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永遠の謎

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523部分:第三十一話 ノートゥングその四


第三十一話 ノートゥングその四

「何かを得るのではなく全てを破壊するものはするべきではない」
「全くですね」
「それは」
「そうだ。戦争はそうしたものになっていく」
 全てを破壊するものになるというのだ。何もかもを。
「市民達によってだ」
「近頃知識人達は市民の台頭をいいものとしていますが」
「それを絶対の善、神の御導きだともいう感じですが」
「それは違うというのですか」
「閣下はそう御考えですか」
「絶対の善なぞない」
 これがビスマルクの返答だった。彼はこのことは断言した。
「市民達が若し狂えばどうなる」
「国家の主権者になる市民がそうなればですか」
「その国家も狂う」
「そうなるというのですね」
「全てが」
「そうだ。ましてそこに共産主義が入れば」
 彼はこの思想を忌み嫌っていた。その本質を見切っているからだ。共産主義の実態を知っている、そうした意味で彼はバイエルン王と同じだった。
「無政府主義や虚無主義にしてもだ」
「そういえば共産主義にはその二つの思想が強いですね」
「強く含まれていますね」
「彼等にとって共産主義にならなければ」
 どうかというのだ。それは。
「全てはないのと同じだ」
「自分達の主義主張通りにならなければどうでもいい」
「他のあらゆるものがですか」
「そうした意味で彼等は究極の利己主義者だ」
 これがビスマルクに見たものだった。
「その彼等が市民の中に入ればだ」
「それは恐ろしいことになる」
「極限の戦争になる」
「共産主義でなくとも市民が狂えばそうなる」
 全てを破壊する戦争が訪れるというのである。
「これからはな」
「暗澹たるものですね」
「何もかもをなくす」
「そうした時代になっていくのですか」
「そこには芸術も文化もない」
 この言葉を出したところでだ。ビスマルクは。
 バイエルン王のことを脳裏に思い浮かべた。そうして言うのだった。
「そうだな。だからこそ」
「だからこそ?」
「だからこそとは」
「あの方はそれを既に御存知だからこそ」
 周囲に構わずにだ。ビスマルクは言っていく。
「戦いそのものを忌み嫌われているのだな」
「あの方とは一体」
「どなたでしょうか」
「バイエルン王だ」
 このことは答えるビスマルクだった。
「あの方だ」
「そういえばバイエルン王ですが」
「我が陛下のドイツ皇帝への即位は推戴してくれましたが」
「しかしです」
「戴冠式には来られないのですね」
「代理に王弟であるオットー様が来られるとか」
「そうだな」
 彼が来ると聞いてだ。ビスマルクは複雑な顔になった。
 そうしてだ。こんなことを言うのだった。
「あの方も今はいいようだな」
「はい、落ち着いておられる様です」
「今は何とか」
「いいことだ」
 そのことについてだ。ビスマルクは好意的に述べた。
「バイエルン王にとってもな」
「バイエルン王は王弟殿下のことを非常に気にかけておられるそうですね」
「本当に心配されているとか」
「当然のことだ」
 そのことについてだ。ビスマルクは静かに答えた。
 
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