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永遠の謎

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566部分:第三十三話 星はあらたにその十一


第三十三話 星はあらたにその十一

「そうなるな」
「実家に帰られたということになるでしょうか」
「里帰りか」
 王はここではごく普通の表情で述べた。
「だがその里帰りの場所は」
「それは何処になるでしょうか」
「できれば城に来て欲しい」
 王の築いているだ。その城達にだというのだ。
「それが望みだとだ。あの方にお伝えしよう」
「では今からですか」
「手紙を書く」
 王は皇后によく手紙を書く。皇后もだ。互いにそうしているのだ。
 その手紙についてだ。王は微笑みこう述べた。
「鴎にだ」
「そういえば陛下は」
「あの方をそう御呼びしている」
「そしてあの方もですね」
「私を鷲と呼んでくれている」
 そうしているのだ。お互いにだ。
「有り難いことにな」
「鴎と鷲ですね」
「私達は鳥なのだ」
 王は微笑んで述べた。
「空を飛ぶな」
「何かそれは」
「どう思う、そのことについて」
「幻想でしょうか」
 ホルニヒもだ。王に微笑んでこう述べたのだった。
「そうなりますか」
「幻想か」
「はい、空を飛ばれるのですね」
「私もシシィもな」
「やはり幻想的です」
 空を飛ぶからだ。そうなるというのだ。
「陛下は空もお好きですね」
「だからだ。何時か空を飛びたいとも思う」
 王の夢の一つだった。このことも。
「あの永遠に青いあの空をだ」
「鉄の翼で、ですか」
「そうだ。人は何時かそのことを可能にする」
 その鉄の翼で空を飛ぶことをだ。可能にするというのだ。
「科学、文明の力でだ」
「空を。人が飛ぶ」
「気球ではそれはもうできている」
 それはできていたのだ。既にだ。
「だが。それとは別にだ」
「鉄の翼で」
「空を飛ぶのだ。必ずだ」
「そして陛下もですね」
「私はアルプスを飛ぶのだ」
 王の愛するだ。そのアルプスの上をだというのだ。
「青い空と山の間をな」
「青ですね」
「青はいい」
 その色についてもだ。王は愛情を見せる。どちらの青にもだった。
 そしてだ。この青についても。王は述べた。
「我がバイエルンの色でもあるしな」
「国旗にも使われていますね」
「青は清純だ」
 それを表している色だというのだ。
「その清らかな青の間を飛びたいのだ」
「何時か。それが果たされることを」
「近い筈だ。それは」
 空を飛ぶ、そのことはだとだ。王は述べる。
「待っている」
「空ですか」
「その時まで私は。いや」
 言いかけたところで。王は言葉を訂正させた。その訂正する言葉は。
「ワーグナーが生きていてくれれば」
「ワーグナー氏ですか」
「彼がいなくなってしまえばもう」 
 どうなのかというのだ。王の愛するその芸術がなくなれば。
「それで私は生きていられなくなる」
「だからですか」
「それまで生きていて欲しい」
 ワーグナーを見ていた。今ここにいない彼を。
 
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