夢幻水滸伝
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第七十六話 引き分けの後でその五
「戦うたい」
「この熊本城ば籠れば」
「それで、ですね」
「そうそう陥落しませんね」
「この城は」
「この城のことはもう知っていたばい」
純奈はあちらの世界でも生まれは熊本だ、その為熊本城はそれこそ幼い頃より何度も聞いてきたし中に入っても観てきた馴染みの城なのだ。
それだけにだ、強い声でこう言えたのだ。
「難攻不落、そう簡単にはたい」
「はい、攻め落とされません」
「例え空から攻められても」
「それでも」
「そうたい、だからたい」
それ故にというのだ。
「何かあればたい」
「籠城ばして」
「そうして戦いますね」
「そうするたい」
こう言ってだ、純奈は自ら兵を率いて北原が率いる軍勢に向かった。両軍は薩摩から見て肥後に少し入ったところで対峙した。
北原は肥後の軍勢を前にすると自ら陣の先頭に出て高らかに叫んだ。
「林どんはいるでごわすか」
「ここに」
純奈も応え前に出た。
「何用か」
「おはんに話があるでごわす」
自分の言葉に応えて出て来た純奈に述べた。
「実は」
「話とは」
「一戦交えるつもりでごわすな」
「如何にも」
純奈は北原に対して平然とした声で応えた。
「だからこそここにいる」
「そうでごわすな、しかし」
「出来ればか」
「ここは戦ばせんとでごわす」
「ことを済ませたいと」
「話で済めば何よりでごわす」
これ以上のことはないというのだ。
「そう思うでごわすが」
「それはこちらも同じこと。しかし」
「引くつもりはないでごわすな」
「その通り、優劣を決めるならば」
「それは話ではなく」
「今は戦を所望する」
それをというのだ。
「それが薩摩隼人であろう、そしてそれはこちらも同じこと」
「肥後もでごわすな」
「その通り、では」
「戦うでごわすな」
「退くつもりはない」
「わかったでごわす、では」
「命を賭けて」
純奈はその目を鋭くさせた、そうして北原に告げた。
「勝負」
「承知したでごわす」
北原も純奈の言葉を受けた、これが全てを決めてだった。
薩摩と肥後の戦は肥後においても本格的にはじまった、双方激しく攻め最初から死闘となった。だがこの日の戦は。
引き分けとなりお互いに多くの戦死者と怪我人を出した、それで北原は戦の後で薩摩の者達に言った。
「激しい戦だったでごわすが」
「戦死者は復活させて」
「怪我人の治癒も行ってですね」
「再び戦をしますか」
「そうしていきますか」
「おいどん達はそうしていってでごわす」
そのうえでとだ、北原は兵達に話した。
「林どんを引き付けて」
「そうしてですか」
「その間にですね」
「そうでごわす、又吉どんがでごわす」
彼がというのだ。
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