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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第120話 魔人達は相対するようです


Side 愁磨

【―――ここまで苦労して私を呼んだ"創造者"は貴様が初めてだ―――】


それを認識した瞬間"黒水晶の棺"から脱出し、更に覆う数を増やした筈なのだが、剣を振り

下ろした状態を戻されていた時と同様、"黒水晶の棺"は解除され、奴とネギがいつの間にか

外に立っていた。ネギは傷も全快して、だ。


「そりゃすまんね、こちとら大元は凡人なもんで。」


いつも通りの余裕な仮面を何とか保ち、眼前の敵の解析を少しでも、と試みる。

しかし当然だが、スキルや異能、更には自分で創造した『鑑定系』能力を使っても欠片すら

見る事は出来なかった。

それもそうだろう、何度見ても『そこに居ない』のだ。今まで出会った全員を合わせても

足りない程の存在感でこちらを圧し潰そうとして来るのに、目の前にいると言う気配が

しない。今いる次元全てから奴の気配がするかと思えば、やはり目の前の『コレ』から

強い気を感じる。『コレ』と言うのも姿形が分からない為の形容詞だ。

それは声も同じで、前か、周りの空間から聞こえる様で、頭に直接聞こえる様でもあるから

非常に聞き取りづらい。


「ああ、私は今褒めているのだ。私が来るまでに破綻を呼ぶ程強くなった『創造者』は

百種程居たが、貴様のように初志より私の登場に因果を結んで物語を歩んだ者は居なかっ

た。私は知られていながら、『創造者』には無視されるのが常だったのでな。

嬉しいのだよ。」

「そうかい、色々気を使ってくれてるようで俺も嬉しいよ。」


思考を読んだのか、目の前に姿が形成され、声もそこから人と同じ様に聞こえて来る。

だが造形にまでは気を使わなかったらしく、靄か光の様な何かが人の形を成している

だけだ。その厭らしさに苛立ちつつ、中継していた映像を切る。ここから先は暫くの間、

外の人間が知る必要のない展開だからだ。


「それで?態々来てくれたって事は、漸く俺を排除すべきと認めてくれたのか?」

「漸く?……ふむ、『答えを出す者(アンサートーカー)』と言ったか。可能性のある良い能力だ、もっと応用

すべきだな。貴様を認めたのはもう少し前、貴様が初めて『創造』した時だ。」

「―――へぇ、それは驚きだ。」


最も使い慣れた能力に助言を貰ったのが更に気に食わなかったが、それ以上に驚いた。

全てを把握されているのは想定していたから、狙われ始めるのは因果を結び始めた頃―――

ツェラメルと戦う少し前あたりかと思ったが、そんな前からとは思いもしなかった。

・・・初めて『創造』したのは"エクスカリバー"だったな。正規の時間にしても600年前の

事だからすげー懐かしい。

つまり、あの時のノワールの驚愕加減が正しかったって訳だ。となると、だ。


「それ程までに珍しい"例"な訳か、俺は?」

「貴様を戦闘において遥かに凌駕する"創造者"も、『創造』の能力全般のレベルが高い者も

山の様に居る。私が規定した『創造の名』に近づいた"創造者"も少なくはない。

しかしそれも数千・数万と言う歳月を経ての成果。

他の"創造者"ならば並行世界の全て見通して数例しかない可能性・確率を、貴様は全ての

並行世界で"初めて"で成し遂げ、あまつさえ『貴様』は引き当てた。

故に私は『愁磨・P・S・織原』の基本を、原点を、起源を『貴様』と言う個体とした(・・)。」


勝手に人を"聖人の遺体"にしないで欲しい所だが、問題はそこじゃない。

問題は、こいつを呼び出す為に、因果をなるべく『この俺』――今となっては"基本の俺"と

なったが――に収束すべく、並行世界の俺を取り込んだ事。

そしてその際、復活点として"繋ぎ"だけした俺を残したのだが―――


「お前にとっては好都合だった訳か。『この俺』さえ始末すれば『並行世界の俺』も、

『並行世界の俺だった』のも纏めて消去出来るんだからな。」

「理解が早くて助かるよ、最も私に近づいた創造者よ。そう、『創造者』にするのは

