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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica25-Cインターミドルの好敵手~Settlement~

†††Sideアインハルト†††

ジークリンデ・エレミア。私たちチームナカジマが目指すインターミドルチャンピオンシップ。その一昨年の大会にて世界代表戦を制し、実質10代女子最強の称号を得た格闘家。そして、私の先祖クラウスと繋がりのある、黒のエレミアの子孫でもある。ヴィクターさんから、黒のエレミアについて憶えておくように、と言われたので、あの日からクラウスの記憶を探り、ジークリンデ選手の試合映像を何度も見た結果・・・。

(昨夜ようやく思い出しました)

ヴィルフリッド・エレミア。愛称はリッド。元はオリヴィエ殿下の友人として聖王家の治めるアウストラシアに招かれ、後にオリヴィエ殿下が留学と言う体でシュトゥラに訪れたことで、彼女もまたシュトラへと顔を見せるようになった流浪の民エレミアの1人。

(オリヴィエ殿下が幼い頃から、そしてゆりかごに搭乗する王として召還されるまでの数年を、共に過ごしていました)

そうは言ってもフラリと半年ほど姿を消すなんてこともあったようですが、その関係は実に良好のようでした。クラウスはリッドのことをオーディンさんにも紹介したかったようですが、終ぞ叶うことはなかった・・・。

「あの、明日のトレーニングの予定はどうなのでしょうか?」

「明日は、今年・・・じゃねぇな。去年のインターミドルで都市本戦8位入賞のエルス・タスミン選手に午前中お呼びして、バインドの怖さをお前らに叩き込ませる予定だ」

ヴィヴィオさん達が「おお!」と目を輝かせる。皆さんにとって上位選手は憧れの存在ですから、お会い出来ることが嬉しいようです。私としても繋がれぬ拳、アンチェインナックルという対バインドの打ち方を覚えましたが、確実に打てるような錬度ではないので、バインドを駆使する相手とのスパーリングは願ってもいない話です。午前中となれば、午後は空いているのですよね。

「あの・・・」

「あ、悪い、アインハルト。2ラウンド目が終わる」

ノーヴェさんが展開した空間コンソールを操作し、試合中断のブザーを鳴らしました。シャルさんとミカヤさんが互いに鞘へとデバイスを収め、解除された結界――試合場からこちらへと歩いてきました。

「ふぅ、私のような付け焼刃の剣術じゃ本格的な技には苦戦するな~。ミカヤちゃん、強いね~」

「何を仰る、シャルさん。あなたから1ポイントも奪えていない。正直ここまで差があるとは。心が折れそうですよ」

知らぬ間に呼び方が変わっていたお2人に、ノーヴェさんとイクスさんが先ほどのインターバル同様にタオルとスポーツドリンクを手渡しました。

「さっきちょろっと聞こえてきたんだけど、ヴィクトーリアがジークリンデを確保したんだって?」

あんな激しい剣戟の音の中で、ノーヴェさんの声を聞き取れたことに驚きです。

「ほう。まさかジークともスパーリングの約束をしていたのかい?」

「あーいや。そういうわけじゃないんだけどさ。ご先祖様関連でヴィクターが会談をセッティングしてくれることになったわけなんだが・・・。どうだ、アインハルト。エレミアの記憶について何か思い出したか?」

ノーヴェさんにそう聞かれた私は、昨夜思い出したリッドについての話をした。すると「やっぱエレミアの血族は遺伝なのかね~」とシャルさんが苦笑しました。

「と言いますと?」

「ジークリンデも、いつの間にかフラっといなくなることが多いみたいね。最近もまた失踪してるみたいだし。確保したって話だから、探してくれたんだろうね」

「シャルさん、何か相応しいっすね。ジークリンデ選手のこと知ってるんですか?」

「ザンクト・オルフェンの評議会、つまりフライハイト家と六家の役割には、古代ベルカより続く一族の監視というのがあるからね。エレミア一族についても昔から監視はしてるの。ジークリンデとは、あの子が幼い頃に何度か会った程度ね」

改めてシャルさんという、ベルカ関係にお強い方と出会えて良かった。ですが「私とジークリンデ選手が会ったとしても、何を話せばいいのか・・・」と私は困惑していることを伝えた。

