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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百八十四話 遠くなったものその一

               第百八十四話  遠くなったもの
 早百合さんが演奏してくれた曲は軍歌だった、それは同期の桜だ。
 僕はその曲を裕子さんと共に聴いた、曲は五回奏でられた。つまり一番から五番までずっと演奏された。
 その演奏が終わってだ、早百合さんは僕達に言ってきた。
「歌詞はもうご存知ですよね」
「はい、もうそれは」
「何度か歌ってるしね」
 僕達はそれぞれ早百合さんに答えた。
「歌詞は全部知ってるわ」
「一番から五番まで」
「そう思って歌いませんでしたが」
 それでもとだ、早百合さんは僕達に話してくれた。
「この曲の歌詞も」
「戦前の、昭和までの」
「歌ですね」
「そうですね、悲壮感があって」
「反戦歌にも思える位ですね」
「悲しいです、ですが」
 確かに悲しさが感じられる歌詞だ、だがそれでもだ。
「そこに恰好よさがありますね」
「軍隊の中の友情と覚悟を詠っていて」
「はい」
 僕は早百合さんにはっきりと答えた。
「それは僕もわかります」
「しかしですね」
「ええ、今にそれがあるか」
 同期の桜の歌詞の恰好良さがだ。
「ないですね」
「本当に別の恰好良さですね」
「私もそう思います」
「昭和なんですね」
「本当に昭和は昭和です」
 早百合さんは裕子さんも見つつ僕に話してくれた。
「軍歌もそうで」
「他の曲もそうですし」
「人もです」
 その恰好良さもというのだ。
「昭和ですから」
「そうよね、若し今菅原文太さんが若くても」 
 平成に生まれて育つと、というのだ。
「平成の恰好良さでね」
「あの菅原文太さんじゃないですね」
「高倉健さんもね」
「無口で背中で語る感じの」
「そうした風じゃないわよ」 
 このことは絶対にというのだ。
「やっぱりね」
「どうしてもそうなりますね」
「私はそう思うわ、本当にね」
「あの時代はあの時代ですね」
「あの時代だけのことよ」
 まさにというのだ。
「実際にね」
「そうなりますか、やっぱり」
「昭和は遠くにっていうけれど」
「本当にそうなったんですね」
「そう思うわ、実際私も菅原文太さんは」
「今の時代の人じゃないですね」
「好きでも恋愛対象か」
 そうなるかというと。
「もう憧れでね」
「実際にお会い出来る人じゃないですか」
「伝説的な俳優さんとかじゃなくて」
「実際に近くにいるかどうか」
「もういる筈がないのよ」
 そこまでというのだ。
「そう思えるわ」
「現実の人じゃないですか」
「そうよ、恰好良さもね」
 これもというのだ。
「もう今は絶対にないから」
「憧れなんですね」
「ええ、今はいないっていう」 
 無言で背中で語る、それが無上の説得力がある様な。
「そうした人よ」
「ううん、本当に昭和は昔になりましたね」
「そうよね、だからね」
「余計に思うんですね」
「平成生まれとしてね」
「そうですか」
「私も早百合もね。ただね」 
 ここでだ、裕子さんは少し考える顔になって僕にこの人のことを話した。 
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