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天体の観測者

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修行Ⅰ

 雑草を刈り終え、更地と化した大地に汗まみれの一誠と木場が倒れ込む。
 
「お、終わった……ッ!」
「漸く終わったね、一誠君……!」

 苦し気に胸を上下させ、一誠と木場はその場に力無く空を仰ぐ。
 周囲にはリアス達も苦し気に汗を流している。





「ご苦労様です。無事、刈り終えたようですね」

 時を見計らった様にその場にウィスが姿を現した。
 周囲を見渡し、満足げに頷いている。

「さて、それでは修行を始めましょうか」

 足元をふらつかせながらも立ち上がるリアス達に向かい、ウィスは杖を地面に打ち鳴らす。
 途端、リアス達の手元に光が現れ、奇抜なデザインが施された服が現れた。

「私が皆さんの修行服を特別にコスチュームしておきました」

 光の中には簡易の上下の武道着に青色のリストバンド、そして機能性を重視した靴が入っている。

「女性陣はあちらの簡易のテントで、男性陣はあちらの木陰で着替えてください」

 ウィスの指示に従い、リアス達はいそいそとそれぞれの道着を手に持ち、テントへと向かう。
 リストバンドを手に通し、道着を帯と共にその身に着込む。







「皆さん、着替え終えたようですね」

 数分後、道着を着込み終えたリアス達がウィスの前に並ぶ。
 ウィスは満足げに彼らを見渡し、本腰を入れた。

「先ずは、皆さんの実力と潜在能力を測るために、全員で私に掛かってきてください」

「全員で、ですか……?」

 信じられないとばかりにウィスの言葉を反芻する小猫

「ええ、全員です。……果たして全員で私に掛かってきても、私に触れることも出来るかどうか……」

 そこにあるのは絶対的な自信と圧倒的な実力差
 リアス達は知れず息を飲み、ウィスを見据える。





「……試してみますか?」

 ウィスの問いに対するリアス達の応えは"是"であった。










「はぁっ!」
「シッ!」

 魔剣創造(ソード・バース)によって創造した魔剣を勢い良く振り下ろす。
 騎士の特性である速度を活かし、木場は眼前のウィスへと接近した。

 小猫も加減することなく全力の拳を打ち込む。
 戦車の特性を余すことなく利用した渾身の一撃をウィスへと馳走すべく拳を幾度も突き出した。



 だが、届かない。



 拳を、魔剣を木場と小猫の2人がウィスを殺すつもりで攻撃しているにも関わらず届かない。

 ウィスは目を閉じたままその場から一歩も動くことなく、必要最低限の動きで2人の猛攻を捌き、対処する。
 
 幾度も木場と小猫はウィスへと攻撃を届かせようと奮闘する。
 見れば既に2人は汗だくの状態であり、疲労困憊の状態だ。

 だが、2人の必死の猛攻はウィスに掠りもしない。
 終始ウィスは瞳を閉じた状態にて木場と小猫の猛攻に対処していた。

「喰らいなさい!」
「雷光よ!」

 そんなウィスに上空から攻撃するはリアスと朱乃の2人
 リアスを"滅びの魔力"を朱乃は"堕天使の雷光"を放つ。

 彼女達も木場と小猫の2人と同様にウィスへの攻撃に一切の容赦も感じられない。

 だが、ウィスは軽くデコピンするだけで彼女達の攻撃を掻き消した。

「嘘ッ!?」
「くっ……!流石ですわね……ッ!?」

 リアスは予想外のウィスの対処の仕方に驚嘆する他ない。
 対する朱乃はリアス程ではないがウィスの圧倒的な力に驚愕していた。

 既に彼女達も限界の一歩手前。
 リアスと朱乃の2人は手を大きく震えさせ、肩を大きく上下させ、視界を曇らせていた。
 最早彼女達の目にはウィスの姿は霞んで見えている。

