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永遠の謎

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529部分:第三十一話 ノートゥングその十


第三十一話 ノートゥングその十

「それでなのですが」
「何かあったのか」
「首相から陛下にお話がありますが」
「旗のことだな」
 王はすぐにだ。ホルニヒに答えを述べた。
「王宮に掲げる旗のだな」
「はい、そのことで」
「新しく生まれるドイツの国旗かプロイセンの国旗か」
「どちらにされるのでしょうか」
「どちらでもない」
 まずはこう答える王だった。
「そのどちらでもだ」
「それは一体」
「ドイツ帝国はまだ誕生していない」
 王はまずだ。ドイツの国旗について述べた。
「だからだ。ドイツ帝国の国旗、既に定まっているにしてもだ」
「それでもですか」
「そうだ。ドイツの国旗は掲げない」
 だからだというのだ。ドイツの国旗は掲げないというのだ。
「そしてプロイセンの国旗はだ」
「それはどうして掲げないのでしょうか」
「我が国はバイエルンだ」
 これがプロイセンへの王の言葉だった。
「それで何故プロイセンの国旗を掲げるのか」
「そういうことですか」
「その通りだ。だからプロイセンの国旗を掲げる必要はない」
 不要とまで言い切った。プロイセンの国旗については。
「これはこれからもだ」
「普遍ですか」
「我が国がバイエルンである限りはだ」
 王は今の自身の言葉にはふと陰をさした。だがそれをそのままにして話すのだった。
「それはしない」
「では掲げる旗は」
「バイエルンの旗だ」
 まさにだ。それだというのだ。
「その旗を掲げる」
「そうされますか」
「その通りだ。首相には私から伝えよう」
 王はその遠くを見る目でホルニヒに話す。
「掲げるのはバイエルンの旗だとな」
「首相はそのことをどう思われるでしょうか」
「認めるだろう」
 そうなるというのだ。
「彼はプロイセンを嫌っているからな」
「だからですか」
「そうだ。だからだ」
 元々その為に首相になった。国民がプロイセンへの反感から前首相であるホーエンローエを排除させそのうえで首相になった者だからだ。
「彼は私のこの考えに賛同する。それに」
「それに?」
「私もだ。媚びはしない」
 王の言葉が強いものになる。
「王は誰にも媚びないものだ」
「だからバイエルンの旗ですか」
「そうだ。バイエルンの旗しかない」
 王は断言になっていた。
「これでわかったな」
「はい、それでは」
 こうしてだった。王は王宮にバイエルンの旗を掲げることを伝えた。そのうえで勝利を祝う旗はバイエルンの旗になった。ビスマルクはこのことをベルサイユで聞いた。
 そうしてだ。こう言うのだった。
「挑発だ」
「挑発ですか」
「そうだ。挑発だ」
 こう周囲に漏らしたのである。
「あの方のだ。だが」
「だが?」
「この挑発は受け入れるべきだ」
 バイエルンの旗を掲げること、それはだというのだ。
「プロイセン、いやドイツはだ」
「バイエルン王のその挑発をですか」
「あえてですか」
「そうだ、受け入れよう」
 ビスマルクはまた言った。
「その程度の度量はなくてはならない」
「ドイツ帝国としてはですか」
「そうあるべきなのですか」
「ドイツ帝国は多くの君主国家の連合国家だ」
 三十五の君主国と四つの自由都市によるだ。そうした意味でドイツは分権国家なのだ。ビスマルクが中央集権を目指し実際にそれに近くともだ。
 
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