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永遠の謎

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472部分:第二十八話 逃れられない苦しみその十六


第二十八話 逃れられない苦しみその十六

「どうしてもだ」
「それはプロイセンの考えでしょうか」
「もっと言えばビスマルク卿の考えだ」
 このこともだ。王は既に読んでいた。
「あの方はドイツ統一の仕上げとしてそれを考えておられるのだ」
「陛下に。プロイセン王のドイツ皇帝への推挙を」
「考えておられる。当然のこととして」
「あの方は陛下に好意を抱いておられたのではないのですか?」
 ホルニヒは怪訝な顔で王にこのことを尋ねた。
「確か」
「私としてはな」
「私ではですか」
「そうだ。私としてはだ」
 つまりだ。ビスマルク個人としてはなのだ。
 彼は王に好意を抱いているというのだ。しかしだった。
 それとは別にだ。ビスマルクは。
「だがあの方はプロイセンの首相だな」
「そこに問題があるのですか」
「公だ」
 プロイセン首相としての地位はそれになるというのだ。
「だからだ。公人としてはだ」
「陛下を」
「私を使うのだ」
「陛下がどう思われようとですか」
「それが政治だ」
 政治を知っているからこその言葉に他ならない。
「政治とは。公に徹するものなのだ」
「それ故にですか」
「あの方は私にプロイセン王をドイツ皇帝に推挙するように進めておられるのだ」
 王は虚ろな声でだ。ホルニヒにこのことを話した。
 その彼にだ。ホルニヒは。
 すがる様な顔になりだ。尋ねたのだった。
「お断りすることは」
「それか」
「はい、それはできるのではないのですか?」
 こうだ。王に対して尋ねたのあった。
「それはできませんか」
「私しかいないのだ」
 王の返答はこれだけだった。
「他の君主の方々にはできない」
「ではバイエルンでは」
「いない」
 一言だった。簡潔だった。
「王である私だけだ」
「それができるのは」
「そうだ。私しかいないのだ」
 また言う王だった。
「オットーはあの通りだ」
「あの方は」
「出来る筈がないのだ」
 狂気に捉われだ。外に出ることすらままならない彼はだ。到底無理だというのだ。
「本来ならだ」
「本来なら?」
「私は王を退きオットーに王位を譲るべきかも知れない」
「しかしそれはですか」
「できないのだ」
 それはやはりだ。オットーの狂気故になのだ。
「どうしてもだ」
「オットー様が狂気に陥っておられるから」
「私は王位を退けない」
 退位を願おうともだ。狂気の王を即位させる訳にはいかないのだ。
 だからこそだ。王は王でなければならない、そういうことなのだ。
 そのことをホルニヒに話し。そしてだった。
 今度はだ。こうホルニヒに話した。
「そして私という人間もまた」
「陛下御自身が」
「そうだ。バイエルン王でなくとも」
 ルートヴィヒ二世という個人としてもだというのだ。
 
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