容易いが、こうなった場合が面倒なのだ。『創造者』は他の被造物とは違い、私自ら手を

下さねば"消去"出来ない。並行世界……いや、『可能性世界』のある程度重要な分岐を

一つずつ潰して行く作業の面倒な事。貴様らにとっては一瞬かもしれぬが、私にとっては

百年の仕事なのだ。」

「面倒なんだったら無視しといてくれませんかねぇ………?」

「如何な『創造者』とて、無限に放置すればいつかは私に届くのだ。『創造主神』として

看過する訳にもいくまい?誰だって死ぬのは嫌な物だろう?」


まぁそりゃそうだが、と半分呆れながらに返す。

妙に説明口調で面倒な奴だと初めは思ったが、どうもそうではない。話す度にテンションが

上がって来ているのだ。

人と話すのが久しぶりなのか、そもそも初めてなのかは知らないが。

兎も角、想像していたような性格の奴ではないらしい。


「ならば仕方ない、嫌々だろうが死んで貰おう。」

「おいおい、そう急がんでも良いだろうに。折角初めて、手間の掛らぬ『創造者』と話せて

居ると言うのに……。まったく、どうしてこう被造物の思考と言うのはどの"次元"に居ても

同じになるのか、それだけが分からんよ。」


"アトロポスの剣"を抜いて向けるが、気にした様子もなく、明らかにガッカリした様子の

『創造主神』。余裕かマジなのか分からないが、それよりも言い方が気になった。


「被造物に"次元"を当て嵌めるのか、お前は?」

「………ああ、貴様らにとって"次元"とは概念の重なりであったな。私にとっての"次元"

とは『如何に私に近いか』、『如何に自由か』でしかない。そもそも『能力』と言う概念

こそが一次元から三次元…低次元被造物の括り。

四次元からは概念を扱う程度で分け、十次元となれば低位の神――貴様等の言う"アカ

シックレコード"の管理者となり、十一次元で有から有を創り出す上位の神、十二次元と

なれば無から有を創り出す創造神の次元だ。」


随分大雑把な説明だ。

だがこいつにとっては、十次元からが"それなりに気にすべき"案件"で、それ以外は十把

一絡げと言う事なのだろう。


「そして、十二次元と私の狭間が『創造者』の次元。まぁ貴様らも『創造力』と言う無から

有を生み出す手前、十二次元との違いは優先度だけだがな。」

「神話の最上神よりお前に近いってのはやる気が出るが、優先度?その神様達は『創造者』

じゃないみたいな言い方だな?」

「分かっているのだろう、その通りだとも。私と同じ『創造』の力を持つ者を『創造者』、

設定しただけの『創造の能力』やそれぞれの世界で発生した『創造の能力』を持つ者を

『創造能力者』と区別している。優先度については副次的な効果だ。

どれ、実戦で試そうか。」

「そう、それじゃあ参加させて貰おうかしら。」


話に区切りがついた所で、漸く抑えられていた俺の家賊――いや、もう普通に家族か――が

後ろに並んだ。一応の奴の"姿"を囲まないのは、奴の本体がアレではないであろう事を説明

していたのを理解してここに来てくれたと言う事だ。


「行くぞ。ノワール、アリア、もみじ、最終覚醒化だ。」

「ようやくね―――行くわよ!『獄合神纏』!!」

「ん、『天合虎纏』・・・!」

「よしゃーー!かんぜんかいほーーー!『獄合犬纏』!!」


まずは天界・地獄の神気・及び獄素使用者の上位覚醒。ノワールは以前使った聖と魔では

なく、神気と獄素を纏う。

姿はほぼ普段と同じだが、翼から更に翼が生え、『明星の彗星(ルシファーズスピア)』が二倍の長さに

変化し、巨大な印象を与える。

アリアは同様に神気と『神虎(シェンフー)』だが、真の力を発揮出来るようになった。

14,5才への変化だったのが17,8才程への成長を遂げ、3mの銀色の狼だったのが2m程の

虎となったが、数が倍の8体となっている。

そしてもみじは、『地獄の番犬』と獄素を全力行使で纏う。真紅の美しい髪は荒々しい

毛並みとなり、毛先に行くにつれ漆黒に変わっている。


「≪闇神(アインブルク・デュンケルヘイト)≫!!」「≪神獣虎王(ガトリッヒ・アイン・クーリッヒ)≫・・!」「≪冥獣堅炎(オブスシーヴェス・ネクトフェイバー)≫!!」
ドンッッ!!
「木乃香、ネカネ、しずな、テオ、アリカ、真名、刀子。大罪で裁け。」

