八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百七十三話 涼しさその一
第百七十三話 涼しさ
この日の夜はかなり涼しかった、それで僕も夕食の後で畑中さんに言われた。
「今宵は冷えると思いますので」
「あったかくしてですね」
「はい、昨日までとは違って」
「ベッドの掛け布団も」
「厚めのものにされて下さい、服もです」
これもというのだ。
「上着を着られた方がいいです」
「そうですね、今夜は完全に秋ですね」
「こうなりますと」
「神戸はもう」
「秋の色が強くなる一方です」
そうなるからだというのだ。
「ですから」
「これからはですね」
「上着を着られて掛け布団も厚めのもので」
「寝ないといけないですね」
「あとお風呂もじっくりとです」
「そっちはもう僕は毎日ですね」
夏もだ、そうして身体をほぐしている。熱くなった身体は水風呂で冷やしてそうしてゆだるのを防いでいる。
「そして秋になっても」
「そうですか、では」
「はい、あったまってきます」
「そうされて下さい、本当にです」
「今夜はですね」
「冷えます」
間違いなくという言葉だった、畑中さんの今のそれは。
「秋の冷えです」
「そうなりますね、ただ」
「ただとは」
「いえ、昨日まで夏みたいだったのが」
それがだった。
「あっという間にですね」
「そうですね、本当に神戸は」
「一気に涼しくなりますね」
「夏の暑い時は他の地域以上にすぐに終わります」
「そしてこれからどんどん涼しくなるんですよね」
「そうですね、昔からです」
神戸のこのことはとだ、畑中さんは僕にこのことも話してくれた。
「涼しくなる時は」
「すぐですね」
「そうでした、むしろです」
「昔の方がですか」
「神戸は寒かったです」
「やっぱり人が少なくて」
「街に暖房等も少なくて」
そのせいでだったというのだ。
「街自体がです」
「涼しかったんですか」
「そうでした、火鉢等だけでは」
「ああ、かなり昔ですね」
「私がまだ子供の時のことです」
畑中さんは微笑んで僕に話してくれた。
「その時はまだそうした暖房器具ばかりで」
「コタツもですね」
「電気のものではなく」
僕には信じられない話だ、電気でないコタツも。
「火を使った」
「ちょっと危なそうですね」
「火事の原因にもなっていました」
「やっぱりそうでしたか」
「石炭の暖房はありましたが」
「ううん、それでもだったんですね」
「今よりも街に熱がなかったです」
暖房器具によるそれがだ、どの家でも施設でも暖房器具を使うとそれが必然的に街全体の熱気になる。
「ですから」
「もっと寒かったんですね」
「終戦直後は特に」
昭和二十年、この年の冬はというのだ。
「耐え難いまでの寒さでした」
「そうでしたか」
「あの時の寒さは忘れられません」
畑中さんは僕にこうも話してくれた。
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