ダンジョン飯で、IF 長編版
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二十一話 vsレッドドラゴン
前書き
レッドドラゴン戦。
展開が色々同じであって、違います。
マルシルが、予定地点の爆破のために一人別行動している間に、ファリン達は、竜を誘導するべく、まずは音で竜の気を引いた。
外に面した高所の通路から、カーンカーンっと、センシの背中に背負っている鍋を叩いて鳴らすと、建物の間から顔を出していた竜が顔をこちらに向けてきた。
「走って!」
鍋を鳴らしつつ、走り始める。
すると竜も建物を挟んで平行して動き出した。
「速くね!?」
「竜の時速は、60キロほどよ!」
ちなみに、人の時速は、15~30キロほど。
「それを早く言えよ!」
「だいじょうぶ! 地形で制御できるわ! 次の角を右へ!」
そして三人は、角の階段を降りていった。
そして直線通路を走る。後ろから竜が覗いてきた。
「この直線で、火の息を誘う!」
竜は、体内に溜めた燃料に舌打ちで着火することで火を吐く。
拘束したときに、暴れないように道中で全ての燃料を排出させるために、この通路で火の息を狙ったのだ。
すると、目論見通り、レッドドラゴンがカンカンカンっと口を鳴らし始めた。
「舌打ち音! 来るわ!」
「ファリン!」
「任せて!」
ファリンが竜の方に向き、炎を防ぐ魔法を詠唱した。
そして、凄まじい炎がレッドドラゴンの口から吐き出された。
それをファリンが魔法で防ぐ。
やがて炎が来なくなった。
「ファリン、やったな!」
「みんな、無事?」
「うむ。」
チルチャックとセンシも無事だった。
しかしその時、再びレッドドラゴンの舌打ちの音が聞こえてきた。
「また来るぞ!」
「走って!」
三人は予定通りの通路を走った。
***
マルシルは、予定地点で、ボーッと待っていた。
「……んん?」
建物の屋根の上にいたのだが、そこから見える城下町の一部が、破壊されていく。だがその場所は、予定とは違う場所だ。
「え? 嘘…、もう来たの!? 早くない? 火の息は、切らしたのかしら?」
やがて、通路をファリン達が竜を引き連れて走ってきた。
「えっ、えっ? 二手に別れるって作戦は? 私、予定通りやっちゃっていいの?」
マルシルが見ていると、下の方を走るファリン達がそれぞれ身振り手振りで何か伝えようとしてきた。
「ええい! わかんないわよ! もうやるわよ!?」
そして、マルシルが立ち上がり、杖の先端を足元に突いた。
次の瞬間、予定地点に書いていた魔法文字が反応し、三人とレッドドラゴンが通り過ぎていく上の方にあった通路が爆破されて倒壊した。
たちまちレッドドラゴンが下敷きなり、瓦礫の煙が立ちこめた。
ギリギリで下敷きになるのを免れたファリン達は、衝撃でこけていた。
三人は立ち上がり、後ろを見る。
瓦礫の山だけがあり、レッドドラゴンの姿は見えない。
しかし、次の瞬間。レッドドラゴンが瓦礫を突き破るように立ち上がった。
「きゃああああああああ!」
押しのけられ、飛び散った瓦礫が降り注いでくる。
「うそうそうそ! まったく効いてない!」
上の方にいたマルシルが焦った。
「う……。」
「シッ……、動いちゃダメ。」
呻いたチルチャックに、仰向けで寝転ばされたファリンが小声で言った。
すぐ上を、頭を下にやったレッドドラゴンの頭が過ぎる。
どうやら、こちらを探しているらしいが、瓦礫の煙で視界が悪く、また瓦礫に紛れる形で、ファリン達は気づかれてなかった。
もう少し…、もう少し!っと、ファリンは、抜いていた剣を握って、逆鱗が真上に来るのを待った。
だが……。
ぱんっと、ファリンの手から、剣がはじけ飛んだ。
「あ…。」
カラーンと空しく音を立てて動く鎧の剣が離れた場所に落ちた。
逃げた!