『……!?』

 次の瞬間、木場と小猫の2人と遭対していたウィスの姿が掻き消えた。

 彼女達の背後へと高速移動したウィスがリアスと朱乃の首へと手刀を落とす。
 軽く一振り、それだけで彼女達の意識は暗転した。

「部長、朱乃さん!?」
「くっ……!全く見えなかった……!」 

 リアスと朱乃の2人を両腕に抱え、ウィスは木場と小猫の前へと現れる。
 木場と小猫は再びウィスへと重い身体を引きずり、ウィスへと突貫する。

 身体は既に満身創痍の状態
 だがそれでも2人は自身の限界を越えてウィスへと突撃する。

「はぁっ!」
「シッ!」







「はい、ストップ、ストップ」

 しかし、そんな2人の決死の攻撃はいとも簡単にウィスに受け止められる。
 見れば左手の親指と人差し指を前へと突き出しているウィスの姿が

 その様子からは全くもって自分達の攻撃が効いた様子は見受けられない。
 ウィスは変わらず朗らかな笑みを浮かべるのみだ。

 必死の思いを込めて放った渾身の一撃が指一本で受け止められたことに軽く自信喪失仕掛ける木場と小猫



 お願いだからウィスさん、少しは手加減してあげて



「お2人とも先程と比べると良くなりましたがそれでも動きがまだまだですね」

 ウィスは汗だくの状態の2人に優し気に語り掛ける。

「先ず木場さん、貴方は騎士の速度に頼り過ぎています。その速度にも磨きがかかってきてはいますがそれは至って直線的です。故に貴方の動きを読むのは容易なんですよ。加えて、貴方が魔剣創造(ソード・バース)によって創造した魔剣の構成は酷く脆い。まだまだ魔剣を創造するための創造力が足りていない証拠ですね」

「次に小猫さん、貴方も木場さんと同じように戦車の力に頼り過ぎています。その攻撃も至って直線的かつその拳もまだまだ未熟です。全身の力を満遍なく拳へと伝え切れていない証拠です。……それに小猫さん、貴方まだ隠している力がありますね?」

「……!?」

 ウィスの確信を突いた一言に小猫は酷く狼狽した様子を見せる。

「仙術を遣うのに躊躇しているのでしたら後は黒歌に任せましょうか」
「何故、姉さんの名前を……!?」

 ウィスは杖を軽く地面に打ち鳴らし、驚いている小猫を黒歌の下へと転移させる。
 後は姉妹間で小猫が抱えている問題も解決されるだろう。

 続けてウィスは意識を飛ばしているリアスと朱乃を叩き起こす。

「あれ、私……?」
「……此処は?」

 リアスと朱乃は重たげに瞼を開け、辺りを見渡す。

「これで今日の私との組手は終了です。皆さん、最初と比べてだいぶ動きが良くなっていますが、まだまだですね。ほら、皆さんの服にサインまで書けちゃいましたよ?」

 マジックペンを片手にウィスが笑いながらリアス達の胸元を指差す。
 見ればリアス達の胸元には渦巻き模様の面妖なサインが描かれていた。

『……ッ!?』

 皆一様に驚嘆を隠せない。
 一体何時、どのタイミングでウィスはマジックペンを用いたのだろうか。

「皆さん、お疲れさまでした。本日の修行は此処までです」

 その言葉を聞き、リアス達はその場に倒れ込む。
 既にリアス達にウィスの言葉に反応する気力など存在しない。
 
 力無く鉛の様に重い体を引きずり、大樹の中に存在する別荘へと戻っていくことしか出来ない。
 その後のことを彼らは覚えていない。

 夜食を食べ、露天風呂にて疲労を回復した後は瞬く間に眠りについた。
 覗き癖がある一誠も余りの疲労感に邪推なことを考える余裕もなく、意識を夢の中へと旅立たせた。

 そんな中、リアスは―










 露天風呂にて英気を養っていた。
 二度目の入浴となるが、人目を気にすることなく開放的な気分を味わうのも悪くない。

 リアスの魅惑的な肢体が濡れ、湯気が立ち昇る。
 気が抜けた吐息がリアスの口から漏れ、彼女は湯船にその魅力的な肢体を広げる。

 蛇を模した彫像の口からは湯が流れ、湯船を満たしていく。
 タイル造りの露天風呂とは言え、広さは申し分なく、清掃が隅々まで行き届いている。

 露天風呂はウィスの別荘である大樹の頂上に位置し、惑星の景色を一望することが可能だ。
 先程利用した露天風呂とは別の風呂であり、ウィス専用の露天風呂である。
 勿論、ウィス本人から好きな時に入浴する許可を貰っている。

