夢幻水滸伝
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第七十話 山と海その三
「まだあったわ」
「そやな、それはな」
「山の民の道や」
「そこを使えばな」
「ええな」
「そうや、平地の民が使うにはちとしんどい道やけどな」
それでもと言うのだった。
「ここはや」
「山の民の道を使ってな」
「進んでいくで」
「そうするわ」
「ほなそうするか」
「ここはな」
「山の民の道を使う」
このことを決めてだ、そしてだった。
芥川は軍勢と山の民達の道を使ってそうしてだった、紀伊の方に向けていった。山の民の道は狭く入り組んでいて彼等のあんないを受けても大軍では進めない。それで兵を幾つかに分けてそうして進んだ。
そうしてだった、芥川は軍勢と共に紀伊に向かうが。
紀伊の方では佐藤兄妹が兵を率いて紀伊の山地を進んでいた、だが彼等は今現在は山にいる邪魅達と戦っていた。
妖怪達も彼等の敵ではない、しかしだった。
兄はその邪魅を倒してだ、こうぼやいた。
「何ていうかな」
「数が多いな」
「ああ、多いわ」
こう妹に言うのだった。
「この山はな」
「そやな、紀伊の山地がこんなに魔物が多いなんて」
妹の香菜もこう言った。
「思わんかったわ」
「そやな」
「何ていうかな」
また言った兄だった、その手の村正には魔物の血が付いている。
「高野山はともかくとしてな」
「そっちは大人しく関西に降ってくれたけど」
それでもと言うのだった。
「それはな」
「ああ、ちょっとな」
どうにもと言うのだった。
「ここは魔物が多くて」
「それを退治して進むとなると」
「しんどいわ」
「ほんまにな」
「これで師匠のところに向かうって」
「かなり辛いわ」
兄妹で話す、そうしてだった。
二人はぼやきつつもそれでも軍勢を大和の方に向けていた、魔物は多く彼等と戦いぼやきつつもだった。
そうしていっていったが丁度大和との国境に来てだ。
狼達を見たが兄妹共に動かず兵達に言った。
「狼はええ」
「別に手出しせんでええ」
こう兵達に言うのだった。
「狼は相当餓えてないと人を襲わん」
「どの狼もそうや」
「そやからな」
「狼は手出しせんでええ」
こう言って狼達を襲わせなかった、そして兄はこうも言った。
「あと熊とかもや」
「あっ、熊もですね」
「そういえばこっちには来ませんね」
「これまでそうでしたし」
「今もですね」
「そうや、それでや」
狼や熊はというのだ。
「普通の野生の生きものはな」
「特にですね」
「戦う必要はない」
「そうなんですね」
「そや、無益な殺生はせんことや」
佐藤兄は礼し得な顔で兵達に話した。
「ええな、戦をしてもな」
「出来る限りですね」
「血を割けて」
「そうして進んでいくんですね」
「そや、それに限るわ」
何といってもというのだ。
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