八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百八十五話 秋の二大イベントその六
「まだね」
「食べられるのですね」
「他の果物は全部平気だよ」
苺やパイナップルとかお野菜でもだ。
「腐っていない限りはね」
「本当に柿だけはですか」
「古くなって熟していると駄目なんだ」
「では適度に柿色で」
ここでオレンジとか橙とか言わないのが小夜子さんらしかった、実は柿のあの色は柿色という独特の色なのだ。
「青いところがない」
「そうした柿を買ってね」
「召し上がられていますか」
「秋になるとね」
その柿の味を思い出しながら小夜子さんに話した。
「もうそろそろ出て来るけれどね」
「スーパーにも」
「あと文化祭でも出るから、それでね」
「それで?」
「大食い大会もあるから」
「柿で、ですか」
「うん、それぞれの食べものであって」
柿だけでなく苺やオレンジでもある、他には鮪でもやっているしラーメンやおうどんでもやっている。
「学園のあちこちでやるよ」
「催しとしてですか」
「うん、わんこそばもやるしね」
東北名物のこれもだ。
「ジンギスカンもあるよ」
「それは面白そうですね」
「面白いよ、ただ柿は大抵富有柿だね」
大食い大会で出される柿はだ。
「そちらだよ」
「その柿ですか」
「種がなくて食べやすいせいかね」
「種は食べられないですからね」
「食べる人もいたそうだけれど」
「柿の種をですか」
「うん、江戸時代にね」
僕は小夜子さんにその人の話もした。
「いたそうだよ、徳川家光の前で食べたそうなんだ」
「柿の種をですか」
「正確に言うと柿を種ごとどんどん食べたんだ」
元は大食い大会で優勝してその食べっぷりを将軍に披露するということだったという。その時の話だ。
「それで将軍様も驚いたそうだよ」
「それは当然ですね」
小夜子さんもこの話には当然だと答えた。
「柿を種ごと食べることは」
「普通はしないからね」
「想像出来ません」
到底とだ、僕にも話した。
「流石に」
「それで将軍様も驚いて次からはね」
「種はですね」
「食べない様に言ったそうだよ」
「当然ですね、種は美味しくないでしょうね」
「硬いしね」
固い、ではない。この辺りの日本語の使い方が難しい。同じ様な意味でもそこにあるものが微妙に違うからだ。
「中に入っているものもね」
「美味しい要素はないですね」
「そう思うよ」
あんなの美味いとは全く思えない、本気で。
「あれはね」
「そうですよね」
「将軍様の言うことは正しいよ」
「はい、ただ徳川家光公だ」
小夜子さんはこの将軍様の話もした。
「想像していたよりも」
「それよりも?」
「気さくな方ですね」
「普通に庶民の食べっぷりも見てるしね」
「もっと厳めしいと思っていましたが」
それがというのだ。
「結構」
「武士の頂点っていっても人間と思っていたし」
将軍様自身をだ。
「それに農工商もね」
「自分と同じ人間とですか」
「身分はあっても」
それでもだ、当時の日本の考えでも人間であることは同じと思っていたのだ。
「そう考えていましたから」
「将軍様もですね」
「将軍様がそうしたいと言えばね」
流石に一介の町人からそうは言えない、公方様とでは立場が違い過ぎる。当時ではまさに雲の上の人だったことは事実であるしだ。
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