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誇りにすべき父

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第六章

「これより」
「まずはここを出るぜよ」
 こうセンに話してだ、三人は大蛇と共に地下迷宮を出た。その頃はもう夜で観光客達もいなくなっていた。
 そしてアンコールワットの近くの森に入ってだ、そこでセンの墓を作ってそこに彼を葬った。僧侶の織田が供養のお経を唱えその後で大蛇はセンに言った。
「御前の父は見事だった」
「そうでしたか」
「見ていたが部下を大事にし勇敢でわしの様な一見すると化けものにも信義を守った」
 子を助け命を助けたというのだ。
「それが為にわしは今もいる、例え軍荼利明王様の使いでもあそこで霊酒をもらわねばな」
「十年もですか」
「飲まず食わずでいられなかった」
 そうして生きていられなかったというのだ。
「全てはそなたの父のお陰、そなたは父のことを誇りに思うのだ」
「立派な父だったと」
「そしてそなたも父に負けぬ様に立派になることだ」
 セン自身のことも告げた。
「よいな」
「必ずや」
「ではな。わしは子の場所に戻る。霊酒は領主に渡すがいい」
 最後にこう言ってだ、大蛇は三人と別れ森の中に消えていった。センと二人はこの後領主のことを探したがこのことはプノンペンの役所に聞けば丁度プノンペン議会の議員になっていてすぐにわかった。酒を渡すと領主はセンからことの一部始終を聞くと自分のせいでそうなったと恥じ入り犠牲になった者達の供養をあらためて行ってだった。
 酒は軍荼利明王に捧げた、大蛇が仕えている仏に。そうしてセンも二人に篤く礼を言ってプノンペンを出る二人を見送った。
 プノンペンを出るとだ、正岡の手にあるものが宿った、それはというと。
「伝習録じゃのう」
「書物ですね、陽明学の」
「そうじゃ、心の中で教えられてるわ」
 その書を手にしてとだ、正岡は自分の隣にいる織田に話した。
「この書はわしの頭を随分よくしてくれる」
「知力を上げてくれますか」
「随分な。それで試練を乗り越えてな」
「強くなられましたか」
「実感してるぜよ、ならじゃ」
 それならとだ、正岡は織田に満面の笑顔で言った。
「次の場所に行くか」
「はい、一つのことを終えて」
「人はまた次の場所に行くからのう」
「だからですね」
「次に行くぜよ」
 正岡は自ら足を前にやった、織田もそれに続く。そうして正岡の試練を終えた二人は次の場所に向かうのだった。


誇りにすべき父   完


                  2018・12・26 
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