「あー、そうですよね。アインハルトさんは覇王イングヴァルトの記憶を受け継いでいるけど、ジークリンデ選手もリッドさん?の記憶を受け継いでいるとは限りませんよね」

ヴィヴィオさんの言うとおりです。記憶を辿っての昔話というわけにもいかないですし。クラウスとリッドは友人関係ではありましたが、話に花を咲かせるほどの饒舌ではありませんでした。

「ジークリンデは、アインハルトのように記憶をそっくりそのまま受け継いではいないけど、一応は歴代・・・およそ500年分のエレミアの戦闘の経験と記憶を受け継いでる。彼女もまた、アインハルトと同じ、先祖の記憶という鎖に縛られて過去と未来に迷いながら現在を生きているの」

ジークリンデ選手も、私と同じ・・・。それを聞いて話をしてみたくなった。先祖の記憶とどう向き合って過ごしてきたのか、聞いてみたい。ギュッと両拳を握り締めていると、「ヴィヴィオさん? イクスさん?」のお2人がそれぞれ私の拳に触れました。

「アインハルトさん」「アインハルト」

「大丈夫です。ノーヴェさん、明日の午後にお会い出来ないか、ヴィクターさんにお伝えください」

「おう。判った。っと、シャルさん、ミカヤちゃん。時間です」

「ん」「ああ」

インターバルを終え、最終ラウンドのために試合場の中央へと向かうシャルさんとミカヤさん。ノーヴェさんが結界を再展開して、試合開始の号令のために「レディー・・・」右腕を掲げます。

「ファイト!」

ノーヴェさんが腕を振り下ろしましたが、互いに抜刀の構えを取っていたお2人はその場から動かず。

「最終ラウンド3分。剣神イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトの魔法で相手をするよ」

純戦闘形態(ヴィルクリヒ・フォルム)

“キルシュブリューテ”が本来の長さへと戻り、鞘ももう無用だと言うように構築を解きました。

「ここからが本領・・・というわけですか」

「ええ。そういうわけよ」

シャルさんは右手に握る“キルシュブリューテ”をダラリと下げ、ミカヤさんは天瞳流としての抜刀の構え。先ほどまではすり足での移動でしたが、シャルさんは散歩するかのように軽やかな足取りでミカヤさんの元へと間合いを詰めていきます。それだけなのに今のシャルさんが恐ろしい。拳を交えてみたいという思いと、戦いたくないという思いが半々。

「光牙・・・」

“キルシュブリューテ”の刀身に魔力付加が成される。魔力出力の制限が掛けられているとはいえ、その濃度はかなり高い。直撃を受けることは撃墜と同義と思う。

――閃駆――

シャルさんの姿が消えたかのように錯覚し、その姿を視認できたのはミカヤさんの目の前に現れてから。

「月閃刃・・・!」

シャルさんの繰り出す斬撃は縦一線の振り上げ。

「水月ッ!!」

ミカヤさんは僅かに遅れての抜刀。それでも僅差で迎撃に間に合いましたが、一切の抵抗も出来ずに“晴嵐”の刀身が真っ二つにされてしまいました。叩き折るではなく切断する。その恐ろしいほどまでの切れ味に全身が総毛立つ。ミカヤさんも目を大きく見開き、驚愕に動きを止めます。

「ほら、ぼさっとしない」

「っ!!」

振り下ろしに切り替えられたシャルさんの一撃を、ミカヤさんは刀身が半分になってしまっている“晴嵐”で受け止め、鍔迫り合いに持ち込みました。そして左手で短い方の“晴嵐”を逆手に抜き放ち、シャルさんの腹部へと横一文字に斬り払うのですが、キィン!と甲高い音を立てて弾かれた。

「バリア魔法・・・!?」

シャルさんの腹部限定に真紅に輝く魔力障壁が展開されており、ミカヤさんの一撃を完璧に防御。鍔迫り合い中で“晴嵐”より左手を離してしまったことで、「くっ・・・!」ミカヤさんが押し負けて、肩膝立ち状態になってしまいました。押し返そうと全力で“晴嵐”を握るミカヤさんでしたが、シャルさんが突然引いたことで「ぅあ!?」前のめりに。

