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永遠の謎

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534部分:第三十一話 ノートゥングその十五


第三十一話 ノートゥングその十五

「だがカトリックは違う」
「ドイツは滅ぼしませんね」
「亀裂を生じさせる。しかし」
「それでもですね」
「亀裂で済む」
 それ以上ではないというのである。
「修復が可能なだ」
「ではビスマルク卿は共産主義については共産主義よりはですね」
「緩やかなものになる」
 そうなるというのである。
「抑圧もな」
「全否定しなければならないものとバランスを維持すればいいものとですか」
「そうだ。カトリックもまたドイツの中にある」
 このことはビスマルクも否定できなかった。プロイセンもまた。
「そしてそのうえでだ」
「バランスを維持してですか」
「やっていくのだ。時が経てばその対立は薄まっていく」
「今は引き締めてもですね」
「その対立は弱まっていく」
 そうなるというのである。
「だから安心していい」
「このことについてはですね」
「そうだ。共産主義の問題と比較してもだ」
「その通りですね」
「しかしバイエルンの者達。カトリックはだ」
 当のカトリックのだ。彼等はだというのだ。
「そのことが理解できない」
「つまり我々は、ですね」
「規制される者は僅かな規制も望まない」
「それがドイツに必要なことであっても」
「受け入れられないのだ」
 そうだというのだ。
「どうしてもだ」
「はい、それもまたその通りですね」
「ドイツはまだはじまったばかりだ」
 統一されたドイツはだというのだ。
「まだ様々なことがあって当然だがだ」
「中々難しいことですね」
「そうだ。ドイツの舵取りは」
 内政だけでなく外交のこともだ。ドイツの舵取りは容易ではない。
 ドイツはこのことはわかる。だがそれでもだった。
 王はだ。沈んだ顔になり述べた。
「だが私は」
「陛下は」
「私はもうだ」
 こう言うのだった。
「現実というものについて思うことが少なくなってきた」
「現実に対して」
「ワーグナー。城に」
 この言葉を聞いてだ。ホルンシュタインは危ういものを感じた。王のその現実への倦みにだ。決していいものを感じなかった。
 だがそのことは今は隠してだ。王の話を聞くのだった。
「では陛下」
「何だ」
「程々に」
 これが彼がこの場で王に言うことだった。
「全ては中庸にです」
「中庸か」
「ビスマルク卿も中庸を目指されています」
 このことをこの時点において理解している者は少なかった。
「ですから陛下もです」
「バイエルンの為にだな」
「そのことを望みます」  
 それまでは王を見ていたホルンシュタインはここでは中庸を見ていた。その天秤をだ。
「私はバイエルンの為に動くことを常としていますので」
「その通りだな。卿は」
「はい」 
 王の言葉に答えてからだった。
 彼はだ。こう言ったのである。
「私は確かにプロイセン寄りです」
「それはただ卿がプロイセンの縁者であるだけではなくだな」
「あれも私が望んでそうしたことですが」
 具体的には縁戚関係にある。こうした意味で彼はバイエルンにおいては異質の存在だ。だがそれでもなのだ。
 
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