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天体の観測者

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修行

 
前書き
師匠とウィスの修行は正に地獄のそれだった。師匠の方は生来の師匠気質と倫理観の薄さから最初からスパルタだったが、それがウィスにも伝染したのはマジで不幸だった。師匠とウィスの修行はもう二度と享受したくないね  by とある不幸な槍遣い 

 
 鎌を振るう音が鳴り響く。
 ただ一心に鎌を振るい、周囲の雑草を刈りつくすべくリアス達は腕を動かす。

「ねえ、皆……」

 額から汗を流しながらリアスは疑問の声を上げる。

「どうしたのですか、リアス?」

 同じく額から汗を流している朱乃はリアスへと向き直る。

「……私達ってウィスに鍛えてもらうためにこの場に来たのよね?」
「そうですよ?」

 何を当たり前のことを聞いているのかと言わんばかりに朱乃は首を傾げる。
 
「じゃあ何で私達は雑草を刈っているのかしら?」
「それは仕方のないことかと……」
「ウィスさんに修行を付けてもらう代わりに僕達はこの別荘の掃除を任されたんですよ、リアス部長」

 いい汗をかいたとばかりにアーシアは爽やかな笑顔を浮かべる。

「それはそうなんだけど……」

 ただでさえ自分には時間がないのだ。
 雑草を刈るよりも早く修行に取り掛かりたい気持ちを抑えきれない。

「修行をつけてもらうために早く雑草を刈り終えてしまいましょう、部長」
「そうですよ、リアス部長!」

 意外と乗り気な一誠と木場の二人
 今もリアスを言葉を掛けながらも手を動かし続けている。

「良い意気込みだね、一誠君!」
「お前には負けないぞ、木場ァ!」
「負けないよ、一誠君!」

 一誠と木場の2人は互いに闘志を燃やしながら鎌を振るい、足を動かし、負けじと雑草を刈りに刈りつくす。
 雑草は瞬く間に刈られ、姿を消していく。

「どちらも負けず嫌い……」
「一誠さん、頑張ってください……!」

 呆れたとばかりに小猫は呟き、アーシアは健気に一誠を応援する。
 一誠と木場は周囲そっちのけで雑草を刈っていく。



 その後、彼らがウィスに課された雑草刈りを終えるのは数分後であった。
 その場にウィスが現れ、雑草が明日にはまた元通りであることを聞かされ、絶叫が上がるのも数分後であった。










 時は少し遡る。

「皆さん、無事地球を飛び立ちましたよ?」

 無事地球を飛び立ったウィス達

 リアス達は今や宇宙空間にいた。

 見渡す限りに広がる星々の煌めき
 リアス達の目の前には言葉では表すことなど出来ない宇宙の神秘の輝きが広がっていた。

 今やリアス達はウィスの導きの元物凄い速度で宇宙空間を移動している。
 彼らの故郷である地球は遥か彼方に消え、目的地が姿を現すことはない。

 ウィス達は白銀の光を纏い、宇宙空間を飛翔する。
 無限に存在する惑星と星々の間を突き抜け、駆け巡り、移動していた。

 何という爽快感と開放感
 正に陳腐な表現では言い表せない神秘的な光景が目の前に広がっていた。

「うおおぉぉ、すげェ」
「綺麗……」
「はわわゎゎ、凄いですぅ……」
「これは驚いたね……」
「凄い……」

 一瞬の瞬きも許されない程に幻想的な光景にリアス達は言葉が出てこない。
 一誠やアーシアの2人は感動の余りはしゃいでいる。

「皆さん、感動するのは構いませんが私から手を離してはいけませんよ?手を離した途端、宇宙の藻屑になってしまいますからね」

「うええぇぇえ──!?」
「はわわゎゎっ!」
「……そういうことは早めに言ってください、ウィス」

 一誠とアーシアの2人は慌てふためく。
 小猫はジトっとした目でウィスを見詰め、諫言する。

「ほっほっほ、すみません。皆さんの感動の邪魔をしてはいけないと思いまして」

 屈託のない笑みを浮かべながらウィスは返答する。
 実に笑えない話だ。

「でも本当に綺麗ね、宇宙は……」
「宇宙は壮大で無限に広がっていますからね。自身の存在が如何に短小であるかを強く実感させられます。普段抱えている悩みや苦悩も同様です」
「……」
「リアスが今抱えている悩みを卑下するつもりはありませんが少しは視野を広げてはいかがでしょう」
「……」
「リアスには頼りになる仲間もいるのですから。自身が抱えている悩みや苦悩を打ち明けることも時には大切ですよ」

