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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百七十四話 山の世界その十四

「かなりの人が死んでいました」
「そうだったの」
 医者の親父が言うには当時の日本は脚気が国民病であったという、そこに結核と梅毒が大きかったらしい。
「それで軍隊でもです」
「脚気でかなり死んで」
「大変だったとのことです」
「そうだったのね」
「あんまりにも死ぬ人が多くて」
「戦争をするにも?」
「問題が出ていました」
 軍艦は動かなくなるし部隊の戦闘力がなくなる、こんな酷いことはない。
「そうなっていまして」
「何とかしようってなったの」
「海軍は食事に問題あるんじゃってなって」
 高木大尉という人がそれに気付いてらしい。
「麦飯を食べる様になって」
「脚気はなくなったの」
「はい、ですが陸軍ではある人が脚気菌がある筈だって必死に探していて」
「ある人?」
「森鴎外です」 
 僕はあえて作家としての名前で答えた。
「あの人です」
「その人現国の教科書でも出ていたわよ」
 チェチーリアさんは森鴎外と聞いてすぐにこう言った。
「舞姫の作者さんよね」
「はい、そうです」
「あれ本人の話って先生が言ってたけれど」
「その説ありますよね」
 鴎外の友人説もある。
「あの人実はお医者さんで」
「それも凄いエリートの」
「はい、東大医学部で優秀な成績を収めた」
 今で言うこの学部だ、当時は帝国大学だった。
「それでドイツで最新医学を学んで陸軍の軍医にもなって」
「エリートだったのね」
「エリート中のエリートでした」
「そんな人だったの」
「当然文才もあって」
 そして教養もかなりのものだった。
「能力は凄かったんですが」
「そんな人でもなの」
「というかですね」
「というか?」
「エリート意識が異常に強くて」
 その経歴を見ればそうなってしまうのだろうか、文壇でも鴎外は高踏派と呼ばれるから相当上から目線の人だったと思える。
「それでドイツ信仰が強くて」
「ドイツに留学したからよね」
「はい、自分の息子さんや娘さんにドイツ風の名前を付けて」
 漢字であて字にしてだ、今田とキラキラネームになるだろうか。
「それで脚気菌があるって思って」
「それもドイツのせいなの」
「細菌学の権威コッホに学んだんです」
 歴史にも出て来るこの医者にだ。
「それでもう細菌を異常に意識していて」
「脚気菌を探していてなの」
「海軍の食事療法を無視して」
 もう完全にそうしていたらしい。
「それでその間にです」
「脚気菌を探している間に」
 存在しないそれをだ。
「沢山の人が死んだの」
「はい、あんまり犠牲者が多くて」
 そのせいでだ。
「陸軍の上の人達も怒って麦飯導入したそうです」
「鴎外さんを見限って」
「その形になったみたいですね」
 山縣有朋や桂太郎といった当時陸軍を動かしていた人達がだ、軍医の分野だけでなく現場を含めた陸軍全体を預かるこの人達にとっては脚気にいい治療方法が確かにあるのならすぐにそれを導入するのは道理だ。 
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