真ソードアート・オンライン もう一つの英雄譚
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インテグラル・ファクター編
紅と黒と蒼の闘い
現在アインクラッド内で持ちきりの話題がある。それは《二刀流》と《無限槍》。この二つのユニークスキルの登場により、《神聖剣》と共に攻略がぐっと進むだろうと言われていた。
血盟騎士団本部『グランザム』
団長室内
「四人ともよく来てくれた。まずはキリト君。クラディールの件はすまなかったね」
「そんなことはいいです。本題に入ってください」
キリトはヒースクリフの言葉を切り捨てる。ヒースクリフもさして気にしていないようで、そのまま続けた。
「では、本題なのだが、二人とも血盟騎士団に入る気はないかね?」
「何?」
今度は俺が聞き返す。とはいえ予想していなかったわけじゃない。《二刀流》と《無限槍》は超攻撃型ユニークスキルだ。どこのギルドでもこのスキル所有者は欲しくなるだろう。特に血盟騎士団のような攻略組最前線のギルドなんて特に。
それだけじゃない。俺たちが血盟騎士団に入ればコハルとアスナがギルドを抜ける事はほぼ確実になくなるのだ。こんなに一石二鳥な考えにこの男が至らないわけがなかった。
「残念ながらそれはできません」
「俺もキリトと同じです」
「……ほう。理由を聞いても?」
「貴方が先ほど謝っていたクラディールについてです。そのクラディールの行動を聞き、血盟騎士団に悪いイメージを持ってしまったからでしょうか」
嘘は言っていない。だが、全ての理由も語っていない。 全てを語る必要はない。何故なら、イメージが悪い、というだけで十分な理由になりえるからだ。 血盟騎士団というのは、一種のブランドだ。 《神聖剣》を持つ団長のヒースクリフ。アインクラッド内で五本の指で数えられる美少女で副団長のアスナ。同じくその一本の一人で一番隊隊長のコハル。そして最強の称号。そのブランドに、悪印象という傷がついたのだ。進んで入ろうとしなくなるのは当然だろう。
「しかしね、こちらとしてもはいそうですかとアスナ君とコハル君ほどの戦力を手放すわけにはいかないのだよ。彼女たちはこのギルドの看板でもある。……そうだな。キリト君、アヤト君。欲しければ剣で君達の力で奪いたまえ。私に勝てば彼女たちを連れて行くがいい。だが負けたら……君たちが血盟騎士団に入るのだ」
アスナとコハルは心配そうに俺たちの顔を見る。
「いいでしょう。剣で語れというなら望むところです。デュエルで決着をつけましょう」
「キリト、此処は俺に任せてくれないか?」
「いや、この場面はアヤトに任せるには荷が重い。俺が行くよ」
「フッ我先にというなら二人でかかって来たらどうだね?75層のコロッセオなら《バトルロイヤルルール》が適応できる。それなら大丈夫だろう?」
「本気で言ってるのか?」
思わずムッとなり敬語を忘れて返してしまった。いくら防御に特化した《神聖剣》が超攻撃型の《二刀流》や《無限槍》より相性がいいとはいえこの二つはユニークスキル。一人でフロアボスと相対可能という核兵器のようなスキルを二人相手にして勝てるとは思わなかった。キリトもこの一言にはムッと思ったらしく、ヒースクリフへの視線が強い。
「もちろん本気だとも。君たち二人まとめて相手しよう。こちらで手配はしておく。追ってアスナ君とコハル君に伝えておこう」
「まさか二人を相手にするって言い出すなんて、いくら団長でもそれは無理だと思うよ」
「コハルの言う通り、こればかりはキリト君達の負ける姿が想像出来ないわ……」
コハルとアスナがそんな話をしている。確かにあの時はムッとしたが、冷静になった今は逆に不気味だ。
「あの頭の切れるヒースクリフがどう考えても無謀な事を言う筈がない。何か秘策があるのか?」
「俺もそう思う。だけど、これに関してはその時にならないと解らないって言うのもあるからなんとも言えないけどな」
「ああ。でもだからといって俺たちも何の対策も無しに戦うのも危険だ。連携の練習をしておけば何があっても適切な対応ができるだろうしな」
「よし、じゃあ迷宮区で連携の練習とギリギリまでレベリングをしておこう。アスナ達も頼む」
「うん!わかったよキリト君!」
「はい!キリトさん!よろしくねアヤト!」
俺たちは75層の迷宮区に入る前にポジションを決めることにした。
俺は槍のために後衛、キリトは前衛になった。
「シュミレーションをしておこう。アヤトはサポートを中心に俺の攻撃後の隙を埋める感じで頼む。それが一番効率が良さそうだ」
「おーけー」
迷宮区に入るための受付を済ませて早速バトルを開始する。
キリトは両手の剣でクロスする様に敵を斬り、俺は槍で突き削り切れなかったHPをゼロにする。
それからどれぐらい経っただろうか、時間は9時を過ぎていた。
もういいかな。俺たちは迷宮区をでる。
「あ、メッセージ?団長からって事はもう手配が済んだの!?流石団長……いや、キリト君達と戦いたいって気持ちもあるからかもしれないわね」
「うん。アヤトもキリトさんも初めて自分と同じユニークスキルを持ったプレイヤーだもんね。それだけ楽しみだってことでもあるんだよ。日にちは……明後日の正午に75層の《コロッセオ》だって」
二人は俺たちに時間と場所を教える。
明後日か……俺たちは頷き合う。明日も集まって練習をする約束をして各々の宿に戻った。
そしてデュエル当日。
