ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)
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第三十二話 第18使徒リリン
前書き
このネタでのミュータントは、サブタイトルの新人類に当りますが、完成体は、まだ尾崎のみです。
最後の使者との決着。そしてカヲル以外の銀髪の人物の正体が明らかに。
尾崎が放った橙色の光が基地に広がる少し前。
カヲルとツムグの戦い(?)も膠着していた。
なぜならツムグが攻撃する気が全くと言っていいほどないからだ。
ツムグは、シンジとレイの前に立ち、カヲルの攻撃から守っているだけだ。
「…反撃しないんですか?」
痺れを切らしたカヲルがツムグに聞いた。
「戦わないって言ったじゃん。」
ツムグは、もう何度目になるか分からない答えを言う。
「君が戦う相手は、俺じゃない。」
「それは聞きました。でもあなた以外に考えられません。」
「俺は、ただの“バケモノ”だ。正式な可能性の一つである君達とは違う。」
「それでもあなたは…。」
「俺は可能性じゃないんだよ。」
ツムグは、そう語る。
自分は“人間(可能性)”ではないと。
「俺から先はない。だから違う。」
「…なぜ?」
「俺には子供を作ることができない。人の手を使っても無理なんだ。」
「っ!」
ツムグの言葉に、カヲルは目を見開いた。
何かを生み出す力がないということは、それ以上の可能性を伸ばすことができないということだ。
永久機関を持つ使徒ですら、アダムによって生み出されたのだ。それすらできないのだとしたら…。
「息をして鼓動を刻むだけの“肉塊”にそれ以上はないんだよ。」
「だからあなたは、“僕ら”と決着をつけるべき相手じゃない…。」
「そういうこと。」
「なら僕は無駄なことをしてしまったというわけか…。」
「そういうこと。」
「ならどうして言わなかったんですか? あなたは預言者なのでしょう?」
「預言したところで、回避はできないんだよ。何らかの形で成就される。今回は君が、やった。それだけだ。」
ツムグは、何でもないことだと言う風に肩をすくめた。
「あなたにとって、人間は何なんですか?」
ツムグの態度を見たカヲルの表情が一変した。声も怒りの感情を含んだそれに変わる。
「そんなことを聞いてどうするのかな?」
ツムグは、ヘラッと笑って腕組をした。
「分かっているんでしょう? 僕の行動だって…、この先何が起こるのかも、全部。」
「俺はそこまで万能じゃない。死を回避できないのがいい例だ。」
「それでも分かるんでしょう?」
「分からないことは分からないよ。」
「…楽しそうですね?」
「楽しくはないよ。」
ツムグとの会話も膠着していた。
カヲルは、血が出そうなほど手を握り締める。
目の前の男は、周りを弄んでいる。
守っているようで、守ってなんかない。
何か目的があるようではあるが、そのためなら如何なる事があろうと動じない奴だ。
しかし…、そんな男を相手に自分が抱いているこの感情という物は何なんだろうと疑問を持つ。
その時、橙色の光が基地に広がった。
カヲル、そしてシンジが驚いているが、ツムグは、宙を見上げて、ああ…っと声を漏らしていた。
足音が聞こえた。
カヲルは、その音に一瞬体が撥ねた。
なぜだろうとそちらを見ると。
「尾崎さん…?」
尾崎がいた。
だが雰囲気が違う。
何かが違う。確かに尾崎なのだが、何かが違う。
ツムグは、尾崎の姿を見て、微笑んだ。
「尾崎さんですよね?」
「カヲル君。…終わりにしよう。」
尾崎は、哀しさを含んだ落ち着いた声で言った。
「…! まさかさっきの光は…。」
「俺が…みんなを解放した。」
尾崎が言った。
その目には、これまでと違う、大きな決意を感じ取れる光があった。
「よお、えらいことになったな、おい。」
そこへやってきたのは、ゴードンだった。
あちこちボロボロだが、しっかりと立っている。そして真ん中から折れた日本刀を片手に持っていた。
