八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百七十五話 カレーを三人でその六
「だからね、あの人はね」
「お医者さんとしては」
「いい人じゃないね」
こう言うしかなかった。
「もっと言えば人間としてはね」
「イメージ変わったわ、正直」
ニキータさんはカレーを食べつつ僕にこう返した。
「森鴎外って素晴らしい人って思ってたら」
「文豪としての実績は凄いよ、それでエリートとしても」
「東京帝国大学医学部卒業でドイツ留学で」
「それもかなり若くしてね」
「学校の勉強は出来たのね」
「そうだったけれど」
ドイツの方でも優秀さで知られてはいた、このことも事実だ。
「それでもね」
「人間としては駄目だったの」
「エリートでそのエリート意識が強過ぎてプライドも高くて」
こう言うしかなかった、考えてみるとあの経歴なら当然か。今でもそうなる人は多いだろうし当時なら遥かにだ。
「自分の学問が絶対だって思って出世欲とかが強くて」
「何か人間臭いわね、悪い意味で」
「あと父親や母親に頭が上がらなかったそうです」
「ファザコンでマザコンね」
「そうなるね」
今で言うとだ。
「それで凄い頑固で」
「漱石さんも頑固だったわよね」
「さらに頑固でもう」
ここで僕は言葉を言い換えた、頑固というそれを。
「頑迷っていうか」
「頑迷って」
「頑固の中の頑固だよ」
「そういう意味なの」
「うん、そうなんだ」
ブラジル人のせいかまだ頑迷という言葉を知らないみたいなニキータさんにわかりやすい様に話した。
「相当に頑固でね」
「どうしようもない位になの」
「強いて言うならベートーベンかな」
「森鴎外さんと同じドイツね」
「あっ、関係するね」
言われてみればそうだ、同じドイツだ。
「ベートーベンもドイツだね」
「そうよね」
「うん、ドイツ関係者が全部そうじゃないと思うけれど」
「森鴎外も頑迷だったの」
「海軍の食事療法は絶対に違うって言い張って」
もうこれ以上はないまでに強くだ。
「脚気菌を探していたんだ」
「それでその間になのね」
「陸軍はかなりの人が死んだんだ」
その脚気でだ。
「それで大変なことになっていたんだ」
「まあ病気で人が大勢死んだらね」
「軍隊にとって大変だよね」
「疫病が流行ったら」
ニキータさんはまたお国のことを話に出した。
「洒落にならないから」
「それだけで戦力ダウンでね」
「戦争中は特に」
「だから下手をすると」
何かこのことを言う歴史の先生は少ないみたいで不思議だと親父が言っていた、この辺り本当に医師だけある。
「戦争に負けていたかもね」
「脚気が多過ぎて」
「それでね」
けれどあの戦争を侵略戦争だとか言っている学校の先生は大喜びしていただろうか、負けていれば日本はなかったかも知れないけれど。
「下手をしたらだったかもね」
「森鴎外のせいで日本は戦争に負けていたの」
「そうだったかも知れないね」
「怖いわね」
「そこまでの事態だったんだ」
当時の帝国陸軍での脚気の害はだ。
「そう思うとね、森鴎外は」
「褒められた人じゃないわね」
「夏目漱石はたかが知れてるから」
この人も問題があるにはあったがだ、自分の息子をヒステリックにステッキで何度も殴るとか今だと完全にDVで親権をどうするかの問題になる。
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