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永遠の謎

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368部分:第二十四話 私の誠意その六


第二十四話 私の誠意その六

「そうだ。この世にだ」
「それは彼の作品が出ることを助けられることでしょうか」
「それもある」
「それもとは」
「考えているのだ。私は何を為す為にこの世にいるのか」
 こうした話もだ。王は自分から話した。
「その答えが間も無く出るかも知れない」
「そういえば劇場を造られるそうですね」
 ホルンシュタインはそれではないかと考え王に問うた。ワーグナーが自分の作品だけを上演する歌劇場を設けることを考えていることは彼の耳にも入っているのだ。それでこう王に問うたのだ。
「そのことでしょうか」
「さらにだ」
「さらにとは?」
「いや、どうしたものか」
 王の言葉が途切れた。自分で切った形だ。
 そうして切ってからだ。王はふと壁にある時計を見た。そのうえでホルンシュタインに対して話した。
「時間か」
「おや、もうですか」
「そうだ。時間だ」
 こうホルンシュタインに話すのだった。
「政治に戻ろう」
「では今から王の間に」
「首相が待っている」
 ワインを飲み干し。グラスをおいてから述べた。
「おそらく話はだ」
「フランスのことでしょうか」
「何かの誤解ではないのか」
 王の言葉がここで動いた。
「何故あの国はプロイセンをそう言うのだ」
「フランスだからですよ」
「あの国だからだというのか」
「あの国は昔からではありませんか」
 軽い笑みになってだ。ホルンシュタインはフランスについて述べた。彼もまたグラスを置いている。
「我がドイツをです」
「憎み嫌ってきたか」
「我々の関係は神聖ローマの頃から変わりません」
 最初のドイツの帝国だ。その頃からだというのだ。
「互いに敵対し合う間柄です」
「それはその通りだな」
「我々はフランスには散々煮え湯を飲まされてきました」
 フランスもまたそう言うことだった。とかくフランスとドイツには因縁が多い。その因縁はホルンシュタインだけでなく王もよくわかっていた。
「ですが今回はです」
「そうだな。今回はな」
 王は今は何処かだ。無気力に応えたのだった。
 そしてホルンシュタインも王のそれに気付いてだ。問うたのだった。
「陛下、やはり」
「やはり。何だ」
「フランスとの戦争は」
「好きになれない」
 実際にそうだと答える王だった。
「私は戦争自体がだ」
「お好きではありませんね」
「そしてフランスはだ」
 どうかというのだ。その国は。
「好きだからな」
「だからこそあの国との戦争はですか」
「避けられないな」
 王はこのことを言葉にして漏らした。
「そうだな」
「おわかりですか。そのことは」
「ドイツ統一の為にはだ」
「はい、やはりフランスとの戦争は避けられません」
「その為の総仕上げだ」
 まさにだ。それだというのだ。
「その為にもだ」
「その通りです。ですから」
「わかっているのだ」
 それがわからない王ではなかった。それだけの洞察は備えている。しかしわかったからといって納得できることとできないことがある。王は今は納得していなかった。
 
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