ファリンは、剣の動きからそう理解した。
「ファリン…、おまえ……。」
「っ…、こ、これは…その…。」
「ファリン! チルチャック! 二人とも起きろ!」
センシが二人を助け起こした。
「上だ!」
上を見ると、三人の存在に気づいたレッドドラゴンが舌打ち音を発し始めていた。
「あああああああああああああ!!」
ファリンは、半ばやけくそで杖を握り、その先端から切り裂く魔法を放った。
チュンッと音を立てて放たれた切り裂く魔法は、狙ったわけでもなく、たまたま、本当にたまたま、レッドドラゴンの右目を切り裂いた。
レッドドラゴンが絶叫をあげた。
「やった!」
「なんでその魔法なんだよ!」
「言ってる場合じゃないわ! 腹部に潜って!」
三人は、レッドドラゴンが悶えている隙に、レッドドラゴンの腹部の下に潜り込んだ。
「それと! ファリン、おまえ…!」
「悪かったから…、それは本当にごめん。」
「くそ! 共通語じゃ罵倒の語彙が少なすぎる!」
チルチャックは、怒りのままに別言語で罵詈雑言を吐き出し始めた。
「あ、なんだか分からないけど、すごい下品なこと言われてる…。」
ファリンが、剣のことで少し反省していると、腹部に逃げ込んだ三人に向けて顔を向けてきたレッドドラゴンが吠えた。
そして、ドスン、ズシンっと四本の足を暴れさせた。
「尻尾の方から…!」
そう言って尻尾の方へ行くと、今度は太い尻尾がゴウッと空気を裂く音を立てて、その後、凄まじい破壊音を立てて建物の壁を破壊した。
足で潰されるか…、尻尾で潰されるか…。最悪の二択が残った。
「待ってて! 今なんとかするから!」
上にいるマルシルが魔法を使った。
いくつかの爆発魔法が炸裂する。だが……、レッドドラゴンの強靱な鱗には傷ひとつつかない。
レッドドラゴンがマルシルの方を睨み、舌打ち音を始めようとした。
その隙にセンシが斧を振りかぶってレッドドラゴンの足を切りつけようとした。
ところが、当たった瞬間、斧の刃は砕け、しかも柄の部分まで折れた。
「ぬう!」
攻撃を受けたと感じたレッドドラゴンがその足を振るってきたので、三人はなんとか避けた。
「唯一の武器が…、どうすんだよ! ここから!」
「……仕方ない。」
するとセンシは、自らの愛包丁を取り出した。
「これを使え!」
「え…?」
「やっぱり、それ特別な金属でできてんのか!?」
「あらゆる魔物の骨や皮を断ち、わしが一日と欠かさず手入れをいれた……。この世に二つとないかもしれない、ミスリル製の包丁じゃ。」
「ミスリル!?」
「まじかよ…。」
「ナマリに見せてあげたかった…。」
「アイツ場合によっちゃ、センシ殺すぞ?」
「なんとなくそういう感じはしたので黙っていた。」
その時、止まっていた三人めがけてレッドドラゴンの足が振るわれてきた。
「この!」
ファリンが包丁を振りかぶて、レッドドラゴンの足に刃を突き刺した。
「す、すごい! 本当に竜鱗を貫通するんだ! ……でも…。」
いくらすごい金属といえど、しょせんは包丁…。この程度の刃の長さでは、鱗の表面を傷つけられるだけで、まったく致命傷を負わせられない。
「ファリン! ボーッとするな!」
「くっ!」
ファリンは、包丁を抜き、レッドドラゴンの足を避けた。
「っ…。チルチャック!」
「えっ? はっ?」
ファリンは、包丁をチルチャックに投げ渡した。
「左目を狙って!」
「なにぃぃ!?」
ファリンは、前に向かって走り出した。
「ファリン! っ、くそ!」
竜の注意がファリンに向く。
「なにか考えがあるのか!?」
「両目を潰してしまいたいの! それで逆鱗を狙う隙を突きたい!」
走るファリンに向かって、レッドドラゴンの口が迫ろうとした。
その背中をセンシが庇い、間一髪口に捕われるずにすんだ。
「センシ!」
