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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第121話 魔人は危機のようです

Side ―――

「ああ―――まぁ、本気でなぁ!!」


愁磨と『創造主神』から『創力』が解放され、今までで最も激しい戦いが始まるのを

感じたネギは、慌てて、惚けて座り込んでいた二人の傍を離れる。


「………はじ、まらない?」


しかし、超常者二人は利き腕(?)を差し向かい合わせたままの格好で止まり、魔法も

"宝具"の発動もせず、ただ世界を歪める程の重圧を放つだけだ。


「ぐぇっ!?」

「・・・踏まれに来たの?キモイ。」

「あら、危険回避だけは気持ち悪いくらい確実ね。勘が良いのかしら、気持ち悪い。」

「違いますよ!?てかそんなに気持ち悪いですか!?じゃなくて、あれの何が……?」


逃げた先には当然一番前にいたアリアがおり、丁度そこに転がって来たネギは当然踏まれ

て、ノワールと二人から当然の様に罵倒まで受ける。

まだ覚醒強化状態であり『神気』の重圧はあるのだが、『創力』を感じた後では初めての

時程の威圧感は無く、いつもの調子でツッコミと疑問をぶつけて来るネギに溜息をつく。


「ああなっちゃったら私達に出来る事はないわよ。」


そう言うと強化状態を解き本当に観戦モードに入ってしまい、ノワールでさえ何も出来

ない程なのかと、この世の終わりの様な顔になる。

面倒だが次に繋げる為、とノワールは仕事をする。


「ん、これ。」

「………瓦礫、ですか?」


疑問を呈したネギに手の平程度の瓦礫を投げて渡すと、更に困惑した顔をされ少し面倒に

なるが、いいから投げて見ろ、と謎の力を持って対峙する二人の方を指差さす。

ネギは嫌な予感がしつつもふつと込み上げて来た鬱憤により、それなりの力で射出する。

弾丸と化した瓦礫は数瞬で彼等の領域に迫り、空間に溶けるように消えた―――


「あれ―――」


―――ように見えた直後、更に加速して同じ軌道を戻って来た。

とは言え目視は余裕だったネギが、何気なくキャッチすると。

ピチャッ
「濡れ、つっ!?」


表面が濡れている、と感じると同時に、針で刺された様なチクリと刺す痛みを複数感じ、

跳ね返って来た瓦礫を確認し、愕然とした。


「なん、ですか……これは?地球……いや、惑星?」


それは、ぱっと見は地球のようであったが、まるで違った。

掴んだ時にあった海と思しき場所は零れ落ちてしまったが、恐らく木々であろう物が

大陸の形を成し、剣の様な塔――明らかな人工物が数本屹立していた。


「理解しているでしょう?それはもう"瓦礫だった物"じゃなく、"生態系のある星だった

物"よ。」


そこまで事実を突きつけられ、ネギは背筋を凍らせる。

自分の手の下に、見えないが、何千万、何億の命が潰れているのか、と言う恐怖。

そしてたった一瞬近寄っただけで、唯の石ころを生命溢れる惑星に変貌させる、想像する

事すら許されない力を持つ者への恐怖であった。


「そんな、馬鹿げた事、どうやったら出来るんですか……!?」

「私も『創造者』じゃないから、それこそ想像だけれど。星が出来る過程、生命が進化

する過程、時間加速、あらゆる法則の変更が重なってそれが出来たんじゃない?」

「り、理屈は分からなくはないですけれど……!」


訳が分からない、と手を向い合せたまま微動だにしない『創造者』二人を見る。

何が起こっているかは『創造者』以外には認識も理解も出来ない。当然、ネギにも。

しかし、僅かに変化があった。

ブシッ!
「あっ!?」


愁磨の頬がザックリと切れたのだ。

それも一瞬で直ったが、それを皮切りに、不定の間隔を開けて体のあちこちに傷を負う。


「あらぁ、やっぱり押されてるわねぇ。」

「や、やっぱりって、じゃあ助けないと!」

「・・・どうやって?なに、してるかも・・・分からないのに。」


冷静に味方の不利を認め、それでも動かないノワールに打開を促すが、アリアに再度

『創力』使いの戦闘状況を伝えられ、策を持たない自分も答えに窮し黙る。


「オーディエンスが暇そうだ、話でもしてやろう。貴様は踏ん張るしか出来なそうだから

まぁ、頑張りたまえ。」

「そりゃどーも……ぐ!」
バシャッ!

