| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

永遠の謎

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

547部分:第三十二話 遥かな昔からその八


第三十二話 遥かな昔からその八

「陛下、おめでとうございます」
「全て的を射抜いていますね」
「優勝は陛下となりました」
「では賞品を」
 こうそれぞれ告げてだ。王を讃える。しかしだ。
 その彼等にだ。王は不機嫌な顔で言うのだった。
「私は射撃は得意ではありません」
「おや、そうだったのですか」
「陛下は」
「そして私の射撃は一度も当たらなかったです」
 王にはわかっていた。このこともだ。
 それでだ。こう言ったのである。
「それで優勝なぞ有り得ません」
「ですがそれでもです」
「陛下は全て射抜かれています」
「その証拠に的は」
「嘘です」
 王はあくまで言う。
「私は嘘は好みません」
 こう告げてだ。賞品が差し出されてもだ。
 王はそれを受け取ろうとしない。それでこう村人達にまた告げた。
「優勝していない者には受け取ってはならないものです。そして」
「そして?」
「そしてとは」
「残念に思います」
 今度はこんなことを言ったのである。
「貴方達は私にとって好ましくない方々の様です」
「陛下・・・・・・」
「では」
 彼等にこれ以上告げずにだ。踵を返して村を後にしたのである。
 こうしたこともあった。その他にもだった。
 王の興味を惹こうとだ。王の前でわざと溺れてみせた女優もいた。だが王はだ。
 その女優をベンチに座ったまま見てだ。こう侍従達に告げた。
「あの方を救い出して下さい」
「陛下は」
「陛下に助けを求めておられますが」
「私はこうした芝居には応じません」
 素っ気無くだ。こう言ったのである。
「ですから」
「宜しいのですか」
「そうなのですか」
「しかしこのままでは本当に溺れてしまう危険もあります」
 王はそのこともわかっていた。それで言ったのである。
「ですから助け出して下さい」
「わかりました。それでは」
「すぐに」
「そしてあの御婦人に伝えて下さい」
 王はまた述べた。
「二度と私の前に姿を現さないで欲しいと」
「ではそのことも」
「御願いします」
 こう言ってだった。王は静かにベンチを後にした。そうした話を聞いてだ。
 ビスマルクは政務の間にだ。周囲に述べた。
「あの方らしい」
「バイエルン王らしいですか」
「そうしたことが」
「あの方は純粋な方なのだ」
 そしてこうも言った。
「パルジファルなのだ」
「ワーグナー氏が今構想されるという」
「あの歌劇の主人公ですね」
「話では歌劇ではなく舞台神聖祝典劇というそうですね」
「随分物々しい名前ですが」
「あの作品の主人公なのだ」
 まさにそれだというのだ。王は。
「清らかな方なのだ。しかしだ」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「あの方は愚かではない」
 パルジファルとは清らかな愚か者という意味だ。王は清らかだがそれでもだ。愚かではないというのだ。そしてその愚かさについてもだ。ビスマルクは言及したのだった。
「パルジファルも当初は愚かだった」
「どうも白痴の様ですね」
「そうした愚かさですね。あれは」
「原点や伝え聞く脚本によりますと」
「しかしその愚かさは消えてなくなる」
 これがパルジファルという物語の根幹にあるものだ。清らかな愚か者は愚かではなくなるのだ。清らかな賢者になりだ。聖杯城の主となっていくのである。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