永遠の謎
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557部分:第三十三話 星はあらたにその二
第三十三話 星はあらたにその二
「それではもうだ」
「バイエルン自体が」
「芸術の中心にはなれないのだ」
王が考える要のワーグナーがなければだというのだ。
「そして第一にミュンヘンがそれを拒んでいた」
「ワーグナー氏を排除しましたね」
「二度もだ。最早その町には苦痛しかない」
王は苦い声で述べた。
「その町に住む者達が私を常に見ている」
「観劇の間も」
「私にはそのことが耐えられない」
王は言う。
「ワーグナーを認めず。中傷により排除した彼等が私を見ることに」
「そうした理由もあってですか」
「こうしているのだ」
まだ開いていない幕を見ながらだ。王は話す。
「それに一人で観てこそだ」
「御一人でとは」
「そうしないと舞台は本当に楽しめない」
これは内向的な王らしい考えだった。
「集中できないのだ」
「そうなのですか」
「読書と同じだ」
王は書にも親しんでいる。教養はそこからも手に入れているのだ。
「だからこそだ」
「しかしそれはですか」
「世の者は快く思っていない」
そのこともだ。王はわかっていた。
「中には私を狂人だと言う者もいるな」
「それは」
「知っているのだ」
ホルニヒがそのことを言うまいとするところでだ。王はそれをさせなかった。
そうしてだ。ここではこう言ったのである。
「そうした話も」
「ですが」
「狂っているか」
王はまたしても悲しい顔を見せた。
「ヴィッテルスバッハ家の者は以前よりそう言われる者が多かった」
「口さがない言葉です」
「口さがなくとも言いはしているのだ」
このこと自体がだ。王にとっては苦しみなのだ。
そしてだ。王はそのことからさらに話すのだった。
「我が祖父殿もそうだったし」
「あの方ですか」
「あの方はただ美しいものを愛していただけだ」
その退位の原因となったローラ=モンテスのこともだというのだ。
「それが過ぎただけだ。そしてシシィも」
「皇后様ですか」
「あの方もだ。ただ繊細なだけだ」
「繊細故に」
「あの方は旅で御心を癒されているだけなのだ」
「しかしそのことは」
「殆ど誰も理解していない。ただ救いは」
皇后への救い、それは何かというと。
「皇帝陛下があの方を優しく見守って下さっている」
「そうですね。オーストリア皇帝は」
「あの方の理解者であられる」
皇后にとっては幸せなことにだ。皇帝は皇后を理解して優しい目で見守っていた。だからこそ皇后もだ。旅をしていられるのだ。そうした事情もあったのだ。
「だが。それでも口さがない者達は言う」
「皇后様もですか」
「狂気にあると言う」
その放浪故にだ。言われることだった。
「あの方はただ束縛や人の目に耐えられないだけなのだ」
「そうした意味では同じですね」
ホルニヒは王の言葉からそのことを察した。
「陛下とも」
「そうだな。私は芸術を観て」
「そして皇后様は」
「旅に入られている。だがその旅もだ」
「旅も?」
「芸術なのだ」
そうだというのだ。皇后にとっては旅がそうだというのだ。
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