「…あなたも生きてたんですか。不死身ですか?」
「普通の人間なら10回は死んでたろうな。体のあちこちがまだイテーよ。」
「…さすがは人類最強と呼ばれるだけのことはある。」
カヲルからの攻撃をイテーで済ませるゴードンに、カヲルは、半ば呆れ顔で言った。
「ツムグ。これがおまえの言っていたことなんだな。」
「ああ。そうだよ、尾崎ちゃん。ようやく覚醒したんだね。」
「覚醒…。」
カヲルが半濁する。
そしてハッと尾崎を見た。
「まさか…、カイザーとはそういうことだったのか!」
「?」
何かを理解したカヲルが声を上げる傍ら、尾崎は疑問符を飛ばしていた。
カヲルは、額を押さえ、宙を仰いだ。
「ああ…なんてことだ。どうして“僕ら”は気付かなかったんだろう。こんな近くにあったというのに…。」
カヲルが、手をかざして荷電粒子砲を放った。
尾崎は、冷静に両手を前にかざす。
すると鋭い音を立てて、荷電粒子砲が弾かれた。
ATフィールドによって。
「驚いた…。本当にそうなんですね。」
「? 何を言っているんだ? ATフィールドのことか?」
「おい、尾崎、おまえいつの間にそんなことができるようなったんだ? ツムグ、説明しろ。」
「僕は結論出す時機を間違えてしまいました。」
「どういうことだ?」
「“僕ら”は、間違えてしまった。どうして気付くことができなかったのか不思議でなりません。」
「言っている意味が分からない。」
「…あなた達に会えてよかった。」
カヲルは、笑った。
まるで、もう思い残すことはないと言う風に。
「う……。」
その時、レイが目を覚ました。
シンジは、レイを抱えた状態で尻餅をつき、放心していたため気付くのが遅れた。
「碇君…?」
「あ……、綾波?」
「私………、人間になれた。」
レイは、涙を浮かべ、シンジの首に腕を回して抱き付いた。
カヲルは、それを横目で見て、驚いた。
「彼女は、人間になれたのか…。」
そう言って苦笑した。
もうレイは、自分とは同じじゃなくなった。その寂しさゆえに。
するとそこへ。
ゴジラの雄叫びが聞こえて来た。
基地の破壊で警報音が鳴らなかったのだ。
「カヲル君?」
「ありがとう。ごめんなさい。」
「カヲル君!?」
カヲルが何かよくない行動を起こそうとしているのを察知した尾崎が動こうとした時、カヲルに向けて銃弾が飛んできた。
その銃弾はカヲルの顔の斜め右辺りでATフィールドに阻まれて防がれた。
「貴様…! 何をしようとしている!」
男の声が響いた。
声のした方を見ると、銀髪の男が立っており、その手に大型の銃を握っていた。
しかしその顔は…。
「…! おい、どういうことだ?」
ゴードンが真っ先に気が付きカヲルと銀髪の男を交互に見た。
「来てたんだ。」
「何をしようとしているんだと聞いている! 答えろ、渚カヲル!」
「“ヲルカ”さんの想像通りのことだよ。」
ヲルカと呼ばれた男の顔は、カヲルを40代後半ぐらいにした感じの顔立ちをしていた。目の色も肌の色素も同じである。
「な…、貴様はゼーレの命を受け、地球防衛軍なる輩どもを抹殺し、リリスの魂を持つ者を確保することが役目だったはずではないか!」
「道は…、彼らに譲ることにしました。」
「勝手なことを…! リリスの道標は人類補完の要なのだぞ!」
「なんだって!?」
人類補完と聞いて尾崎が反応した。
「リリスは、もういない。」
「なっ……。そこにいるではないか!」
ヲルカは、レイを指さして叫ぶ。
「彼女は人間になった。リリスの魂は失われたんだ。どこに行ったんだろうなぁ?」
カヲルは、どこか嬉しそうに言う。
「ならばおまえが…アダムの魂を持つおまえが道標にならねばならない! 早急にアダムを探せ! 死ぬことは許されぬのだ! なのに貴様は…。」
「“僕ら”は彼らに道を譲る。」
それを聞いたヲルカは、血が出るほど歯を食いしばり、憤怒の表情を浮かべる。
「渚カヲル…! この! 裏切り者め!!」
ざわりとヲルカの髪の毛が揺れる。
ヲルカは、銃を構え、銃弾を連続で放った。
