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夢幻水滸伝

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第七十四話 南からその一

               第七十四話  南から
 北原はこの世界に来てまずは桜島を見た、そうしてその雄々しい火山を見てそのうえでだった。丁度自分の傍を通りがかった者に問うた。
「いいでごわすか」
「むっ、何でこわすか」
「ここは鹿児島でごわすか」
「そうでごわす、薩摩の国でごわす」 
 その者はこう北原に答えた。
「そしてあれは桜島でごわす」
「そうでごわすな、ただ」
 北原もそれはわかった、しかし。
 その桜島を見てだ、北原は首を傾げさせてそのうえでその者に問うた。
「何でおまんさあは着物着てるでごわす」
「?何がおかしいでごわすか」
「今時着物は何でごわすか、しかも」 
 さらに言う北原だった。
「おまんさあ人間でごわすか」
「人間族ではないでごわす」
 見れば顔が犬だ、そして身体全体をふさふさとした茶色の毛が覆っている。
「おいどんは犬人でごわす」
「犬人?」
「そうした人の種族でごわす」
「何か話がわからんでごわすが」
「そういうおはんは犀人でごわすよ」
「おいどんが犀でごわすか」
「そうでごわす」
 こう北原に言うのだった。
「鏡を見ればわかるでごわす」
「話が読めんでごわすが」
「読むも何も実際にでごわす」
「おいどんは犀人とやらでごわすか」
「というかおはん何者でごわすか」
「おいどんは北原当麻でごわす」
 北原は犬人に自分の名を名乗った。
「八条学園高等部工業科三年A組でごわす」
「八条?何でごわすか」
「神戸の学校でごわす」
「神戸って随分遠いでごわすな」
「鹿児島、いや薩摩からは随分遠いでごわすな」
「そうでごわすな、しかし」
 ここでまた言う犬人だった。
「おはん神戸まで行きたいでごわすか」
「というか何でおいどんは今薩摩に戻っているでごわすか」
 ここでまた首を傾げさせる北原だった。
「故郷に」
「おはんがここの生まれなのはわかりもっそ」
 犬人もこう返した。
「その言葉の訛り薩摩モンのものでごわすからな」
「そうでごわす、おいどん鹿児島市の生まれでごわす」
 実際にとだ、北原は犬人に答えた。
「それで今は神戸で学んでいるもっそ」
「そうでごわすか」
「しかし起きたらここにいるでごわす」
「それは妙な話でごわすな」
「しかも犀人になっているでごわすな」
「誰がどう見てもそうでごわす」
 犬人はまた北原に答えた。
「身体が大きくてしかもがっしりした体格の」
「西郷さんみたいな体格でごわすか」
「西郷さん?あの薩摩の守り神でごわすか」
「西郷さん知ってるでごわすか」94
「だからこの薩摩の守り神でごわす」
「いや、幕末と明治の志士で政治家でごわすが」
「志士?政治家?職業でごわすか」
 今度は犬人が北原の言葉に首を傾げさせた。
「そうでごわすか」
「いや、だから職業ではなくて」
 北原は犬人に西郷隆盛について説明しようとしたがここでまさかこの世界は自分が本来いる世界とは違うのではと思った、それでだ。
 言葉を途中で止めてだ、犬人にあらためて言った。
「少しこの世界のことを教えてくれるでごわすか」
「この世界のことでごわすか」
「そうでごわす、薩摩の国のことも」
 この国のこともというのだ。
「頼みもっそ」
「わかったでごわす」
 犬人も頷いた、そしてだった。
 犬人はこの世界のことをおおよそ話した、それでその話を聞いて北原も頷いた。そうしてこう言った。 
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