 悩まし気な表情を浮かべるリアスを優しく、そして悟らせるようにウィスは話し掛ける。

私の仲間……

「そうですよ、部長!」
「ウィスの言う通りですわ、リアス」
「えっと、困ったことがあれば私達に遠慮なく言ってください……!」
「僕はリアス部長の騎士として何時でも貴方の力になりますよ」
「リアス部長はいつも一人で抱え込み過ぎです……」

 朱乃達が落ち込むリアスを口々に励ます。
 
皆……

 仲間からの励ましの言葉を受け、リアスは徐々に落ち着きを取り戻す。
 本当にリアスは主思いの素晴らしい眷属を持ったものである。  

「気持ちの整理が付いたようですね?それでは降り立ちますよ」

 そんな中遂にウィス達は目的地へと辿り着いた。







 天を貫くが如く高くそびえ立つ大樹
 大樹の下には四角錐と思しき形のこの星の基軸となる結晶の如き物体が逆さまに浮遊している。
 
 その大樹を中心に周囲には大小様々な木々が蔓延っていた。
 大樹には届かないがこれまた高くそびえ立つ木々の姿も
 中には成長半ばで途中で折れている樹木も見受けられる。

 惑星の周囲には大小様々な惑星が存在し、空からは太陽光が降り注ぐ。
 この惑星の周囲には空模様の様な雲模様が存在し、それを彩る様に多数の色とりどりの惑星が存在していた。
 その雲の上から太陽光が一際強くその光を大樹へと落としている。
 そう、まるで天からの天啓が如く。

 大気には地球と同じように酸素が充足し、問題なく呼吸を行うことが出来る。
 惑星内部から空を見上げれば地球とは異なる空模様が広がっている。
 頭上に広がるは青空ではなく、ピンク色の空だ。
 また周囲を見渡せば湖や草花、宇宙産と思しき珍妙な生物と植物の姿も確認することが出来た。
 蜃気楼が如く現象も

 だが、近代的な建物や乗り物も存在し、地球との類似点も存在している。

「此処がウィスの住処……」

 朱乃は周囲を見渡し感慨深けに静かに呟く。
 知らなかった、こんな場所が宇宙に存在していたなんて

 神秘的、幻想的、近代的、宇宙的、様々な要素を内包した摩訶不思議な惑星だ。
 此処がウィスの住処なのだと自覚し朱乃は興味深けに周囲を見渡す。

 見れば自分以外の皆も同様に驚愕し、興味深けに辺りを遠めに見ていた。

「少し星ごとリニューアルさせて頂いたんですよ」

 何でもないと言わんばかりに朗らかな笑みを浮かべながら簡潔にウィスはそう述べる。

「星そのものを創り変えたということですか……?」
「ええ、まあそういうことになりますね」 

 星そのもののリニューアル、神の権能に相応しい力だ。
 この惑星はウィスの心象風景に強く根付いた光景を表面化させたものであり、彼ら(・・)の隠れ家の役割も担っている。

『……』

 リアス達は皆一様に言葉が出てこない。
 ウィスが述べていることが真実ならばそれは正に神の御業と呼ぶに相応しい行為なのだから

 宇宙空間を自由自在に移動する術を有し、天地創造に相応しい力で惑星を創り変えたウィス
 文字通り隔絶した力を有するウィスとは一体何者なのか。
 リアス達は改めてウィスとは一体何者なのかを強く思った。

