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永遠の謎

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576部分:第三十三話 星はあらたにその二十一


第三十三話 星はあらたにその二十一

「私を理解して下さっているのだ」
「八年の間隔を経ても」
「理解して下さっている。その方にあの指輪を観て頂いた」
「そのこと自体が幸せですか」
「まことにな。だが」
「だが?」
「あの方はこれからより夜の中に入られる」
 闇ではなかった。そこだというのだ。
「その中にだ」
「そのことから離れられませんか」
「最早な。それは運命なのだ」
「あの方が夜に入られることは」
「夜は私の世界では何かを起こす場所だ」
 ワーグナーの世界ではだ。何かが起こるのは夜なのだ。
 だからだ。それでだというのだ。
「しかしそれと共に人が眠る場所でもある」
「そしてその夜に」
「あの方は入られる。人が眠り噂なぞしないあの中に」
「では陛下は」
「夜の。私の世界の中に入られるのだ」
「ですがそれは」
「この世では認められないことだ」
 人は昼にいるからだ。夜に入ることは認められなかった。
 だがワーグナーは夜についてだ。こう言うのだった。
「夜にもあらゆるものがある」
「ただ。見えないだけで、ですね」
「あの方には見られるのだ」
 そこが違っていた。王と他者は。
「しかし多くの者、今生きている多くの者はそのことをわからない」
「だからこそあの方を理解できないのですね」
「その通りだ。これは悲劇だ」
 王の人生そのものがだというのだ。
 そしてその悲劇はどうなるか。ワーグナーはそのこともわかっていた。それで今だ。コジマに対してそのことを静かに語ったのである。
「だがそれは終わる」
「終わる悲劇なのですね」
「しかもあの方にとっては幸福に終わる」
 そうなるというのである。
「私はそのことがわかるのだ」
「幸福に終わる悲劇ですか」
「魂は永遠だ」
 ワーグナーはこうも言った。
「それはこの世のことだけではない」
「別の世界に行ってもですね」
「魂は永遠に生きる。あの方はあの世界に生きられるのだ」
「あの世界とは」
「聖杯の世界だ」
 まさにそこだというのだ。
「そこに入られる」
「ではあの方はやはりパルジファルなのですね」
「正真正銘のな。それもクンドリーの接吻を受けた後のだ」
 その後のだ。王となる彼だというのだ。
「今は聖杯の城に入る前の旅路なのだ」
「しかしそれが終わると」
「あの世界に入られる」
 まさにそこにだというのだ。
「悲劇だが。その先には」
「幸福が待っている」
「そうだ。そしてあの方はだ」
 王についてさらに話していく。
「そこでも王であられるのだ」
「その世界でもですか」
「そうだ。永遠の王になられる」
 ワーグナーには見えていた。そのことが。しかしだった。
 コジマにはそのことが見えずだ。首を傾げるところもあった。
 今もだ。そうして言うのだった。
「その世界は私には」
「わからないか」
「あの方についてもおそらくは」
 完全には理解できていないことはコジマ自身にもわかった。だがわかるのはそのことだけでありだ。王のことをワーグナー程理解できていなかった。
 
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