今、アインクラッドは1つのイベントのことで大いに盛り上がっている。
今日、75層《コリニア》のコロシアムで、2人のプレイヤーのデュエルが行われるのだ。
コロシアム内は、まだデュエル開始まで時間があるというのに、人であふれかえっていた。ただのデュエルなら、こんなことにはならなかっただろう。だが、今日のそれは前代未聞なものだ。
『SAO史上初のバトルロイヤル決闘』
しかも全員ユニークスキル使い。一人は《神聖剣》のヒースクリフ。一人は《二刀流》のキリト。そしてもう一人は《無限槍》のアヤト。三人とも今では名の知れたプレイヤーでもある。
「二人とも頑張ってね!」
「ああ行ってくる」
コハルとアスナから応援のメッセージを貰い、ステージに上がる。まさかこれ程の人が来ているとはな。
「すまなかったね。キリト君、アヤト君。まさかこんな事になっていたとは」
「これはギャラ案件だと思いますよ?」
「俺たちが勝ってギャラは貰いますよ」
「いや、この戦いは必ず私が勝つだろう。そうなれば君たちは我がギルドの団員だ。任務扱いにさせてもらおう」
「どこまでも自信たっぷりですね?俺たちだって負けませんよ」
ヒースクリフから『バトルロイヤルルールデュエルの申し込み』が送られてきた。俺たちは初撃決着モードを選択しカウントダウンが始まった。
早速武器を取り出し構える。キリトは背中の剣を抜き、ヒースクリフに向ける。これがキリトのスタンバイ状態。
俺は槍を抜いて何回転かさせてから、右手を前に添えるように持ち左手で軸になるように握る。身体は前かがみにならないように自然に立ち、利き足を少し後ろに下げる。これが俺のスタンバイ状態だ。
ヒースクリフも盾に仕舞ってある剣を抜き、盾を前に出して構える。これがヒースクリフのスタンバイ状態なのだろう。そうこうしているとカウントダウンが間も無く終わる。
3、2、1、0 DUEL START!!
キリトは作戦通りスタートして直ぐにソードスキル《ダブルサーキュラー》を発動させ、一気にヒースクリフへと距離を詰める。俺も一気に踏み込みコンマ数秒前遅れてキリトの後ろに着きサポートをする。
以前にも説明したが、デュエルにおいて開始早々のソードスキルは基本悪手だ。しかし、相手が防御型のプレイヤーにおいては別で奇襲にはもってこいなのだ。それにしても、
「堅すぎる……」
「俺たちの攻撃を完璧に守りきるなんてな」
「それは君たちもだよ。素晴らしい反応速度だ」
俺たちは一旦体制を立て直し、再び突っ込む。すると今度はヒースクリフも動いた。
ドン!
「な!?盾だと!?」
ヒースクリフはキリトを盾で殴り、俺に剣で突こうとする。俺は間一髪槍の柄の部分を使って攻撃を外らせる。これにより俺とキリトが離れた事でフォーメーションが完全に崩れてしまった。立て直すにしてもこの距離では間違いなく向こうからの攻撃の方が早いだろう。
キリトとアイコンタクトを取りキリトはヒースクリフに向かって行き、《スターバースト・ストリーム》を発動した。再びヒースクリフは守りの体制に入る。キリトの渾身の一撃がヒースクリフの盾に直撃し、ヒースクリフは遂に体制を崩した。
これはチャンスだ。盾の位置からして次のキリトの攻撃は間違いなく当たるはずだ。そう俺たちは思っていた。だが、
「何!?」
盾が間に合ったのだ。そして攻撃を逸らされて体制を崩したキリトの首にヒースクリフの剣が直撃した。キリトのHPゲージは黄色となりキリトにLOSEのマークが付いた。
「バカな……!?今のを守るなんてありえない!」
「しかし、守れた。これは紛れもなく真実だよアヤト君」
俺は舌打ちをする。マジかよこいつ。《無限槍》の俺でさえ今のシーンで守ることは出来なかっただろう。それ程に異常だった。
「呑気に考え事をしていていいのかね?」
「ぐっ!!」
ヒースクリフの剣と槍がぶつかり合う。しかし、ヒースクリフは盾を使って俺を突き飛ばした。
「ぐわぁ!!」
俺はそのまま転がり倒れる。剣だけじゃなくて盾も攻撃に使えるなんて、これじゃあまるで二刀流じゃないか。
「どうしたアヤト君。もう立ち上がれないのかね?」
「いや、まだだ。槍にはこういう使い方もできるんだぜ!」
「ん?」
俺は素早く立ち上がると地に這うように態勢を低くする。そこから一気に踏み込み、飛び上がる。
「スプレディング・メテオ!!」
そして槍を投げた。槍は一直線にヒースクリフの元に向かっていく。ヒースクリフは盾を前に出す。よし、かかった!
ヒースクリフの盾に槍が直撃する。すると、
「!?」
ヒースクリフの盾にヒビが出来てきた。そのままヒビは広がり盾はガラス片となって砕け散った。計算通りだ!これでヒースクリフに当たれば勝てる!
「ぐっ!」
しかしヒースクリフは首を傾け、攻撃を躱されてしまった。槍は勢いよく地面に突き刺さった。
「なるほど。まさか盾を破壊されるとはね。この作戦は見抜けなかった。キリト君の《スターバースト・ストリーム》で私の盾の耐久値を削り続け、君の《スプレディング・メテオ》でトドメを刺す……か。素晴らしいコンビネーションだ。賞賛を送ろう」
「……どーも」
俺は座り込んだままでいる。槍が手元から離れたことで《無限槍》のインターバルの解消が出来なくなってしまい動けないのだ。
「これで私の勝ちだアヤト君」
ヒースクリフの剣が俺の頭の上から振り下ろされた。
【WINNER:ヒースクリフ】
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