「炎牙月閃刃!」

「っ・・・!!」

シャルさんは炎を纏う“キルシュブリューテ”による右薙ぎを繰り出し、ミカヤさんは斬撃と爆発の両方のダメージを受け、一気にライフを0にまで減らされてしまいました。

「そこまで! 試合終了!」

コンソールを操作してクラッシュエミュレーターや結界を解除したノーヴェさん。シャルさんは大の字で倒れているミカヤさんの元へと歩み寄り、「ちょっと大人気なかったかな?」と尋ねながら右手を差し出しました。

「いえ。本物の騎士の実力を、この身に受けることが出来たのですから・・・。はあ、これが最強クラス・・・。いろいろとハンデを貰った上での敗北か・・・」

シャルさんの手を取り、立ち上がったミカヤさんは「私もまだまだだな」と一息吐きました。お2人はデバイスと防護服を解除して私たちの元へと戻り、最後の休憩へ。

「ところでシャルさん。もしジークと試合するとしたら、あなたやあなたの騎士隊は彼女に勝てますか?」

「勝てるよ。ルールありでもなしでもね。ジークリンデの試合映像を観た限り、私やルミナといった騎士は真っ向からの正攻法でも十分勝てる。まぁ魔力出力制限なしの条件付だけど。ルシルの場合は、彼に勝とうと考える時点で間違い。彼ならジークリンデを接近させることなく勝つだろうね。半径2km圏内をその場から動かずに殲滅できるから。何百何千発の射撃・砲撃、広範囲攻撃にバインド、防御魔法を無傷に近い状態で突破、んでルシルのフィールドを貫通できるだけの攻撃を繰り出す。その条件でようやく五分五分だしね。ルシルに勝ちたいならハンデ増し増しじゃないと無理」

クラウスの記憶どおりのオーディンさんの魔法をルシリオンさんが受け継いでいるとなれば、確かに勝つことなんて不可能に近いと思います。魔神オーディンとは、それほどまでに強大な魔導騎士でしたから。

「ジークには鉄腕、エレミアの真髄とも呼ばれる一撃がありますが、それについては?」

黒のエレミア。かの一族はベルカ最古の戦場格技、人体破壊技術においての絶対者。その一撃は例外なく削り、抉り、確実な破壊をもたらす。今年のインターミドルにて、ミカヤさんはその一撃を受けて敗北しました。その映像を観ていながら思い出せなかったことに私は呆気にとられました。

「鉄腕の正体は、魔法分類で言えばイレイザーと呼ばれる純粋魔力攻撃。破壊力は凄まじいけど、それ以上の魔力による攻撃や防御でどうにか出来る。ルシルにいたっては魔力吸収で完全に無効化した後、その魔力分を追加した反撃で墜としにかかってくるから、近接戦に持ち込めてもどの道近接カウンターの手痛いしっぺ返しを食らうだけ。ルシルがジークリンデに負ける要素は無い」

「なるほどです。騎士ルシリオンとも一度剣を交えたくなりました」

「やめておいた方がいいと思うよ? 変にトラウマ刻んでくるだろうしね」

シャルさんがそう言って苦笑しているところに、「お邪魔~!」と試合場へと響く声。そちらに目を向けると、修道服を着た少女がお2人、ここ試合場へと入ってきました。

「セイン! それにシャンテも!」

ヴィヴィオさんが大きく手を振りました。セインさんは、フライハイト家の四女でオットーさんやディードさん、イクスさんの姉であり、ルーツィアさんやルーツィエさん、シャルさんの妹にあたります。もう1人のシャンテさんという方については知りません。

「シャル! お昼のサンドイッチ作ってきたよ~! 自信作だから食べて食べて~♪」

「おお、ありがとう、セイン! シャンテもいらっしゃい!」

「は、はいっ! お邪魔してます、騎士シャルロッテ!」

「あはは♪ シャンテ、すごい緊張してる~♪」

シャルさんに微笑みかけられたシャンテさんはビシッと佇まいを直して一礼したのですが、その様子がヴィヴィオさんにとってはおかしなものだったらしく、楽しそうに笑いました。そんなヴィヴィオさんに「しょうがないじゃん!」と、シャンテさんは反論しました。

