戦国異伝供書
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第二十二話 川中島にてその九
「ここにおる猿とここにはおらぬが慶次だけじゃ」
「左様ですか」
「全く、猿ももの好きじゃ」
「まことにこ奴を信じるのか」
羽柴と特に親しい前田が羽柴に問うた。
「今も」
「うむ、わしはな」
羽柴も前田に友として答えた。
「松永殿は悪いとは思わぬからな」
「わからぬのう、何処が悪くないのじゃ」
「ここまで悪い奴はおらぬわ」
佐々も森並に松永を見据えている、そのうえでの言葉だ。
「何時よからぬことをするか」
「わかったものではない」
滝川も言い切った。
「それでそう言う猿はどうかと思うがのう」
「猿、お主にして珍しい見誤りではないのか」
蜂須賀も真剣にこう思っている。
「こ奴だけはな」
「お主もそう言うか?」
「言うわ、天下の大悪人ぞ」
松永、彼こそはというのだ。
「ならばな」
「そう言うか」
「そうじゃ、何度もな」
「ううむ、しかしわしはな」
どうしてもという口調でだ、羽柴は蜂須賀にも答えた。
「松永殿はな」
「悪人だとはか」
「何度も話したが」
「思えぬか」
「到底」
「しかしその所業を見よ」
松永のそれをというのだ。
「さすればじゃ」
「答えはか」
「出ておる」
既にというのだ。
「だからな」
「最早か」
「そうじゃ」
こう羽柴に言うのだった。
「既にな」
「ううむ、しかしわしにはな」
「どうしてもか」
「そうは思えぬ、その過去はわしも知っているが」
それでもというのだ。
「松永殿とじっくり話すとな」
「悪人に思えず」
「それでじゃ」
そのうえでというのだ。
「今もじゃ」
「付き合っておるか」
「親しくさせてもらっておる」
実際にというのだ。
「そしてそれはな」
「これからもか」
「恐らくな」
そうなるというのだ。
「わしとそしてな」
「慶次はか」
「それは悪いか」
「お主がそう言うならよいがのう」
「わしもそう思う」
筆頭家老として今いる者中で第一の座にある柴田も言った。
「お主がそう言ってじゃ」
「付き合うのなら」
「別にじゃ」
それならというのだ。
「よいがな」
「左様ですか」
「うむ、しかしじゃ」
「柴田殿や他の方々は」
「変わらぬ」
一切という言葉だった。
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