしてだ。
 そのことについてだ。王は言うのだった。
「私は生まれそうしてか」
「はい、その通りです」
「この国に残すか。この世界に」
「かつてはミュンヘンをドイツにおける芸術の都にされようと思っておられましたね」
「かつてはな」
 全ては過去のことだった。それは最早だった。
「だが。ワーグナーが去ってはだ」
「それは夢に終わったのですね」
「あの頃は夢が破れたと思った」
 そう思い絶望した。しかしそれはだったのだ。
「だがそれは私の果たすべきことではなかったのだな」
「それ以上のものがあったのです」
「そうだな。私にはな」
 そのこともだ。王は今認識したのだ。
 そしてだ。騎士に対して述べるのだった。
「神の定められた果たすべきことがな」
「ではその最後に」
「わかっている。最早な」
 微笑みを浮かべて。王は答えた。
 そしてだ。そのうえでだった。騎士に告げたのである。
 
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