その銃弾は、カヲルの前に張られたATフィールドで防がれる。
「僕には勝てないよ。」
「だまれぇぇぇぇ!」
「人類補完がならなければ、ヲルカはすぐに死んでしまうんだ。」
カヲルが背を向けたまま、尾崎達に向けて言った。
「ああ…、なるほど、急激な老化現象。」
ツムグがポンッと手を叩いて言った。
ヲルカは、カヲルと同じく、アダムからサルベージされた存在だった。
しかしその魂は、カヲルと違う。
それゆえにATフィールドは弱く、急激な老化現象などの症状を患っていた。
そのため短期間で一気に年を取っている。ゼーレの命令でゲンドウに従っていた時に比べて10歳以上は老化していた。
だからこそゼーレにとっては、カヲルよりも操りやすかったと言える。人類補完によって魂が回帰され、自分自身の壊れてしまった“時間”から解き放たれることだけが救われる方法なのだと教え込めば……。
「ヲルカ。なにも人類補完計画だけが道じゃない。」
「だまれ!」
ヲルカは、無駄だと分かっていてもATフィールドによる中和を利用して銃弾を放つが、カヲルの分厚いATフィールドを破ることはできない。
「すでに未来は開かれているんだ。素晴らしい未来が…。」
「黙れと言っているぅぅぅ!」
「ヲルカ、あなたの壊れてしまった“時間”から解き放ってあげます。それがあの老人達と“僕ら”に狂わされてしまったあなたの魂への償いだ。」
「っ!?」
カヲルが右腕を伸ばして人差し指を出すと、ヲルカの胸に大きな空洞が空いた。
一瞬で空いた胸の穴から大量の血が噴き出し、ヲルカは、カヲルに睨みながら前に倒れた。
「カヲル君…。」
尾崎達は、カヲルとヲルカの争いをただ傍観していることしかできなかった。
「さよなら。」
カヲルが宙に浮き、空へ舞い上がった。
そこへゴジラの足音と、地響きが轟いた。
舞い上がったカヲルは、ゴジラを見た。
ゴジラもカヲルを見る。
ゴジラが口を開いた。
その口めがけて、カヲルは飛んだ。
そして……、飛び込んだ。
カヲルが口に入った途端、ゴジラは驚いたものの、すぐに歯を閉じた。
ゴジラの歯の隙間から、赤い液が垂れた。
ガジガジと噛みしめたゴジラは、口を開け雄叫びを上げた。
「…の野郎!」
ゴードンは、憤怒の表情を浮かべ、地面を一回強く踏みしめ、背を向けた。
「ゴジラを撃退するぞ。出動だ!」
「カヲル君…。」
「尾崎! …後にしろ!」
「……はい!」
悲しむ暇を、ゴジラは許してはくれない。
守るべきもののため、尾崎は出陣した。
「俺も行こうか。」
ツムグも、機龍フィアに乗るべくその場を後にした。
残されたシンジとレイは、他の生き残りの地球防衛軍の兵達と合流した音無によって保護された。
***
「ふぃあちゃん行ける?」
『行けるよ!』
「とにかくゴジラさんを基地から遠ざけるから初っ端から行くよ。」
ツムグは搭乗するなりシンクロをすると、すぐさまリミッター解除を行った。
機龍フィアは、ドッグの天井を破り、飛んだ。
基地へ突き進むゴジラをすぐに補足すると、ワイヤーを発射した。
ゴジラは、それに気づくと、ワイヤーの先端を掴み束ねて、機龍フィアを地面に叩きつけようと引っ張った。
「ゴジラさん、海へ行こうよ。」
目を金色に光らせたツムグが笑いながら言う。
そこへ轟天号が飛んできた。
轟天号からもワイヤーが飛び、機龍フィアの方に手を使っていたためゴジラはそれを防げず体を絡みとられた。
そのまま轟天号は、ゴジラを引きずり、ゴジラを基地から遠ざけ始めた。
ゴジラは身をよじりワイヤーを千切ろうと暴れる。
ゴジラの背びれが光ろうとすると、機龍フィアから顔を目がけて攻撃され、阻止される。
それにムカついたゴジラが機龍フィアに顔を向けて口を開き熱線を吐こうとしても、轟天号が高低差を付けながら飛行してゴジラの後頭部を地面に打ち付けて引きずるというのを繰り返すため阻止される。
そうこうするうちに、ゴジラは海へ連れてかれた。
そこで轟天号のワイヤーが外され、ゴジラは、そのままの勢いで海に放り込まれた。