 実家の風呂にも劣らない立派な造りだ。
 心身共に限界にまで追い込まれる厳しい修行であったが、修行後のアフターケアは及第点以上と断言出来る。

 文句を言える立場ではないことは分かっているが、如何に自分が恵まれているかを実感せざるを得なかった。

「本当に至れり尽くせりね……」
 
 リアスの濡れた魅惑的な髪から鎖骨にかけて湯が流れ、湯船の中へと消える。
 肌は潤い、その身目麗しい肢体がツヤを増していく。

「お湯加減は如何ですか?」

 そんなリアスの背後からウィスの声が聞こえた。

「悪くないわ」

「そうですか。それは何よりです」

 湯加減は悪くなく、修行にて蓄積した疲労が回復していく。
 リアスはその紅き髪を耳元にかけ、背後へと振り返る。

「……それで何の用かしら?」

 浴槽の前にはウィスが杖を片手に持ち、佇んでいた。

「いえ、ただリアスに個人的に伝えたいことがありまして」

 ウィスは宙から珍妙なデザインが施された杖を取り出し、タイル造りの床に軽く打ち鳴らす。

 途端、杖の先端の球体が点滅しながら光り出す。
 淡い光が杖から放たれ、ウィスの頭上へと放出された。

 やがてその光は空中にて球状に形成され、宙にてホログラムの様な映像を映し出す。

「リアスは今回の対戦相手でライザーが"フェニックスの涙"を用意していることは知っていますか?」

 フェニックスの涙、冥界にて高値で取引されている回復アイテム
 当然、ライザーも今回のレーティングゲームにてフェニックスの涙を使用してくるだろう。

 映像越しにライザーがフェニックスの涙を自身のユーベルーナに渡している光景が見えた。

「何ですって!?フェニックスの涙を!?」

 予想外の事実にリアスはこの場にウィスがいることも忘れ、立ち上がる。
 そうなれば当然、湯気で多少は隠れようと、リアスの魅惑的かつ魅力的な肢体がウィスの前に惜しげもなく晒されることになった。

 弾力のある魅惑的な双丘
 女性の理想像を体現した黄金比の肢体
 紅き髪が鎖骨に張り付き、非常に誘惑的な色香を放っている。

 だが、ウィスは驚いたとばかりに口元に手を当て、変わらずリアスを見据えている。

「前が丸見えですよ、リアス」
「……ッ!?」

 ウィスの指摘に今の自身の現状を自覚したリアスは勢いよく湯船に身体を沈める。
 湯船に顔を半分近く沈め、恥ずかし気に頬を染め、気泡を止めどなく口から吐き出している。

 頬は今にも爆発しそうな勢いで真っ赤であり、ウィスの方を向こうとしない。

 そんな恥ずかし気に背を向けるリアスの背後で服が落ちる音が聞こえた。



「さてそれでは私も入るとしますか」

 途端、リアスは口から驚きの声を上げ、大きくむせ、咳き込む。
 湯船を大きく揺らし、リアスが驚きに後方を振り返る。

「相変わらず期待通りの反応をしますね」

 呆れた様子を見せるウィス

「そういう問題じゃないわよ!」


どういう結論を経てウィスも入ることになるのよ!?


「何って私も入るんですよ」

 そこに何の問題があるのかと言わんばかりにウィスは不思議気に首を傾げる。
 既に上半身の服を脱ぎ、ズボンに手を掛けていた。

「何を照れているんですか?リアスも普段から露出狂に近い恰好を恥ずかし気もなく晒しているではないですか?」

 普段の彼女の恰好を知っている身として説得力に欠けるとしか言えない。

「それはあれよ!眷属とのスキンシップよ!」


それはそれぇ!これはこれェ!


「それよりもウィスこそ惜しげもなく裸体を晒して恥ずかしくないの!?」

 平静を取り乱し、頬を真っ赤に染めながらもリアスはウィスから視線を逸らさない。
 顔を隠す両手の指の隙間から一時も視線を逸らすことはない。

 どうやらリアスはむっつりスケベの様だ。
 ウィスはリアスの評価を内心で勝手に結論付ける。

 そして、リアスの疑問にはこう答えよう。

「愚問ですね。私の身体に恥ずべく場所などありません」

 それこそ今さらの話だ。
 普段から裸体に近い姿を晒すリアスにとっても、自分にとっても

「問答は終わりです。では私も失礼します」

「え、ちょ……!?」

 羞恥心がリアスの内心を駆け巡り、顔を全力でウィスから背ける。
 だが、羞恥心も好奇心には勝てなかったのか指の隙間からウィスを何度か覗き見ていたが



「この姿なら問題ありませんね」

 しかし、湯船に足を踏み入れたのはリアスにも劣らない美女であった。

 腰まで垂れるツヤのある漆黒の黒髪
 女性として起伏に富んだ、黄金比を体現した肢体
 全てを見通す輝きを放つ真紅の瞳
 そして、女性にしては長身な身長

 正に絶世の美女がそこにいた。

「何ですか、がっかりしました?」

 ウィスは余裕ある態度でリアスをからかう。

「あの、もしかしてだけどウィス?」

 理解が追い付かず、混乱するしかないリアス

「私以外に誰がいるんですか?」


嘘ォ!?


