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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百八十八話 本を探しているとその一

               第百八十八話  本を探していると
 畑中さんが僕が今いる書斎に入ってきた、僕は美沙さんと小夜子さんの二人と別れてから書斎で三銃士を探していた、そこに畑中さんが来たのだ。
 すると畑中さんは僕にすぐに尋ねてきた。
「どの本を探しておられるのでしょうか」
「はい、三銃士を」
 僕は畑中さんに顔を向けて正直に答えた。
「探していますけれど」
「それなら文庫のフランス文学のコーナーにあります」
「そちらにですか」
「はい、そちらを探して下さい」
「わかりました」
 僕は畑中さんの言葉に頷いてそちらを探した、するとそこに実際にあった。
 それで三銃士の文庫本を手に取ってから畑中さんにお礼を言った。
「有り難うございます、お陰ですぐに見付かりました」
「いえいえ、しかし三銃士とは」
 畑中さんは僕にこの作品について話してくれた。
「よい作品を読まれますね」
「面白い作品ですよね」
「私もそう思います。若い時に読みました」
「学生時代ですか」
「貸本で借りて」
「貸本ですか」
「はい、まだ本は高い時代で」
 それでというのだ。
「借りて読んでいました」
「貸本ですか」
「ご存知ですね」
「一応は」
 僕は貸本という言葉に少し驚いてそのうえで畑中さんに応えた。
「そういえば畑中さんの頃は」
「はい、戦争後すぐに読みましたが」
「その頃はまだ貸本があったんですね」
「大体昭和三十年代まではありました」
「そうだったんですね」
「今は貸本というよりかは漫画喫茶ですね」
「あそこで読みますね」
 読みたい漫画が多いけれど買えるだけのお金がない人はだ、そうすることが多いと思う。
「寝泊まりも出来ますし」
「ですが当時はです」
「そちらで借りて読んでたんですね」
「そうでした」
「何かもう」
「想像がつかないですか」
「僕には」
 どうにもだった、本当に」
「そんな時代だったんですね」
「その頃のことです」
「そうでしたか」
「文章も今とは違いまして」
 訳している人が違うせいだ、それに時代によって文章が違うのは昭和から平成にかけてもそうだったりする。
「文語も混ざっている感じでした」
「そうだったんですか」
「ですが非常に面白かったです」
「三銃士の面白さはわかったんですね」
「はい、本当に戦後間もなくて復員してです」
 日本に帰ってきてというのだ。
「再び八条家でお勤めさせて頂いた頃です」
「大変な時代でしたよね」
「何かと。お仕事はありましたが」
 それによって食べることは出来た、だがそれでもというのだ。
「神戸も大阪もかなり焼けてしまっていまして」
「空襲で」
「孤児も多かったですし」
「火垂るの墓みたいなこともですか」
「やはりありましたし」
「大変な時代だったのは聞いています」
 僕にしてもだ、もう食べるだけでも大変だった時代だったとだ。
「終戦直後は」
「そうした時代に貸本で借りてです」
「読まれていたんですか」
「仕事そして鍛錬の合間に」
「そうだったんですね」
「思えば懐かしいです」
 畑中さんは僕に笑みを浮かべて話してくれた。 
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