「別にそんなに緊張することないのに。おいおい慣れていって、シャンテ・・・んで、今日はどうしたの?」

「シ、シスターシャッハが、いつも自分だけとの手合わせじゃマンネリになるっていう話で、チームナカジマのみんなと手合わせしてもらってきなさい、と・・・」

「なるほど。まぁいろんな種類の選手と試合した方が成長は出来るだろうね」

「そういうわけだからさ、ノーヴェ。うちのシャンテも時々でいいからスパーリングの相手に指名してやってよ」

セインさん手作りのサンドイッチを頬張るシャルさんや、ポットから湯呑みにお茶を注いでるセインさんが、腕を組んで考えているノーヴェさんを見ました。

「ヴィヴィオ、コロナ、リオ、アインハルト。お前らはそれでいいか?」

「うんっ。シャンテの魔法もすごいし、わたし達のレベルアップになるのは間違いないと思うよ」

「へえ。シャンテさんってどんな魔法使うの?」

私も気になっていたことをリオさんが代わりに聞いてくれました。ヴィヴィオさんは答える前にシャンテさんへと視線を向け、自分が話してもいいのかどうかを確認。するとシャンテさんはニッと笑みを浮かべ・・・

重奏(アンサンブル)♪」

ベルカ魔法陣を足元に展開、魔法を発動しました。すると「おお!」リオさんが歓声を上げました。シャンテさんの姿が2人へと増えていたからです。この魔法は、「幻術・・・」ですか。確かに幻術使いとの勉強になります。

†††Sideアインハルト⇒フォルセティ†††

「セイン、ごちそうさま。カツサンド、とっても美味しかったよ♪ さてと。んじゃ、わたしはそろそろ仕事に戻るよ。ミカヤちゃん、ミウラ、シャンテ、どうぞゆっくりしていってね♪」

「はい、ありがとうございます」

「「ありがとうございます!」」

「オットー。シャルをお見送りしてきます」

「判った。シャル、いってらっしゃいませ」

「ん、ありがと、オットー」

シャルさんとディードが更衣室へと向かうのを「いってらっしゃーい!」と手を振って見送った僕たち。

「よし。まずは・・・ミカヤちゃん。晴嵐はどうだろ?」

「ああ、晴嵐のリカバリー機能からしてあと2分くらい必要だ。まぁ試合用の竹刀や木刀も持ってきているから、そちらを使おう」

「判った。じゃあアインハルトは、さっきと同じようにミカヤちゃんとのスパーリング。ヴィヴィオはリヴィアと、リオはミウラと、コロナはルーテシア、シャンテは・・・フォルセティ、お前が相手をしてやってくれ。シャンテはシスターシャッハと武器戦闘のトレーニングをしてるだろうし、お前は徒手格闘で攻めてやれ」

ノーヴェからの指示に僕が静かに頷いてると、シャンテが「そういやフォルセティとは初めてだっけ?」って顔を覗き込んできた。シャンテは元は不良みたいな子で、シスターシャッハにボコられて改心。今じゃシスターシャッハの弟子として、“ヴィンデルシャフト”と似たトンファーみたいな双剣型デバイス・“ファンタズマ”を振るう騎士見習いだ。

「うん。いつもはヴィヴィオと軽い手合わせ程度だったでしょ、シャンテ」

「まあそうだね。・・・ま、相手にとって不足なし。デバイス、魔法ありでやる? あたし的にはその方が楽しめるんだけど」

「僕もそれでいいよ。一応ノーヴェから徒手空拳で相手するように言われてるから、こっちは素手で行くけど」

「フォルセティがそれでいいなら、それで行こう。ファンタズマ、奏でるよ!」

シャンテが“ファンタズマ”を起動させて防護服へと変身したんだけど、「シャンテって痴女なの?」って僕は聞いた。

「そんなわけないじゃん。そんな真似したらシスターシャッハ達からドきついお仕置きされるんだし」

「だったらその防護服のデザイン変えた方がいいと思う」

シャンテはシスターなのに、乳房の下半分が見えちゃってるというか見せてる感じで、ちょっと目のやり場に困る。そういえば他のインターミドル選手たちの防護服も割りと目のやり場に困るデザイン。ジークリンデ選手とか番長とか。胸元を出してたりお腹を出してたり。恥じらいは無いんだろうか・・・。

(っと! 変なこと考えてないでしっかりしないと!)

