| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

永遠の謎

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

182部分:第十二話 朝まだきにその八


第十二話 朝まだきにその八

「それでいて手に入れられなくなったのだろう」
「それが呪いだと」
「陛下にかけられてしまった呪い」
「そうなのですか」
「ワーグナーは昼の世界にはない」
 ここでこんなことも話した。
「夜にこそあるのだ」
「夜にですか」
「それはある」
「そう仰いますか」
「そうだ。昼とは何なのだ」
 王は昼そのものについても述べた。
「一体何なのだ」
「何なのかと言われましても」
「それは」
「どう言うべきか我々にも」
「わからないか」
 侍従達の言葉に落胆したものを見せる。しかしだった。
 そのうえでだ。王はまた話すのであった。
「私は昼にはもうよいものを見出せないのだ」
「昼にですか」
「そうだというのですか」
「朝が怖くもなってきた」
 顔の青ざめたものがだ。増してきていた。
「夜の心地よさに比べて。朝の恐ろしさ、昼のわずらわしさは何なのだろう」
「夜は誰もいない」
「誰もが寝静まっている」
「だからでしょうか」
「そう仰る理由は」
「そうかもな」
 また否定しない王だった。ここでもだ。
「だからこそ。私は夜に惹かれるのかも知れない」
「誰もいないからこそ」
「それでなのですか」
「人は何故」
 悲しむ言葉だった。
「噂なぞを口にするのだ」
「それはやはり」
「人の性では」
 周りはだ。こう王に話す。
「噂をするのもです」
「それもまた」
「私にはそれがわからない」
 悲しい言葉がだ。また出される。
「どうしてもな」
「そうなのですか」
「どうしてもですか」
「それは」
「そうだ。噂は全てを蝕んでしまう」
 ワーグナーのことがだ。今王を苛んでいた。それをどうしようもできなかった。そのことがだ。彼を今も苛んでいるのである。
「私は。ただ彼と共にいたいだけだったのだ」
「ワーグナー氏と」
「あの御仁と」
「確かに私は女性を愛さない」
 これについてもだ。王は言われている。しかしそれはあくまで青年達に対してだけだ。ワーグナーは初老の男だ。それならばだった。
「だが彼はだ」
「そうしたお相手ではありませんね」
「決して」
「肉体ではない。心なのだ」
 まさにだ。それだというのだ。
「心でだ。私は彼の全てを愛していたのだ」
「その芸術を」
「その全てをですね」
「そうだ。それは今も変わらない」
 話はだ。そこに至るのだった。
「しかし。誰もがそれを」
「仕方ありません。今は」
「時がです。来ればまた」
「待つしかないか」
 王はまた悲しい声で述べた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