戦国異伝供書
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第十九話 急ぎ足その八
「水を飲んで明日も歩き続けるからのう」
「歩く中で汗をかき」
「そうしてですか」
「それで酒を抜け」
「そう言われますな」
「そうせよ、二日酔いになっても休んでおる暇はない」
今の織田家にはというのだ。
「だからじゃ」
「左様ですな」
「では明日も起きてすぐに歩きはじめ」
「途中で握り飯の朝飯を食い」
「歩き続けましょうぞ」
「そうするとしよう、では鍋に酒を楽しむのじゃ」
信長自身鍋を楽しんだ、そうしてこの日も織田家の軍勢はたらふく飯を食った、兵達は何日も朝から晩まで普段より休む時が少ないまま歩き続けていた。だがそれでもだった。
足軽達は力強く歩いていた、そうして口々に笑いながら言っていた。
「毎日たらふく飲んで食っておるからのう」
「うむ、朝昼晩とな」
「おやつも出る程じゃ」
「いつも腹一杯であるからのう」
「幾ら歩いても疲れることはない」
「寝てもおるしな」
夜はしっかりそうしているというのだ。
「だからな」
「存分に歩けるわ」
「これまでも相当歩いておるがな」
「ずっと歩けるのう」
「具足を漬けてなくて身軽であるしのう」
「殿の言われるまま存分に歩けるぞ」
「今もな」
それが出来ているというのだ、兵達は常にだった。
力強く速く歩いていた、竹中はその彼等を見て黒田に言った。
「兵達はたらふく食って寝ているので」
「英気があるのう」
「かなり歩いていますが」
「充分じゃな」
「一日かなり歩いていても」
それでもというのだ。
「存分に食い夜に寝て身体を休めていれば」
「それでな」
「はい、身も心もです」
まさにというのだ。
「充分に英気があり」
「歩くのも強く速いのう」
「よいことです、これもです」
「殿の采配じゃな」
「左様です、既にこの大返しを考えておられ」
「佐吉達に飯等の手配もさせていた」
「見事なものです」
こう言うのだった。
「当家が東西に強敵を抱えていることも考え」
「そしてじゃな」
「こうすることを考えられていた」
「だからな」
「今我等は順調に進めています」
信長が既にこうしたことを考えていてというのだ。
「全く以て恐ろしい殿ですな」
「そうじゃな、恐ろしい主君を持ったものだ」
「それでいてこの上なく頼もしい」
「素晴らしき殿じゃ」
「はい、それでは我等も」
「飯の時は食ってな」
そのうえでというのだ。
「そしてな」
「先に進みましょうぞ」
「うむ、それとな」
黒田はここでこんなことも言った。
「橋が多いが」
「はい、川には」
「これがな」
「我等の進軍にですな」
「かなり助けになっておるな」
「若し橋それも丈夫なものが少なければ」
その時のことをだ、竹中は話した。
「その時は」
「これ程までは進めませんでしたな」
「到底、しかし」
「今は」
「順調に進めておる、有り難いことじゃ」
「左様ですな、橋もまた」
架けておいてよかったというのだ。
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