「何で女性の身体になっているのよ!?」

 絶叫を上げ、リアスは湯船から勢いよく立ち上がり、ウィスへと詰め寄る。

「私にとって性の壁など些細な問題に過ぎません。身体を女性にチェンジすることなど造作もないことです」

 ウィスにとって身体は"ウィス"を入れる器に過ぎない。
 性の壁を超越し、女性になることなど容易いことだ。

「嘘ォ……」

 呆然とリアスはウィスを何度も見ることしか出来ない。 

「それよりもちょっとがっかりしましたか?身体が男ではなくがっかりしました?」
「そ、そんなわけないじゃない……ッ!」

 愉しくて仕方ないとばかりにウィスは笑みを浮かべ、リアスを見詰める。
 その紅き瞳で至近距離でリアスの蒼き瞳を覗き込む。

「正直な話、期待していたのではないですか?」

 実に愉し気にウィスがリアスを弄ぶ。

「そんなことないわよ!」

 リアスは精一杯の虚勢を張ることしか出来ない。
 
それにしても……

 リアスは今のウィスの姿を何と無しに見詰める。

 正に女性として理想的な起伏に富んだ身体をしている。
 中身が男だからか照れの要素など皆無であり、堂々とその黄金比の肢体を見せつけている。
 それがどこか言葉には出来ない魅力を引き出していた。

 女性である自分が嫉妬を覚えるくらいに、女体化したウィスは綺麗だ。
 気付けば魅入ってしまう程に
 リアスは女体化したウィスに近付き、遠慮することなく身体の隅々まで見詰める。
 
 それどころかリアスはウィスのへそから始まり、引き締まった腰回りに続き、腹を触り、くびれた腰から起伏に富んだ胸にまで手を伸ばし、その感触を堪能していた。



「いつまで触っているんですか、リアス」

 いい加減飽きたのかウィスがリアスの両肩を掴み、引き離す。

「……はッ!?」

 本人も気付かぬうちにウィスの肢体に魅入っていたようだ。

「もしかしてリアスにはそっちの気があるのですか?」
 

ああ、眷属が女性陣ばかりの理由もそういう……


「違うわよ!」

 リアスは頑なにその気がないことを否定し、憤慨した様子を見せる。
 リアスにその気がないことには一安心だが、その肢体に何も纏っていないことに気付いているのだろうか。