 そんなリアス達の耳に澄んだ女性達の声が







『お帰りなさいませ、ウィス様』

 敬意を込め、深々と礼をするメイド達
 彼女達は皆一様にメイド服をその身に着込み、洗練された所作で己の主人であるウィスへと深々と頭を下げていた。

「皆さん、お勤めご苦労様です」

 リアス達を背後に引き連れ、ウィスは彼女達を労わる。

「ウィス様、後ろの方々は……?」
「彼女達は私の、まあ弟子と言ったところでしょうか。これから10日間の間私が彼女達の面倒を見ます。ですので貴方方は平時の時と変わらず行動してください」 
「承りました」

 恭しくメイドの一人がウィスへと礼を尽くす。

「ああそれと、貴方方からリクエストして頂いた物を丁度地球から持ってきましたよ」

 ウィスが杖を地面へと打ち鳴らす。
 地面に杖が打ち鳴らされた瞬間、メイド達の目の前に淡い光が現れた。

 それらは全てウィスが地球から取り寄せた土産の数々
 カートの上に全てが箱詰めされた状態にて綺麗に置かれている。

「ありがとうございます、ウィス様!」
「いえいえ、構いません。後で皆さんで仲良く食してください」

 再びウィスへと礼を尽くした彼女は後ろのメイド達を引き連れ、その場からいそいそと去っていった。





「流石ウィス様!行動がはやい!」
「きた!お土産きた!」
「土産きた!」
「これで勝つる!」

 



「あのウィス、彼女達は一体……?」
「彼女達は人外達に迫害された人達です。元はぐれ悪魔や神器遣いであることが影響して居場所を失われた方々ですね。勿論原因はそれだけではありませんが」
「それじゃあ……っ」
「ええ、彼女達は文字通り人生を無茶苦茶にされたんですよ。外ならぬ人外達の手によって」
「……」
「私は彼女達と相談した上で地球から此処に移住してもらったんです。此処ならば人外達の魔の手も伸びませんからね」

 まあ、移住と呼ぶにはかなり遠い引っ越しであるが
 言うまでもなくこの星にいるのは彼女だけではなく、男性も多数存在している。
 
「私達悪魔のせいで……」
「おっと、罪悪感を感じるのはお門違いですよ、リアス。」

 罪悪感を感じ表情を暗くするリアスの唇をウィスが人差し指で閉じさせる。

「リアスのその悪魔らしくない誰かを思いやる心は美徳ですが、時にそれは出過ぎた行為と言うものです」
 
 ウィスは顔を近付け、その曇りない紅き瞳でリアスを見据えながら優し気に諭す。
 リアスは思わずうっすらと頬を赤く染める。

「確かにリアス達悪魔のせいで彼女達が苦しめられたのは事実です。ですがそれは悪魔という種族が生み出した世界のシステムそのものが原因であり、決してリアスだけのせいではありません。一概にリアスが無関係とは言えませんが手を下したのはあくまで一部の屑の悪魔達ですからね」

 ウィスは落ち込むリアスを慰める。

「確かにそうだけど……」
「今はそのことを考えるよりもリアスは10日後に開かれるレーティングゲームのことを考えることが先決です」

 ウィスはリアスの唇から手を離し、軽くこつんと彼女の額を小突く。 

「それに安心してください。彼女達の人生を滅茶苦茶にした悪魔達には軒並み塵になっていただきましたから」

 そう、奴らは軒並み粛清済み
 既に奴らは塵と化している。

「さて、それでは進みますよ」

 ウィスは再び杖を地面に打ち鳴らし、白銀の光に導かれ大樹の根本へと飛んでいく。





「さて、此処がリアス達の寝床です」

 周囲に浮遊するは岩石の山
 その岩石の上には数個の簡易式の寝台がぽつんと置かれている。
 寝台の上にははシーツと毛布のみが敷かれ、正に質素と言う言葉を体現していた。

 一際目を引くのはこの寝室を占拠する大蛇と思しき巨大な亡骸
 大蛇の口内には周囲のモノとは一線を引いたこれまた巨大な砂時計の姿が確認出来る。

 周囲にはサイズは小さいが同様の砂時計が寝室全体に多数浮遊している。
 その砂時計は白銀の光によって球状に包み込まれている。
 とても神秘的であるのと同時に異様な光景だ。

