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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百八十八話 本を探しているとその七

「井伊直弼と同じ位評判悪いですね」
「ですから私もです」
「平家の方がお好きですか」
「はい」
 その通りとだ、畑中さんは僕に答えてくれた。
「どうしても。そして義経公もです」
「お好きですか」
「はい」
 また僕に答えてくれた。
「平家も好きですが」
「平家物語の重要な主人公の一人ですしね」
「吉川英治版でも」
「だからお好きですか」
「はい、読んでいて我が国のことも思いました」
「日本のことも」
「あの作品は日本の敗戦が反映されているといいます」
 畑中さんは僕にこのことも話してくれた。
「実は」
「そうだったんですか」
「はい、吉川英治は戦争を支持していました」
 別におかしいことでも何でもない、当時の日本人の殆どがあの戦争を支持していた。せねば生きられない戦争だったからだ。
 僕は太宰治がある作品で書いていた文章を忘れられない、親が負けるとわかっている戦争をする時に子供がついていかない筈がないということが書いてあった。親が日本で子供が国民となるのは言うまでもない。太宰治は自殺もしたし色々言われているけれどこの文章にはこの上ない潔さを感じるのは僕だけだろうか。
「ですから敗戦にです」
「衝撃を受けていましたか」
「虚脱状態になったとか」
 そこまでの衝撃を受けていたというのだ。
「暫くは」
「そこまでショックだったんですね」
「そしてそこから復帰しまして」
「その日本を反映してですか」
「書かれているといいます」
 あの平家物語はだ。
「そう思うと余計にです」
「畑中さんにしても」
「思うところがあります」
 そうだと僕に話してくれた。
「私も敗戦は忘れられないです」
「丁度戦争に出られていましたしね」
「日本には日本の想いがあり戦っていました」
「そのうえで全てが終わったとですか」
「私は思いました、そのうえで帰ってきて」
 日本、そして神戸にだ。
「どうしようかと思っていたのです」
「そしてその時にですか」
「当時の総帥様に言われました」
 三代前の人だ、今の総帥さんから数えて。
「ここからまたはじめればいいと」
「終戦直後の状況から」
「はい、再び」
「負けてもですか」
「敗れても心が折れなければ」
 それでというのだ。
「何度でも立ち上がれそして想いもです」
「それもですか」
「死なないと。そしてです」
「畑中さんはもう一度ですか」
「頑張ろうと思い再び八条家にお仕えし」
 そうしてというのだ。
「鍛錬も再開して書も読んでいきました」
「そうだったんですね」
「戦後共産主義が大々的に入り何かとありましたが」
「大学の先生とか酷かったらしいですね」
「私はそちらには染まりませんでした」
 共産主義、それにはというのだ。
「一切」
「畑中さんは共産主義には無縁ですね」
「八条グループ自体がそうですね」
「企業ですからね」
 企業は簡単に言うと資本主義そのものだ、それで共産主義と相容れる筈がない。このことは経営一族である八条家も同じだ。 
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