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永遠の謎

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266部分:第十八話 遠く過ぎ去った過去その十六


第十八話 遠く過ぎ去った過去その十六

 それがだというのだ。
「いよいよな」
「あの方にとってはな」
「最も望まれていたことが実現する」
「最高の話だな」
「では、だ」
「あの方が帰られたら」
 そのだ。旅に出ている王が帰るとどうなるかというのだ。
「即位された時と同じになるか」
「まずはワーグナー氏だ」
「あの音楽家の話になる」
「あの音楽家をバイエルンに呼び戻す」
「そうなっていくのだ」
「遂にな」
 こう話されていくのだった。そしてだ。
 彼等はだ。微妙な顔になってだ。こんなことも話した。
「それはよいことなのだろうか」
「バイエルンにとっては」
「それか」
「そうだ、いいことなのだろうか」
 一人がだ。疑問系を出した。他の者達も応える。
「ワーグナー氏は浪費家だ」
「それもかなりのな」
「あのローラ=モンテスとどちらが問題か」
「そこまで酷い」
「しかも女性問題まである」 
 金銭問題だけではないのだ。ワーグナーはだ。
「まだビューロー夫人とは続いているな」
「信じていないのは陛下だけだ」
「いや、あの方も本当はわかっておられるのではないのか」
「あの方はわかっておられないようで実はわかっておられるのだ」
「そういうところがあるからな」
 それがだ。王だというのだ。
「そういう方だからこそ」
「しかしそれをあえて見ずに」
「気付かないふりをして」
 そうしているのではないかというのだ。
 王のそうした見透かす目とだ。その見えるものを選びそうして醜いものを避けようとするその心の動きをだ。彼等は話すのだった。
「ワーグナー氏についてはとりわけ」
「あの音楽家はやはりいかがわしい人物だ」
「金銭問題に女性問題」
「しかもその行動もだ」
「そうだな。何かと問題を起こしていく」
「揉めごとを引き起こす人物だ」
 それがワーグナーだというのだ。
「厄介な御仁だ」
「その彼がバイエルンに戻る」
「確かにワーグナー氏に反発する面々は大人しくなる」
「しかしそれはバイエルンにとってどうなのか」
「よきことか」
 それについてはだ。誰もがだった。
 不安を覚えざるを得なかった。とかくワーグナーは問題が多くだ。しかも評判の悪い人物なのだ。だからこそだった。彼等も話すのだった。
「臣民の間でもまだワーグナー氏への悪評はくすぶっているが」
「それがまた湧き上がるのではないのか」
「あの御仁は遠慮を知らない」
「そしてその行動をあらためない」
 ワーグナーはだ。騒動そのものなのだ。
 そうしたことがあってだ。彼等も話すのだった。
「それではまた騒動になる」
「だが陛下はワーグナー氏の帰還を望まれる」
「そうされないと駄目だ」
「陛下は満足されない」
「彼がいなくては」
 バイエルンにとってはなのだ。王のそのワーグナーへの寵愛はだ。
 まさに悩みの種だった。しかしだ。
「陛下はワーグナー氏から離れなれない」
「ではやはり」
「また国庫から金を好きなだけ使う」
「何でも自分の作品の為だけの劇場を造るつもりらしいしな」
「そんな話は聞いたことがない」
 そのだ。一人の音楽家の作品を上演する為だけの劇場などはというのだ。
 
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