夢幻水滸伝
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第七十三話 荒波を見てその十二
「真言宗の」
「四国らしいのう」
真言宗は空海上人が産まれた地だけあって真言宗が多いのだ、八十八箇所巡りも空海上人に由来している。
「それは」
「はい、それでそのお寺が松山にあり」
「それでじゃな」
「拙僧はこちらの世界でも僧侶なのでしょう」
「そうじゃな」
「しかし家鴨人とは」
こちらの世界の西洋ではダックと言われる人と家鴨の間の子の小柄な種族である、織田自身家鴨が僧衣を着た様な恰好だ。
「これはまた」
「わからんか」
「それは。ただ寺のお池に鴨が住んでいまして」
「鴨をいつも見ちょったか」
「はい、それで鴨というか家鴨にもですね」
「親しみがあるか」
「ニルスの不思議な旅も好きですし」
主人公の少年が小さくなり家に住んでいる家鴨と鴨の群れと一緒に旅をする物語だ、非常に冒険的で幻想的な話であると言えるだろうか。
「そのせいでしょうか」
「そうかものう、それでじゃな」
「こちらの世界でも生きていますが」
「それでじゃな」
「はい」
まさにというのだった。
「正岡さんとお会いしました」
「そうなのじゃな」
「いや、面白いですね」
「ははは、寝たらこっちの世界におってな」
「こうした姿ですし」
「色々なことがあってのう」
「非常に面白いですね」
織田は笑って述べた。
「そしてこれも人生ですね」
「こっちの方でもぜよ」
「はい、何が起こるかわからず」
「そしてその起こることがきに」
「面白いですね」
「まっことその通りぜよ」
「左様ですね、あとですが」
織田は正岡にあらためて言った。
「今我々は讃岐にいますが」
「おう、それでわかるのう」
「うどんですね」
「そうじゃ、それを食べるぜよ」
讃岐名物讃岐うどんをとだ、正岡は織田にここぞとばかりに言った。
「それはもうじゃ」
「言うまでもないことですね」
「そうぜよ、わかっちょるのうおまんも」
「拙僧も知っていますので」
讃岐、彼等が起きている世界での香川県のうどんのことはというのだ、何しろうどんといえばここだからだ。
「ですから」
「おう、それでぜよ」
「今からですね」
「二人で食うぜよ」
「そうですね、そういえば」
「今度は何ゼよ」
「正岡さん天婦羅そばも召し上がられていましたね」
うどんと正対するこの麺類の話もした。
「そうされていました」
「あのことか」
「あれはやはり」
「そうぜよ、坊ちゃんぜよ」
夏目漱石のこのあまりにも有名な作品からとだ、正岡も答えた。
「あの作品の中で主人公天婦羅そば三杯食うてるのう」
「それにちなんで、ですか」
「わしも食うたぜよ」
その天婦羅そばをというのだ。
「美味かったぜよ」
「それはいいですが」
「三杯じゃ収まらんかったぜよ」
「四杯でしたね」
「それで酒も飲んだぜよ」
ここは坊ちゃんと違っていた、少なくとも作中で主人公はこの時は酒は飲んではいなかった。尚夏目漱石は甘党だったという。
「どっちも美味かったぜよ」
「そこは全く違いますね」
「ははは、そうじゃな」
「ですが拙僧も天婦羅そば、そして般若湯は好きなので」
「いいんじゃな」
「そう思いました、ではこれより」
「おう、うどんじゃ」
正岡は自分の隣にいる織田に笑顔で言った。
「今からたらふく食うぜよ」
「そうしましょう」
織田も笑顔で応えた、二人が四国を統一し関西との戦に入ったのはこの時からすぐのことであった。
第七十三話 完
2018・7・8
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