「いいか、ファリン。今までおまえが食ってきた魔物の中に…、死力を尽くさない者がいたか? ここでは、食う食われるかだ。必死にならなければ、食われるのはこちらだ。腹をくくれ!」
「!」
「行くぞ。」
「ええ!」
二人は離れて走り出した。
レッドドラゴンの足が、少し遅いセンシの上に迫り、その瞬間、センシを踏み潰した。
「ぐっ!」
「センシーー!」
「構うな…、走れ!」
センシが吐血しながら叫んだ。
「今どけてやるから!」
チルチャックが、センシを踏んでいるレッドドラゴンの足に近寄った。
するとレッドドラゴンが、チルチャックを食おうと口を開いた。
それをチルチャックは避ける。
その一瞬に隙をついて、チルチャックが包丁を左目に投げた。
包丁は見事にレッドドラゴンの左目に突き刺さった。
レッドドラゴンが絶叫をあげ、暴れる。
両目を失い、闇雲に暴れたことで、周りの建物が崩れ落ち、チルチャックの頭の上に落下してきた瓦礫でチルチャックは倒れた。
***
二人が作った隙をついて、竜から離れたファリンは、走ってきたマルシルと合流した。
「今、どうなってるの?」
「ごめん、立てた作戦全部失敗しちゃった。二人は今、竜の足元で気絶してるわ。」
「ええ!? ど、どどどど、どうしよう!? あ、私の魔法しかないか…。」
「マルシル…。頼みがあるの…。」
「なに? 何でも言って!」
「あのね…。」
ファリンは、マルシルに頼みを伝えた。
それを聞いたマルシルは、大きく目を見開いた。
「そ、そんなこと…! うまくいくわけないじゃない!」
「アイツ(レッドドラゴン)…、私とチルチャックを食べようとしたわ。」
「でも、でも!」
「……きっと、お腹がすいてるのよ。」
ファリンは、酷く冷たい声で呟く。
ギリッと杖を握る手に力がこもる。
「絶対に…私が…殺す!」
その言葉と表情に、マルシルは、ゾッとした。
***
両目を奪われたレッドドラゴンは、スンスンと鼻を鳴らし、匂いを辿って獲物を探した。
すると、香ばしい肉の焼ける匂いがした。
たまらずそちらを向く。
ファリンが左手に燃える大ガエル肉を串に刺した状態で持ち、右手に杖を握って立っていた。
すでに詠唱と魔力が込められ、右手の杖の先端が、ギラギラと魔法をまとって光り始めていた。
空腹と怒りにレッドドラゴンは、吠え、グワッと口を開けてレッドドラゴンが迫った。
ファリンは、横にそれてその口を避けた。
ガチンッと空しくレッドドラゴンの歯と歯が鳴る。
目が見えず、そして獲物を逃したことで、ますますレッドドラゴンが怒り狂いだした。
ファリンは、建物の壁に背中を押しつけた。
レッドドラゴンが匂いを辿ってファリンの方を向く。
レッドドラゴンが再び口を開けて、怒りのままに突撃してきた。
ドゴォォオオンッと轟音が響く。
「ファリン!」
マルシルが悲鳴を上げた。
「………これを…、待ってたの。」
壁にめり込み、左腕を食われた状態となったファリン。
ついに獲物を捕えた感触を感じたレッドドラゴンが、ファリンの腕をくわえたまま顔を上げ、ファリンがぶら下がる。
その瞬間を狙って、ファリンは右手の杖をレッドドラゴンの首に向けた。
そして放たれる切り裂く魔法。
だがただの切り裂く魔法じゃない。溜めに溜めた、詠唱を続けに続けた、一生のうちに撃てるかどうか分からないほどの特大級の切り裂く魔法だ。
次の瞬間、ブシュッとレッドドラゴンの首の下の逆鱗が裂けた。
レッドドラゴンの巨体が、横に倒れた。
「……兄さん…。」
ファリンは、失血と痛みによって薄れていく意識の中、呟いた。
後書き
ファリンが使った、特大級の切り裂く魔法は、生涯に撃てるかどうか分からないほどの代物です。
ライオスが原作で足を犠牲にしましたが、ここでは、ファリンは腕を犠牲にしてレッドドラゴンを仕留めました。
ページ上へ戻る