夢幻水滸伝
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第七十二話 荒んだ心その三
「死んでもな」
「ええんですか」
「そう言われますか」
「わしだけ生きてもじゃ」
声にもだ、自暴自棄が出ていた。そして虚無の色も濃い。
「何になるんじゃ」
「生きてたらええことありますけえ」
「寿命まで生きてたら」
「この世界何度でも生き返れますけえ」
「寿命までは」
「それでも生きててもじゃ」
それでもと言った山本だった。
「わしは何も見出せんわ」
「だからですか」
「そう言われますか」
「背中を何時でも狙え」
「そうした風に」
「わしは別に死んでもええんじゃ」
刹那、それも見られる言葉だった。
「わしの代わりに呉獲りたいならそうせえ」
「星の人をですか」
「それもないですけえ」
「まあそう言わんと」
「お供させて下さい」
「好きにせえ」
こう言ってだ、そのうえでだった。
山本は自分を慕ってついて来ている彼等に背を向けたままそのうえで広島に向かった。そうしてだった。
広島に着いた、するとすぐにだった。
広島の方から着流しを着たオークが兵達を連れて来た、そうして山本に対して名乗った。
「地満星井伏秀幸じゃ」
「地悪星山本剛じゃ」
山本も名乗った、二人共今は馬に乗っている。
「今は呉を治めちょる」
「わしは広島じゃ」
「安芸のでかい街それぞれ治めとるのう」
「そうじゃな、それでじゃが」
井伏から言ってきた。
「こんな喧嘩が好きじゃったな」
「知っとるか」
「わしのこと知っておるじゃろが」
「ああ、起きた世界じゃ同じクラスじゃな」
「そうじゃ、一度も話したことはないがな」
「わしは誰とも付き合わんわ」
山本は井伏にこう返した。
「だからじゃ」
「わしとも話さんか」
「誰ともじゃ」
これが山本の返事だった。
「わしは話さん、誰とも付き合わん」
「それで少しでも何かしようとするなら突っかかるか」
「喧嘩なら買う」
山本は荒んだ顔で答えた。
「それがわしじゃ」
「そうか、こんなはそんな奴か」
「悪いか」
「悪ないわ、こんなのことはまだよお知らん」
だからだとだ、井伏は荒んだ顔のまま言う山本に返した。
「だからそうしたことは言わん」
「そうか」
「しかしじゃ」
「しかし。何じゃ」
「これからこんなを知ることは出来る」
今は知らずともというのだ。
「よくな」
「そうか、わしは何も語らんぞ」
「しかし喧嘩はするな」
「売られたならな」
「なら売ったるけえ」
井伏は山本を見据えて彼に告げた。
「今からな」
「そうか、こんなは力士じゃな」
「それがどうした」
「それなら素手で戦うか」
山本は今は槍を手にしている、だが槍を構えることなく井伏に問うた。
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