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永遠の謎

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183部分:第十二話 朝まだきにその九


第十二話 朝まだきにその九

「そうするしかないか」
「はい、そうするしかありません」
「また時が来ます」
「陛下あってのことですから」
 王がワーグナーの庇護者である。このことは言うまでもなかった。ワーグナーの今があるのはだ。王のその庇護あってのことなのだ。
「ですからそれは」
「御安心下さればいいのです」
「わかっている。だが」
 王の繊細な心はだ。それでもだというのであった。
「彼はもう。ミュンヘンにはだ」
「来られない」
「そうだと」
「彼の劇場をこのミュンヘンに築けるか」
 王にとってはこのことも懸念のことだった。
「いや、この街は」
「ミュンヘンは」
「どうだというのでしょうか」
「ミュンヘンそのものが。彼を拒んだ」
 こうも考えるのだった。そのミュンヘンについてだ。
「そのことを考えると。ミュンヘンでさえも」
「昼の世界にある」
「そうだと」
「昼は。私の愛する世界ではないのだ」 
 王もだ。昼自体に絶望を見ていた。
「最早私は夜の世界に生きるしかないのか」
「その夜にですか」
「そちらに入られるのですか」
「ですがそれは」
「もう昼にはいられない」
 王は俯いてしまった。どうしてもそうなってしまうのだった。
「夜だ。夜にいたい」
 彼は次第にその心を夜に向けていた。そうしてそのうえでだった。次第に人、昼の世界にいる彼等にだ。絶望を感じていくのだった。
 王が絶望を感じている中でもだ。時は進んでいた。
 ビスマルクは着々と手を打っていた。オーストリアとの戦いの準備が着々とだ。
 両国の戦争が近いことは明らかだった。しかしだ。
 王はだ。動かない。それどころから。
 ミュンヘンから去った。彼は別の場所に向かった。
「陛下は何処に行かれたのだ?」
「都を後にされて一体」
「何処に行かれたのだ」
「今はミュンヘンを離れられない」
「それでもか」
 こうだ。ミュンヘンの市民達がそれぞれ話すのだった。
「オーストリアとプロイセンの戦いは近い」
「両国との戦いは間近い」
「それで何故だ」
「何故去るのだ」
「何を考えておられるのだ」
 王の行動についてだ。いぶかしむものを感じざるを得なかった。
 それはだ。すぐに嫌疑に変わった。
「バイエルンのことをどう考えておられるのだ」
「王がそれでは」
「この国はどうなる」
「一体どうなるのだ」
 考えれば考える程だ。わからなくなっていた。嫌疑は不信にもなっていく。
 だがそれでもだ。王はだった。
 ミュンヘンからいない。それは間違いなかった。
 問題はだ。何処にいるかだった。
「まさかワーグナーの下に行ったのか?」
「何処に行かれているのだ」
「逃げられたのか?」
 こうした言葉まで出ていた。しかしだ。王はだ。
 湖のほとりにいた。そこでその青い湖を見ている。手には一輪の花がある。
 青い花だ。小さく咲いているその花を持っている。その花を見てだ。共をしていたタクシスが言うのであった。
「ジャスミンですか」
「いい花だ」
 王は後ろに控える彼に静かにこう述べた。
 
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