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永遠の謎

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230部分:第十六話 新たな仕事へその六


第十六話 新たな仕事へその六

「しかし一人なのだ」
「美の女神と清らかな姫が」
「妖しい美と清らかな美」
 その相反する二つの美だった。
「そして色欲と清純だ」
「その二つもありますか」
「肉と心でもある」
 二人をだ。互いに相反するものとして話していく。
「正反対の様でいて一つなのだ」
「その二人の登場人物は」
「そうなのだ。同じなのだ」
 タンホイザーの世界を象徴する二人である。
 多くの者は今は彼女達を全く違う存在と見ている。しかしだった。
 王は違った。彼女達をだ。同じだと見ているのだ。
「彼女達は同じなのだ」
「ではその同じ存在が」
「タンホイザーにある。つまりは」
 哲学者になっていた。王は己をそうしてだ。今さらに話すのだった。
「人には相反するものが同時に備わっているのだな」
「美醜もまた」
「そういうものなのか。完全に清らかな存在はいないのか」
 そしてだ。彼の名前を出した。
「ローエングリンの様に」
「あの騎士は完全なのですね」
「彼は違う。ワーグナーの主人公達は」
 彼等はだ。どうかというのだ。
「完全なのだ。この世にない存在だ」
「英雄なのですね」
「英雄だ。完全なる」
 その主人公達をだ。こう評した。
「この世には本来存在しないものなのだ」
「それがヘルデン=テノールなのですか」
「ヘルデン=テノールだけは完全だ」
 この話をしてだ。それからだった。
 王は思いなおすものを目に見せてだ。また話した。
「私は。彼等を愛している」
「英雄達を」
「そうだ。誰よりも深く愛している」
 憧憬の目であった。同化ではなかった。
「その愛をこの世に見たい」
「美もまた」
「だからこそだな」
 話をまとめた。王自身の中で。
 そしてだ。その言葉がだ。出されたのだった。
「フランスに向かおう」
「はい、わかりました」
「美を見るのだ」
 その為にだと。王は語った。
「この世で至高の美を見て。そして」
「そのうえで」
「この世に再現したい、いや」
 再現ではなかった。それ以上のものだった。
「この世も現したいのだ」
「再現ではなく現すのですか」
「今までこの世になかったからだ」
「その至高の美が」
「だからだ。現すのだ」
 そうなるというのである。
「是非な」
「ワーグナー氏の世界はこれまでなかった」
「誰が為し得るのだ」
 疑問の言葉はだ。ホルニヒに向けたものではなかった。
 彼ではない大きなもの、その全てに向けてのものだった。
 王は今それを見ていた。自分の向こうに立つそれをだ。
 そしてだ。それに対してだ。王は告げたのだ。
「それは私ではないのか」
「陛下が」
「私はこの世に生まれ彼を見た」
 ホルニヒの言葉を受けていた。しかし語りかけるのはその存在に対してだった。
 
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