『『『「我が抱きし罪よ、原罪を現せ!!」』』』


七人丁度、それぞれが傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、 異端、耽溺を己の武器に宿し、

武装として現界させる。差異はあれど、救世主服に悪魔の翼が生えた姿となる。


「エヴァ、刹那。我らが翼を持って敵を穿て!」

「ふん、足を引っ張るなよ、どっちつかず。」

「これが終わればまた敵ですよ。……行きます!!」

「「光皇・闇皇・虚神・空神・煉獄・神域!!!」」


修業により翼族流強化術を最終まで施せるようになった唯二人。一強化毎に背中から一対の

翼の様に光が迸り、俺やノワールの様に"六対の翼"を持った。


「"創力"により『王の財宝』解放、全宝具真名解放。及び『禁箱(パンドラ)』結合!!」


そして魔力ではなく"創力"を注ぐ事により、財宝内で強制的に即座に使用出来るように

なり、かつ他の支援型宝具の効果を即座に受け強化される。

中は神霊英霊の持ち物だけでなく、異世界の装備品が詰まりに詰まっており、その最強群が

一斉に雄叫びを上げる。


「《モード:『神子殺之故神槍《ロンギヌス》』》付与、全砲撃(フォイア)!!」


ラグナロクの総撃を超える斉射に絶対必中を付与し解放したが―――


「………出ないわよ?」

「………ああ、出ないみたいだな。」


しっかり"創力"を消費したにも関わらず、発射されなかった。とは言え想定した内だ。

拳銃で例えるなら、メンテして弾込めてスライドを引いて撃鉄を起こすまでは出来たが、

安全装置は外せなかった、みたいな感じだ。


「セーフティまでかけるとは、随分慎重な事で。」

「先程の話になるが、優先度の主要効果だよ。『被造物の全ては私に結果を齎す事は

無い』。だがここに『創造者』は当て嵌まらない。何故だと思うね?」

「逆だろう?『創造主神と創造者は創力によってのみ効果を齎し合う』と言うルールだけは

絶対に遵守させる為の……そう、副次ルール。優先度、だろ?」

「やれ、本当に。こういうべきだったか………"君の様に勘の良いガキは嫌いだよ"、と。」


考えていた台詞まで吐きやがる所なんか、俺の頭の中を覗かれているようで気持ち悪い。

だがこれで、俺がこいつに出来る事は一つだけとなった。あと試すのは――


「・・・一つだけ。」
ゴゥッ!!!

待ってました、とアリアが両腕に『神虎(シェンフー)』を宿らせ、それを合図に皆も必殺の

体勢に入る。


「なんのつも「『神霊獣双拳』!!!」
GGuOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!

二頭の巨虎を筆頭に、数千の羽弾と黒い四条の光と白い螺旋が奴に向かう。

驚きを感じさせたのも束の間、自分より僅かに右に逸れている事に気付く。


「――――!」


身を翻し、脇に置かれたままの"ネギ"を庇う。

奴を頭から完全に排除し、他の目標を狙えば或は――と試したが、この場合なら問題なく

技を繰り出せた。とは言え、流石に全員成功とはいかなかったが。

星の数十は破壊出来る技が、光の靄に触れると、何事も無かったかのように掻き消えた。


「……この試みに意味があるとは思えないがな。直接的にも、間接的にも、余波としてで

さえ、被造物では私に結果を齎さない。」

「ハハッ!俺より『創造』に詳しい奴とは思えない発言だな!」


ネギを放り投げながら言う呆れに、俺は嘲笑で返してやる。すると、少し怒ったような

感情が返って来る。

『創造』と言うのは必ず結果を先に決めて行うものだ。ならば当然、あれはどうだ、これは

どうだ、と迷いがあれば、『創造』にかかる時間は長くなり、強度も下がる。

これはこと、こいつとの戦いでは致命的な差となる。


「如何に万能系の『創造』だろうと―――いや、特化させた方が強いのは『創造』も同じ。

だからこそいらん選択肢を排除した。」

「……成程、手間を掛けるのが本当に好きらしい。」


『ここからだ』と言外に言うと、奴も右手をこちらに突き出してくる。

『創造』に最も適した構えなのか、俺の真似をしなくてはならないのかかは分からないが。


「つまり、ここからは一対一(サ  シ)と言う事だな!!」

「ああ―――まぁ、本気でなぁ!!」


瞬間、俺と奴から『創力』の濁流が溢れ出した。

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