 寝台の位置もかなり地面から離れ、岩石の上にリアス達の人数分だけ置かれていた。

「酷く、殺風景……」
「ウィスも此処で寝ているのですか?」
「あのウィスさん、周囲にある大きな砂時計は一体……?」
「でけェ……」

 寝室と呼ぶには壮大過ぎる光景に言葉が出てこないリアス達
 リアス達は口々に個々人の思いを口にする。

 ウィスと共に地球を飛び立って以降、何度"凄い"を連発したことだろうか。
 驚嘆と驚愕が止まる所を知らない。

「皆さん、そんなに矢継ぎ早に質問しないでください。順にお答えしますから」

 矢継ぎ早に質問するリアス達を宥めるべくウィスは静かに人差し指を掲げる。

「先ずは朱乃。私は睡眠を必要とはしませんから此処には普段は入り浸ってはいませんね。ですからこの10日間の間は此処が皆さんの寝室となります」

 普通の寝室も用意されているが、修行期間中はここがリアス達の寝室である。

「次にアーシアさん。周囲に浮遊している大きな砂時計ですが、それは(時限式爆発)目覚まし時計です。私がリアス達の修行時間を吟味し、目覚ましの時間を設定しておきます」

 起床時間は早朝で良いだろう。

「最後に伝えておきますが此処にいる間は如何なる時でも修行の一環ということをお忘れなく。一瞬でも気を抜いてはいけませんよ?」

 最後にウィスは言外の意味を込めた言葉を発する。
 ウィスの言葉の真意に気付いたのはリアスと朱乃、木場の3人
 一誠とアーシアの2人は目の前の光景に圧倒され、ウィスの言葉には気付いていないようだ。

 ウィスは再び杖を地面に打ち鳴らす。





「先ずは修行を行うための場を創りましょうか」

 ウィス達が最後に辿り着いたのは先程の草原
 周囲には雑草が生い茂っている。

 途端、ウィスの姿がその場から消える。
 否、上空への高速移動だ。

 リアス達は勿論、騎士である木場もウィスの動きを捉えることは敵わなかった。

 宙へと浮遊したウィスは眼下のリアス達を見下ろしながら杖を宙へと掲げ、円を描く様に軽く振るう。

 大地に線が引かれ、発光する。
 続けてウィスは杖の先端の球体が光を帯びたところを左手の親指と人差し指、中指をかざした。

 次の瞬間、リアス達の周囲を囲む様に膨大なエネルギーによって創り出された結界と思しき壁が半円の形で現れる。

 その透明な壁は瞬く間にリアス達を包み込み、周囲の空間と隔絶した空間を創り出した。

「次は修行を行うための武舞台の創作ですね」

 神と呼ぶに相応しい超常の力を振るうウィスに対して言葉を失うしかないリアス達
 そんな呆然とするリアス達に対してウィスが杖をかざしたことでウィスのエネルギーが彼女達を包み込み、宙へと浮遊させた。

 驚きを隠せないリアス達を視界に収めながらウィスは眼下の地面にまたしても杖を振るう。
 ウィスは正方形を描く様に杖を動かし、"武舞台"を形成させていく。

 途端、ウィスが杖を振るった眼下の箇所から次々に岩石と思しき素材で創り出された"武舞台"が創り出されていった。

 升目が刻まれ、岩石が着々と積み上げられていく。

「広さはこんなものでしょう。大きさは約50メートル四方と言ったところでしょうか」

 最早何でもありな光景だ。
 リアス達は既にウィスに対して考えることを止めた。

 だが、これで全ての準備が整った。
 ウィスは今なお呆然とするリアス達に向き直り、その紅き瞳で見据える。

「さて、それでは……






 
先ずは周囲一体の雑草を刈ってください」

 ウィスの両手には人数分の鎌と籠が

─その場にリアス達の呆けた声が響いた─ 
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