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永遠の謎

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270部分:第十八話 遠く過ぎ去った過去その二十


第十八話 遠く過ぎ去った過去その二十

「神聖ローマ帝国から。再びだ」
「あの実体のない帝国とは違いますね」
「そうだ、違う」
 神聖ローマ帝国は確かに皇帝が存在し国境もあった。法律もあれば領土もあった。だが国家としては一つではなかったのだ。
 その中に多くの国家、領邦国家があった。それは三十年戦争以前からだ。三十年戦争とそれに続くウェストファリア条約はそれの追認に過ぎなかったのだ。
 しかしだ。これからは違うというのだ。次のドイツ帝国はだ。
「実体のある強いドイツだ」
「一つにまとまっているドイツ」
「そのドイツが遂に誕生しますか」
「これまで我々は他国に脅かされてきた」
 これもまたドイツの歴史だ。
「フランス然り他の国然りだ」
「特にフランスですね」
「あの国ですね」
「あの国は貪欲だ」
 伯爵はフランスについては忌々しげに言った。
「手に入れようとするものは何でも手に入れようとする」
「先の戦争でもですね」
「ラインの西岸を渡すなら三十万の兵を出すと言ったそうで」
「ナポレオンもドイツの領土を多く奪いました」
「ルイ十四世も」
 彼等はフランスが嫌いだった。その口調は実に忌々しげなものだった。
「神聖ローマ帝国皇帝になろうとしましたし」
「何処まで貪欲なのか」
「そしてあつかましいのか」
「私は不思議に思う」
 ここでだ。伯爵の口調が少し変わった。
「陛下はフランスを愛されているな」
「今も旅に出られていますし」
「実際に」
「そうだ。だがフランスはドイツに何をしてきた」
 伯爵が今この場で話すのはだ。歴史だった。
「常に脅かし介入してきたな」
「何度煮え湯を飲まされてきたか」
「わからない程です」
「それがフランスだ」
 伯爵の見ているフランスだというのだ。
「あの国の欲望には限りない」
「思えば。神聖ローマ帝国の頃からです」
「何かというと出て来てです」
「そしてドイツと争ってきました」
「バイエルンもどれだけ利用されてきたか」
「知っているな。マクシミリアン一世との対立は」
 伯爵はこのことから話すのだった。
「あのことは」
「はい、フランドルを巡って」
「そのうえで」
「それがはじまりではなかったしな」
 ドイツとフランスの因縁はというのだ。
「教皇を巡っても対立してきた」
「あの教会分裂」
「その時もでしたし」
「そうだ。だがマクシミリアン一世以降激化していった」
 ドイツとフランスの対立はだ。欧州の対立軸の最も重要なものの一つとなっていたのだ。それはイギリスとフランスの対立と共にだ。
「ハプスブルクとヴァロアだ」
「そうです、あの両家の対立がです」
「そのままドイツとフランスの対立でした」
「何かあれば衝突し」
「剣を交えてきました」
「イタリアにおいても」
 今ドイツと共に統一に向かっているだ。その国においてもだったのだ。
「フランスは貪欲にもイタリアを手に入れようとしました」
「あの素晴しいイタリアにです」
「そうしてきました」
「イタリアはいい」
 伯爵はイタリアについては手放しだった。それが言葉にも出る。
 
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