妙な事を言い出した『主神』に答えただけで、掠り傷だったダメージが跳ね上がり、

腕が水の様になり零れてしまう。

愁磨が喋る事すら許されない程の相手、と再認識し緊張するネギだが、意に介さず一人で

話し始める。


「さて、君達はなんとか介入しようとしているようだから、勘違いを正させて貰おう。

我々『創造者』…いや、『創造』の万能の力と思っているだろう?

その通り、『創力』とは低・中次元帯が操る"気"や"魔力"、上位次元帯が使うそれの昇華

である"神気"や"魔素"の、元となる力である。

ここで勘違いさせたのはそこの"魔人"の不手際だ。"創力"はそれらの延長上にある力では

ない。『創造者』ではない被造物では決して届かぬ力。絶対無比の力の『在り様』だ。」

「あら、絶対無敵、ではないのねぇ?」


主神が語る中、ノワールがからかう様な声色で問う。ご機嫌に話していたのを遮られ憤慨

するかとネギや『神』達であったが、返って来た感情は歓喜であった。

そして愁磨を圧倒しながらも意に介した風もなく視線を外し、振り向く顔は無いが、振り

向く様に動く。


「お前だけは聞いていたのか?それともただの勘か?ルシ…いや、ノワールであったな。

名は大事なものだ、特に創造者にとってはな。うむ。

質問、と言うよりは確認であろう。その通りだとも。創造者は全てを"超えうる"が、成さ

ねば超える事はない。まぁ、どんな力にも言える事ではあるが、少し意味合いが違う。」


と創造主神は僅かに声のトーンを落とし、無念そうに続ける。


「被造物はどうしても限界を設けてしまう。どれだけ強かろうとも、老い、満足、諦め、

慢心、傲り……理由をつけて己に限界を作ってしまう。或は弱点と言い換えても良い。

何故だ?」


問われた意図を汲む事が出来ず、ノワールも肩を竦めるだけだ。


「何故、強いままで居ないのだ?何にも屈さぬ程、どこまでも強くて良いではないか。

誰も彼も悲しまぬ様と願うなら、誰も彼も救える万能で良いだろう?」

「それは…………。」


それはそうだ、と皆が思う。彼等にとっては愁磨がそれだった。

傍若無人で唯我独尊かと思えば誰にでも優しくして、皆を影と表から支え、救って来た。

だからこそ―――それを崩している本人が何を言うのか、と。


()()が被造物の限界だからだ。」


思考を誘導した上での発言に、上位者達は眉を顰め、ネギ達は僅かに体を震わせる。


「君達はこの"魔人"に期待し、己が抗う事を諦めた。故に今動けない。

我が『魔人』足り得るか判断するのはただの二点だ。"限界が無い"事と、"限界を決め

ない"事、ただそれだけだ。ただの被造物は両方満たさず、そこな『創造者』は限界は

無くとも、限界を決めてしまった。この場で我と相対出来るのはこ奴だけだ。

分かったのなら大人しくして居ろ。恐らくすぐに終わる。」


話しは終わった、と"被造物"に興味を無くし愁磨に向き直る創造主神。

しかし、そんな絶対神に抗う事を決めていた四人が同時に動く。

アリアは『天合虎纏』を高"神気"へ変換し、もみじは『獄合犬纏』を高"獄素"へ。

刹那は己の気と強化を昇華させ"神気"とし、エヴァは、魔力と合わせ"獄素"とした力を

ノワールに叩き込む。

瞬間、高"神気"と高"獄素"の坩堝となっていた『獄合神纏』が、宿る魂と反応し、

『創力』と成る。

だが、それは絶対に有り得ない事。"そう"したのは創造主神なのだ。故に主神は"想像"

してしまう。創造者の枠組みからは外れられない者の性として、"想像"してしまった、

億分の一秒に過ぎない一瞬。


「『夢無明亦無(カインエグゾガンス))』ッッッッッ!!!!!」
――――――――― !!!!!!

