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永遠の謎

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265部分:第十八話 遠く過ぎ去った過去その十五


第十八話 遠く過ぎ去った過去その十五

「それが必然なのだ」
「必然ですか」
「そうなのだ。そしてそのバイエルンが政治や軍事で立つのはだ」
「できませんか」
「それを覆ることはできない」
 王の前にあるこの現実。これはどうしようもなかった。
 そのどうにもならないものを見てだ。王は話すのである。
「絶対にだ」
「それでバイエルンの摂るべき道は」
「プロイセンの属国にはならず」
 そうしてだというのだ。
「芸術によってだ」
「ドイツを統一することですか」
「私の夢の、運命の実現でもあるが」
 己のだ。その望みも含めての話だった。
「それを推し進めたい」
「芸術においてのドイツの統一」
「それを笑う者もいるだろう」
 そのこともわかっていた。しかも実によくだ。
「夢だとな」
「夢ですか」
「そうだ、夢なのだ」
 そうだと話す王だった。
「見果てぬ夢だとな。だが」
「だが、ですか」
「確かに夢だ」
 それは認めた。確かにだ。
 しかしだ。その夢という言葉に持つ意味をだった。
 王はだ。さらに話すのだった。
「だが夢は妄想という意味だけではないのだ」
「目指すものでもあるのですね」
「目指し、そして果すものだ」
 そういう意味もだ。あるというのだ。
「私はそうした意味で夢をドイツに実現させたい」
「我等の祖国に」
「ドイツ。父なるドイツ」
 愛をだ。ドイツに見せた。
「そのドイツに必ずだ」
「芸術の統一を」
「するとしよう」
 こんな話をしてであった。王はだ。
 フランスでの旅を続けていた。その頃だ。
 バイエルンではだ。また動きがあった。その動きは。
 一室でだ。彼等は顔を寄せ合って話をしていた。その話はというとだ。
「あの戦争での陛下のお考えは臣民に受け入れられているな」
「うむ、妥当だったとな」
「慧眼だったという言葉もある」
「確かに。陛下はプロイセンを救われた」
「兵を動かさないことによって」
「プロイセンも非常に好意的になっている」
「バイエルンの地位はかえってあがった」
 あの戦争におけるバイエルンが得たものが話されていくのだった。
「いいことだな」
「確かにな」
「陛下は政治的にも優れた方だった」
「そしてだ」
 それに対してだというのである。
「これにより陛下のお考えに反した方々の権威が失墜したな」
「首相も男爵も総監も」
「そのままワーグナー氏に敵対する方々だ」
「全て失脚されたかされるだろう」
 この予測も述べられていく。
「では。ワーグナー氏はか」
「この国に戻って来るのか」
「スイスからバイエルンに」
「そうなるのか」
「陛下はお望みだ」
 王がだというのだ。
「彼が戻ることを。いや」
「そうだな。それどことではない」
「望まれるどころではない」
「常にそれを願っておられた」
「常にだ」
 王はだ。常にそのことを心から願っていたのだ。ワーグナーがスイスからバイエルンに戻ることをだ。それが彼の最も願っていたことだったのだ。
 
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