戦国異伝供書
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第二十二話 川中島にてその十
「この考えはな」
「そうなのですか」
「いつもわし等の前に顔を出しておるが」
柴田は松永を見て彼自身にも言った。
「何時裏切る」
「そのつもりがないと言えば」
「それを信じると思うか」
「ううむ、そう言われますか」
「何度でもな、今度は上杉との戦じゃが」
織田家にとって次の正念場だがというのだ。
「若しもじゃ」
「それがしが何かする素振りがあれば」
「容赦せぬとは言っておく」
「それがしこれでも光の当たる場所にいたいのですが」
松永は笑ってこうも言った。
「それも常に」
「光!?」
松永の今の言葉に眉を動かしたのは竹中だった、それで彼にどうかという顔になってそのうえで問うた。
「それはどういうことでしょうか」
「言った通りのことで」
「光の当たるですか」
「そうした場所にいたいだけなのです」
「そうなのですか」
「闇にはいたくない、例えば織田家の色は青ですな」
具足も旗も陣羽織も鞍も全て青だ、無論礼装もだ。それが織田家だ。
「青い服や具足がどれだけいいか」
「お主、何が言いたい」
佐久間は松永の言葉の意味がわからず怪訝な顔で応えた。
「一体」
「ですから申し上げた通りで」
「光の当たる場所にいたくてか」
「青の衣をずっと着ていたい位です」
「わからぬことを言う、光に当たりたいなら」
それこそとだ、佐久間は松永に話した。
「昼に日の下に出ればよかろう」
「夜でもじゃ」
生駒も言ってきた。
「月明かりの下におれば」
「今もそうであるしのう」
山内もそこを言う。
「当然ではないか」
「織田家の青にしても」
堀は松永がやがて裏切ると思いつつも彼に述べた。
「織田家におれば当然ではないか」
「何故そう言う」
松井も首を傾げさせることだった。
「訳がわからぬわ」
「ははは、それがしどうも日陰者で」
松永は自分の言葉にいぶかしむ彼等に笑って話した。
「それで、です」
「そう言うのか」
「そうなのか」
「はい」
その通りというのだ。
「左様です」
「わからぬのう」
「一体どういうことじゃ」
「全く以てわからぬ」
「お主何が言いたい」
殆どの者が松永の言葉にいぶかしむばかりだった、そしてそれは彼に好意的な羽柴も同じでそれでだった。
松永に対してどういうことかという顔で尋ねたのだった。
「あの、それがしも」
「拙者の言葉がですな」
「はい、わからぬのですが」
「ですからそれがしは日陰者で」
「それで、ですか」
「光の当たる場所にいたく」
「織田家の青い中にもですか」
「いたいのです」
こう思うというのだ。
「それだけのことです」
「そうなのですか」
「闇が嫌になったといいますか」
「闇が」
「はい、闇にいるより光にいて」
そうしてというのだ。
「楽しく暮らしたいのです」
「それが松永殿のお考えなのですか」
「さおうなのです」
「ううむ、それはどうも」
「おわかりにはですか」
「はい」
どうしてもという返事だった。
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