夢幻水滸伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第七十二話 荒んだ心その二
「これからどうしますか」
「呉は山本さんのものになりましたけど」
「どうしますか?」
「何も考えとらんわ」
これが山本の返事だった。
「わしは喧嘩したかっただけじゃ、そしてじゃ」
「喧嘩する相手を全部のしてですか」
「そしてですか」
「呉の主になった」
「そうやっちゅうんですか」
「それだけじゃ、それで何をするか」
それはというと。
「ほんま一切考えとらんわ」
「ですが折角呉まとめてくれましたし」
「何かしてくれますか」
「治めるなり何なり」
「そうして欲しいんですが」
「そんなもん考えてないわ」
今もというのだ。
「何するか」
「そうですか」
「ほな山本さんはこれからは」
「何もしませんか」
「考えてないわ」
一切という返事だった、しかし。
呉のある者が機転を利かしたのか山本にこう言った。
「あの、喧嘩したいんですよね」
「それがどうしたんじゃ」
「はい、広島の方に強い奴おるらしいです」
こう山本に言ったのだった。
「どうも」
「そんな強いか」
「星らしくて」
「わしと同じか」
「はい、力士で相当強いらしいです」
こう言ったのだった。
「何でも」
「そうか、ほな広島に行ってじゃ」
「そうしてですか」
「そいつと喧嘩をする」
こう言ったのだった。
「そうしたるわ」
「そうされますか」
「そうじゃ、そしてじゃ」
「喧嘩をされて」
「憂さを晴らしたる」
こう言ってだ、そしてだった。
山本は広島に向かった、彼は一人で行くつもりだったが。
彼についてきている呉の者達を見て彼等に問うた。
「何でついてくるんじゃ」
「いや、わし等の棟梁ですけんのう」
「だからですわ」
「ついてきます」
「喧嘩見せてもらいます」
「そうか、わしは別にじゃ」
それこそと言った二人だった。
「一人でええが」
「まあそう言わんと」
「お供させて下さい」
「是非」
「そうさせて下さい」
「わしが気に入らんかったらじゃ」
山本は彼等の言葉を背で受けつつ述べた。
「その時はじゃ」
「まさか」
「まさかと思いますが」
「その時は」
「何時でも切ったり撃ったりしてこい」
そうしろと言うのだった。
「ええのう」
「いえ、そんな」
「折角呉をまとめてくれた方なのに」
「そんなことはしませんわ」
「わし等にしても」
「そうか、わしは別にじゃ」
山本は彼等に背を向けたままだった、だが彼等に見せないその顔は自暴自棄がはっきりと出ていた。
ページ上へ戻る