永遠の謎
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522部分:第三十一話 ノートゥングその三
第三十一話 ノートゥングその三
「臣民、いや市民はどう思うかだ」
「市民?」
「市民がですか」
「この表現は好きではないが」
市民という表現はだ。ビスマルクは好まないというのだ。彼の考えでは市民ではなく臣民なのだ。皇帝の下にいる、それであるというのだ。
「その市民達がどう思うかだ」
「この降伏についてですか」
「彼等が」
「受け入れるかどうかだ」
彼が言うのはこのことだった。
「果たしてな」
「市民の問題ではないのでは」
「それはです」
「幾ら何でも」
周りはビスマルクに首を捻りながら話す。
「既に皇帝は降伏されていますし」
「退位も決まり新しい政権が誕生しています」
「その政権が我が国と講和を選んでいます」
「それでどうして」
「現実を認めたくない者がいる」
ビスマルクはここでは冷徹に言った。
「我々に敗れたという現実がな」
「だからですか」
「その者達が暴発する」
「そうだというのですね」
「そうだ。そうなる」
ビスマルクは言う。
「特にパリだ」
「パリですか」
「あの町で、ですか」
「それが起こりますか」
「あの町はフランスの中でも特に誇り高い」
これはこの頃にはもう定着していた。所謂パリジェンヌのプライドはだ。最早肌に染み付いてそれでだ。完全に離れなくなっているのだ。
それが為だとだ。ビスマルクは話す。
「だからだ。彼等は講和に反対してだ」
「暴発すると」
「叛乱ですか」
「そうだな。彼等が何を称するかはわからないが」
それでもだというのだ。
「叛乱は起こるだろう」
「では戦争は続くのですか」
「まだ」
「そうだ。フランス軍で抑えられなければ」
それでだ。彼等もだというのだ。フランス人でない彼等も。
「我々も戦うことになるだろう」
「因果なものですね。それはまた」
「国と国の戦争が終わってもまだ戦争が続くとは」
「今度は市民とは」
「難儀なものです」
「おそらくこれからの戦争は違ってくる」
ビスマルクの慧眼は彼にそうしたものも見せていた。
「国と国、軍と軍の戦争ではなくだ」
「そうではないのですか」
「それで終わりではないですか」
「そうだ。市民と市民の戦争」
それは即ちだった。
「最後の最後まで行われる戦争になるだろう」
「では総力を尽くした戦争ですか」
「御互いに全てを賭けた」
「そうした戦争ですか」
「これからは一度戦争が起これば」
どうなるかというのだ。そうなれば。
「三十年戦争の様な惨状に至るまで行われることになる」
「厄介ですね、それは」
「そうなるとなると」
「そこまでに至るとなると」
「そうだ。私は必要だから戦争をするのだが」
ビスマルクにとって戦争とはあくまで政治の一手段に過ぎない。ましてやそうしただ。極限まで行われる戦争はだ。彼にとっても。
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