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夢幻水滸伝

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第七十二話 荒んだ心その七

「あれこれ言われてる気がしちょったしいつも事故のこと思うからのう」
「それでこっちに来たんじゃな」
「そうじゃ、けれどな」
「こっちに来てもか」
「ずっと事故のことを思うてのう」
「それでか」
「こっちの世界でもそうじゃ、わしだけが死んだらッていつも思うちょる」
 山本も酒を飲んだ、しかし一口で飲む量は明らかに減っている。気落ちがそのまま飲む量に影響していた。
「そうな」
「そうか、しかしな」
「生きるべきか」
「こんなツレは好きじゃったか」
「宝と思うちょった」
 これが山本の返事だった。
「ほんまにのう」
「そうじゃな、そいつ等今こんなをどう思っちょる」
「わからん、けどあんなええ奴等はおらんかった」
「そのええ奴等が何でこんなだけ生きたとか思うか」
 井伏は山本を見据えて彼に問うた。
「死んでまえばよかったとかのう」
「それは考えられんわ」
「運命はわからん、誰が死んで誰が生きるか」
「それはか」
「人の一生程わからんもんはない」
 井伏はこうも言った。
「それでもじゃ、生きてるんじゃったらな」
「それならか」
「そうじゃ、何があってもな」
「それでもか」
「胸張って生きるんじゃ、こんなもか」
「そう言うか」
「何度も言う、こんなは生きてても仕方のない屑じゃないけんのう」
 山本はそうした輩ではない、井伏は彼自身に話した。
「だからじゃ」
「それでか」
「生きるんじゃ、こんなに言うた親御さんも悪意で言うとらん」
「それはわかってるわ」
「悲しくて取り乱してたんじゃ」
 息子の死を前にしてだ。
「それでじゃ」
「そう言ったんじゃな」
「そうじゃ、忘れることは難しいが」
 しかしというのだ。
「そういうこともあった、人は取り乱すこともある」
「そのことをか」
「受け入れるんじゃ、そしてな」
「わしが生きていることもか」
「受け入れるんじゃ、ツレ達はな」
 彼等についてはというと。
「忘れるなや」
「忘れんことか」
「その笑顔、ええ思い出をな」
「そうすればええんか」
「そうじゃ、冥福と生まれ変わった人生の幸せを祈ってるんじゃ」
 そうすればいいというのだ。
「こんなはな」
「そうか」
「それで前を向いてな」
「そのうえでか」
「生きるんじゃ」
「そうか、生きるべきか」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「ええのう」
「そうか、わしは生きててええんじゃな」
「何度も言うがな、あとじゃ」
「あと。か」
「ああ、こんな今一人か」
「いつものう」 
 山本は井伏に飲みつつ答えた。
「こんなもそれは知ってるじゃろ」
「同じクラスじゃけんのう」
「それがどうしたんじゃ」
「何かあったらわしのところに来い」
 山本にこう告げた。 
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