「いい加減離れないとリアスの身体も好きなだけ触りますよ?」

 リアスは慌てた様子でウィスから距離を取り、此方をジト目で睨み付ける。
 全く迫力の欠片も感じられないが

「あと前、丸見えです」

 終始、ウィスに敵わないリアスであった。







「それで本題は……?」

 どうやらリアスは先程までの事を無かったことにしたようだ。
 それを感じたウィスも真剣な面持ちでリアスを見据える。

「私がこの場に赴いたのは、今回のレーティングゲームに対してリアスがどういった心境で臨んでいるのか聞きに来たんですよ」

 この時間帯ならば眷属である朱乃達に聞かれることもなく、何の気負いも無く本心を語ることが出来るだろう。

「……今度の対戦相手は不死鳥よ。悪魔でありながら聖獣と名高い力を有し、過去の御家事情を除けば、実質無敗の戦績を誇っているの」

 不死鳥、フェニックスと名高い脅威の再生能力を誇る悪魔

「正直、勝つ可能性もゼロに近いでしょうね」

 幾ら攻撃しても再生してしまう。
 リアスの眷属にフェニックスの再生能力を上回る攻撃手段を有している者がいないのが現状だ。

「この世に絶対などという言葉な存在しません。どんな強大な力であろうと弱点となる穴が存在することは理解していますか、リアス?」

 だが、完全無欠な力などこの世界には存在しないことも事実だ。

「ええ、そうね。だけど、今回の相手は私の手に余る相手であることは確かよ。そのことを理解していながらもお父様達は今回のレーティングゲームを組んだのよ」

 リアスの独白が続く。

「チェスなる嵌め手ね」

 あの場の勢いでレーティングゲームを受けたのかと思いきや、意外と状況判断能力があったらしい。

「そこまで現状を理解していながら何故今回の縁談をリアスは頑なに拒んでいるのですか?」

 そうなれば当然、湧き上がる疑問
 覆ることのない圧倒的な実力差、それでは幾ら頑なに縁談を拒んだところで結果は変わらないだろう。

「私は、グレモリー家の娘よ。何処まで行っても個人のリアスでもなく、あくまでもリアス・グレモリー(・・・・・)……」

 ウィスは黙ってリアスの言葉に耳を傾ける。

「常にグレモリーの名が付きまとってしまう。そのことは誇りではあるけれど、やはりせめて添い遂げる相手くらいはグレモリー家の娘としてではなく、リアス(・・・)として私を愛してくれる人と一緒になりたいの」

 これがリアス・グレモリーという女性の本質
 夢見る乙女、心から愛した男性と恋に落ち、リアス個人を見て欲しいという願望
 だが、それは貴族の娘として生を受けたリアスには叶わない願いだと言わざるを得ない。
 余りに浅はかで、非現実で、出過ぎた願いだ。

「酷く矛盾した話だけど、それが私の小さい頃からの夢なの」

 今のリアスは酷く弱々しく、普段の様子からはかけ離れている。 

「夢物語ですね」

 しかし、ウィスはそんな彼女に構わずリアスの夢を切り捨てる。

「ええ、本当ね……」

 本人が一番そのことを理解しているのだろう。
 本音を言えばウィスに慰めて欲しかったといったところか

「ただ……」

 だが、これでウィスの言葉は終わりではない。 



「夢物語であることは変わりませんが、これだけは言っておきます。







私に師事を受けている以上、敗北は許しません。リアスには必ずライザーに勝利してもらいます」

 下手な同情も慰めも不要
 いつだって結果が全てだ。

 ここでリアスに共感し、慰めたところで結果は変わらない。
 リアスには行動で自身の夢を切り開き、意志を示してもらうだけだ。

「ウィス……」

 リアスはウィスの言わんとしていることを理解する。
 つまりウィスはこう言っているのだ。





夢を叶えたいのならば行動で示せ、と





 リアスはそれがウィスなりの激励なのだと理解する。
 慰められているわけでもなく、優しくされているわけでもないのに何故、こんなにも心に温かく響くのであろうか。
 自信の女王である朱乃がウィスを慕う理由が分かった気もした。





ウィス、ありが……




 
 リアスがウィスにお礼を述べるべく、背後を振り返ると─



 そこには元の男の姿に戻り、惜しげもなく裸体を晒すウィスの姿があった。
 リアスは湯船に頭から倒れ込み、湯しぶきを上げる。

 何とも大袈裟なリアクションだ。

「何で元の姿に戻っているのよ!?」

しかも胡坐で……!?

「大丈夫です。腰にタオルは巻いています」

そういう問題ではなくて……ッ!?

「それにしても、これで私に裸体を晒したのは三度目ですよ、リアス」
「ウィスだって人のことを言える立場!?」

 全くこれだから最近の若者は、と嘆息するウィスに向かってリアスが吠える。
 それにウィスが取り合うことは無い。

「今、私とウィス、とても良い雰囲気だったわよねェ!?」
「えェ、乙女ぇですかぁ……?」
 
 落ち着きがないリアスの額にウィスはデコピンを打ち込み、空中で一回転させ湯船へと吹き飛ばす。
 想定以上の威力にリアスは額を押さえ込み、湯船を転げ回った。

─最後まで何とも締まらないウィスであった─ 
 

 
後書き
HSDDの世界では裸は挨拶です(すっとぼけ)

>「リアスは今回の対戦相手でライザーが"フェニックスの涙"を用意していることは知っていますか?」
「何ですって!?フェニックスの涙を!?」
→ 原作を読み返してもライザーが"フェニックスの涙"を遣うことを予想していない感が凄かったからなぁ(作者の私見)

>「さてそれでは私も入るとしますか」
 途端、リアスは口から驚きの声を上げ、大きくむせ、咳き込む。
 湯船を大きく揺らし、リアスが驚きに後方を振り返る。
→ 原作でもリアスは露出狂と言われても仕方ない程、肌を出していますが、恐らく逆に相手から迫られた場合受け身になってしまうと思うんですよね。見方にもよりますが、リアスは相手が照れ、慌てふためく様を愉しんでいるようにも見えますし
ウィスの様に逆にガンガン迫ってくる異性には年頃の乙女の様に照れる可能性が高いと考え、このような展開にしました 
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