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永遠の謎

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565部分:第三十三話 星はあらたにその十


第三十三話 星はあらたにその十

「間も無くだな」
「バイロイトの上演ですね」
「そうだ。間も無くだな」
「はい、そうです」
 城の歌の間でだ。ワルトブルグの歌合戦、タンホイザー第二幕のそれを観ながらだ。王はホルニヒに尋ねていた。やはりここでもワーグナーだった。
「そして上演されるのは」
「指輪の残り二つだな」
「ジークフリート、そしてですね」
「神々の黄昏だ」
 最後は王自身が言った。
「あの作品もだ」
「そうしてあの作品が遂に完結しますね」
「壮大だ」
 王は指輪についてこう述べた。
「あまりにもな」
「ワーグナー氏の渾身の作品ですね」
「私は待ちきれなかった」
 ワルキューレの時のことをだ。王は言葉として漏らした。
「だからああしたのだ」
「そしてそれによってでしたね」
「私達は衝突した」
「しかしですね。それでも」
「そうだ。どうしてもだったのだ」
 自己弁護だった。今の言葉は。
「だが今度はだ」
「そうしなくてもいいというのですね」
「幸いな。そうせずに済む」
 王はそのことにだ。幸運を見て述べる。
「ワーグナーと衝突することは私にとっても避けたいものだ」
「だからこそですね」
「そうだ。バイロイトでの上演が楽しみだ」
 心からだ。王は言った。
「その時を今待っている」
「バイロイトでの指輪の完結ですか」
 ホルニヒは王程ワーグナーに造詣は深くない。しかしだった。
 それでもだ。彼もこう言うのだった。
「感慨深いものがありますね」
「そうだな。彼はあの作品は二十五年以上もかけて創り上げた」
 途中だ。中断もあった。それも長い間。
「それが遂に完結するのだ」
「バイロイトにおいて」
「ミュンヘンでないことが残念にしても」
「作品が完結することは」
「それが素晴らしい。ではだ」
「バイロイトに赴かれますね」
「そうする。ただしだ」
 どうかとだ。王はここでだ。
 憂いのある顔でだ。こう言ったのである。
「ただ。各国の君主達とは会いたくない」
「プロイセン王、いえドイツ皇帝や他のドイツ諸侯の方々とはですね」
「そうだ。会いたくない」
 ベルサイユでの戴冠式の時と同じくだった。そのことはだ。
「だからだ。最初の日は避けよう」
「他の日にですね」
「バイロイトに赴く」
 こうはっきりと言った王だった。
「鉄道はその日に用意しておいてくれ」
「畏まりました」
「そしてだ」
 バイロイトの話の次はだった。
「シシィだが」
「はい、エリザベート様ですね」
「あの方は何時この国に来られるのだろうか」
「まだ詳しいことは決まっていません」
 ホルニヒはそのことについてこう答えた。
「残念ながら」
「そうか」
「はい、しかしです」
「必ず来てくれるのだな」
「戻られると言うべきかも知れませんが」
「そうだな。あの方はな」
 ヴィッテルスバッハ家出身だからだ。そうなることだった。
 
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