かぶりを振って、「そうかな~? 何も言われないからな~」って自分の防護服を見るシャンテをしっかり見詰める。意識を戦闘モードへと切り替えて、お父さんとすずかさん謹製のアームドデバイス・“エマナティオ”の待機モードであるクロス・フローリー型ペンダントを胸元から取り出す。

「エマナティオ、出撃だ」

≪応!≫

ウィングカラーシャツ、ラペルドベスト、スラックス、フード付ロングコート(袖に腕を通さずに羽織るだけ)、そして首にクラバットを巻き、腰にマガジンホルダーの付いたベルトを2つ巻いたスタイルの防護服に変身する。

「フェアタイディグング・グリート」

防御魔力で両腕と両足に、不可視の籠手と脚甲を展開。これでシャンテの“ファンタズマ”を素手で防げることが出来るようになった。ノーヴェが結界を張って、展開された空間モニターにシグナルが表示される。3つのランプに赤が点っていって、3つ点いた後に青へと変わる。それが試合開始の合図だ。

重奏(アンサンブル)・・・三重奏(トリオ)!」

シャンテが幻術を使って3分身となる。2人は幻だけど、1人はちゃんと本物だ。それを見つけて打撃を打ち込む。格闘スタイルで闘うように言われたから、こちらから仕掛けないといけないよねやっぱり。軸足に力を込めて、「行くよ!」床を蹴ってシャンテへ突っ込む。

「へっへーん! イノシシみたいに突っ込んで来ても、あたしのすっごい疾さには及ばないよ!」

1人のシャンテ(めんどいからシャンテAでいいや)目掛けて突進して、右ストレートを打ち込もうとした。シャンテAはジャンプして躱して、BとCは僕の左右を通り過ぎて背後に回ってきた。右後方に移動したC目掛けて上段後ろ回し蹴りを繰り出す。Cは“ファンタズマ”の腹で受け止めたけど、踏ん張りきれずに蹴っ飛ばされた。左後方に移動したBと、頭上から落ちてくるAが「うりゃあああ!」と“ファンタズマ”を振るった。

「せいっ!」

頭上のAからの一撃は右前腕で受け止めて、Bからの一撃には突き蹴りによる足の裏で受け止める。両足と右腕に力を込めて、「おおう!」って驚きを見せる2人のシャンテを弾き返すけど、「分身の密度が前からさらに濃くなってる・・・!」ことに僕は驚いた。

「と~ぜん! あたしだって日々トレーニングで強くなってるんだからね!」

3人のシャンテが僕の周りを残像を残しながら駆け回る。全周囲からの奇襲に警戒していると、1人のシャンテ(AかBかCか判らないけど)が真正面から突っ込んできた。受けても避けても他の2人からの襲撃が来るのは目に見えてる。

「でりゃあ!」

僕が選んだのは左肘打ちでの迎撃。真っ向から“ファンタズマ”の刃面に打ち込んで、お互いの体が静止してるその瞬間に、僕は右手による拳打をAのお腹目掛けて繰り出す。それと同時にBとCが左右から襲撃してきた。拳はAの腹に直撃したけど残念ながら幻術で、お腹に打ち込まれたと同時に消失。

「パンツァーシルト!」

BとCの迫ってくる方向にシールドをそれぞれ展開して、2人の斬撃を防御する。それだけじゃ終わらない。僕は「フォイア!」と、トリガーとなる単語を口にして、シールドを射撃弾として射出させる。それでBとCはシールドに押し出されるように吹っ飛んだ。

「オリジナルは・・・!?」

「シールドを射出するなんて器用な真似するじゃん!」

声はなんと直上からしてきて、僕は前に跳んだ。直後、さっきまで立っていた場所に「4人目・・・!」のシャンテが着地した。

「実は四重奏(クヴァルテット)でした♪ さ、しっかりと捌いて見せて、フォルセティ!」

1対4っていう構図に辟易しながら、僕はシャンテにちょっとでも純粋な格闘家の恐ろしさというものを味わって欲しいと考えて、アインスお姉ちゃんの格闘スタイルをお見舞いしてやろうってほくそ笑んだ。
 
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