それさえも無窮の中に消える程の速度。"時間"ではなく"次元"としての最速で投擲し、

一切の反応を許さず、愁磨と主神が創り出し続ける新たな理が綯い交ぜになった空間を

"力"で貫き、創造主神の体部分を全て消し飛ばした。

創力による攻撃は、例えそれが仮の姿でも絶対に"効果がある"事を主神自身が明言した

事により法則となった。その隙を追い詰められながらも狙っていた愁磨は、使い慣れよう

とも自身の認識により被造物の分類となってしまう能力群ではなく、唯一完全オリジナル

である『禁箱(パンドラ)』を開き、絶速の一撃を放つ。


「『終焉(オメガ)』-『追跡者(ザミエル)』『神槍(グングニル)』-『初源(アダム)』!

死、齎した者(メメント・モリ)』!!」


手を離れると同時に、"創造者の意思により追尾し貫く事を終えた事を初める"槍。

因果の逆転ではなく、単純な0と言う概念的な最も速い時間で対象を貫き続ける。

攻撃力はただの槍の一刺しだが、速度に特化した事により"強度"を得た創力による攻撃は

追跡出来なくなる程に対象を分解するまで止まらない筈だったが―――


【―――妙、ふむ、妙、である―――】

「チッ……!」


ノワールに受けた後はそのままに、いや、いつの間にか修復された状態で、最初に出現

した時と同じ様に、"分からない"状態に戻ってしまった。

何れはこちらに合わせる事を止めただろうが、早すぎた。

自分達に余力があると思うべきか、ほぼ情報を奪えなかったと思うべきか―――

だが、創造主神は揺らめき、攻撃の手を止めていた。


【―――最高の魂を持つと言えども被造物に過ぎぬ貴様が、何故"創力"に到る?

我はそんな創造をしていない―――】

「あら、創造主神ともあろう人………人?が想像力が無いわねぇ?」


疑問を呈する主神と煽るノワール。ただし今回は楽しんでいない主神からは憤怒の気が

発せられるが、意に介さず、これでもかと馬鹿にした風に告げる。


「私の中にはシュウの"魂"が半分あるのよぉ?幾ら使ってないと言っても、力さえ集め

てしまえば、『創造』は使えなくても"創力"にするくらい出来るわ。」


堂々と言ってのけるノワールに、主神は驚愕し、感嘆した。

如何に魂が半分あろうが、如何に最高の魂だろうが、"創造者"ではないのだ。それを成し

得たのは才能と優先度と鍛錬と根気と偶然と、"想像力"を持った事。そして他者の力まで

借りた一途さに、創造した者として大いに評価したのだった。


【―――なんと……しかし、そうか。我が最高傑作なだけはある。素直に言おう、予想外

だった―――】


瞬間、愁磨とノワールはその場を飛び退く。


【―――当然、もう出来ないが―――】


それぞれの存在する場所を世界ごと『消去』される。

"次元ごと"や"空間ごと"なら避けも無効化も出来た二人だが、ツェラメルの『創造』に

よる世界が他人の手によって消される様な不可能を前には無防備であった。

片足を持っていかれながらも動こうとし――


「………な、に?」

「どういう事かしら、ねぇ?」


――再生しなかった。

片足程度なら『高速修復』の二段上位スキルの『回帰』で、次の瞬間には直っている筈

だった。しかし、未だ先の無い足からは鮮血が垂れ流される。


【―――『被造物の全ては私に結果を齎す事は無い』、ルールを忘れたか?

拡大解釈だ。これ以上抵抗するなら、それは私に対する干渉と見做す、"とした"―――】

「クソが、自由過ぎるだろ!!」

【―――潔く倒れるが良い、"魔人"よ―――】


先程よりも巨大な"力"の気配が、二人を覆った。

Side out 
 

 
後書き
雪の予報がチラつく中、漸く投稿出来ました。
私は既に二回風邪を引いたので、皆様も体調にはお気を付けください。 
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