海の中からすぐにゴジラが起き上がり、怒りの雄叫びを上げた。
海辺に着地した機龍フィアが、ゴジラと相対する。
「ねえ…、君も見ているんだろ? アダム君。」
ツムグは、腹を撫でた。それに反応するように腹の中に入れているアダムの卵が反応した。
「さあ、戦おうゴジラさん!」
ツムグは、狂気に歪んだ笑みを浮かべて叫びながら操縦桿を握った。
ゴジラが突撃してきて、機龍フィアと組みあった。
その時ツムグは、見た。
ゴジラの歯の隙間に。ツムグの視力だから分かるが、歯の隙間に血の赤と、僅かな銀色の髪の毛っぽい物がこびりついているのを見た。
ツムグは、大きくため息を吐いた。
「馬鹿なことをして…。何もゴジラさんに食べられなくたって………、羨ましい!」
『ツムグ、何言ってるの!?』
「俺だってゴジラさんに喰われたいよ!」
『ワーン! ツムグがまた変なこと言いだしたー!』
そこからは、ゴジラと機龍フィアの殴り合い、蹴り合いの肉弾戦が繰り広げられた。
時々轟天号からの援護射撃もある。
「ゴジラさん! ゴジラさん、分かるー!? ゴジラさんが喰ったの、最後の使徒だよ! 終わりなんだよ! ここから先はどうなるか俺にも分かんないんだよ!」
『ツムグ、落ち着いて!』
「世界がどーなるか、もう分かんないだよーーーー!!」
ツムグは血を吐きそうなほど叫ぶ。
「それでも、俺は! それでも、俺は!」
機龍フィアの腹部が開閉し、絶対零度砲が発射された。
海面が凍り付き、ゴジラの足を凍らせた。
「ゴジラさんのために…!」
ゴジラの顔を殴りつける。
ゴジラも機龍フィアを殴った。
「ゴジラさんのために、ゴジラさんのためにゴジラさんのためにゴジラさんのためにゴジラさんのためにゴジラさんのためにゴジラさんのために!」
ツムグが狂ったように叫び続ける。
「---、にたい。」
機龍フィアが、ググッと首を後ろにそらせて、強烈な頭突きをゴジラにお見舞いした。
機龍フィアの片目のレンズが壊れる。
ゴジラは、足元の氷を強引に破壊し、機龍フィアにタックルをかまそうとした。
その瞬間、機龍フィアが回転し、機龍フィアの尻尾がゴジラのわき腹に決まってゴジラが吹っ飛ばされた。
「あぁぁあああ、いっそ全部壊しちゃおうか!」
『ツムグー!』
「綺麗、さっぱりと…、っ!!」
次の瞬間、ツムグが被っているヘルメットに強力な電流が流れた。
『ツムグのバカ! そんなことしたらダメなのに!』
ふぃあが電流を流したのだ。
もしもツムグが狂い始めた時のための保険であった。
なお、普通の人間なら頭が爆ぜるほどの電流だ。
「っっ…、イタ~、頭にズーンときた。」
ツムグはヘルメットの上から頭を摩った。
「でも目が覚めたよ。ありがとう、ふぃあ。」
『やったー! ツムグ治った、治った!?』
狂気の失せた笑みを浮かべたツムグは、ふぃあにお礼を言った。ふぃあは喜んだ。
眼前にいるゴジラがグルルッと唸る。
ゴジラは、気がかりだった。
宿敵たる地球防衛軍に、奇妙な微かな気配があることに。
最初は、使徒の気配が二つあった。だがその内ひとつは消えた。その後もうひとつは、自分が噛み砕いた。
二つの気配が消えたと思ったら、何か微かな気配を感じ取った。それが使徒なのか何なのかははっきりしない。だが、気に障る気配であることは間違いない。
その気配が徐々に遠ざかっていくのを感じる。
どこかへ逃げようとしているのかもしれない。追わなければと思うが目の前にいる機龍フィアと轟天号が邪魔だ。
「ゴジラさん…、悪いんだけど。それは阻止させてもらうよ。」
ツムグは、そう言うと操縦桿を握り直した。
ゴジラとの戦いは長く続き、やがてゴジラが諦めて海へと帰還した時には月が空に浮かんでいた。
***
「よお、生きてたか?」
「なんとか。」
ゴードンは、破壊された司令室にいる波川を訪ねていた。
波川の頭には包帯が巻かれていた。
「完全な人間型の使徒とは、全く予想していなかったわ。」
「しかも今まで出てきた使徒の力までもってやがった。」
誰が想像する?
そんな使徒が現れるなどと。
「基地の修復ももちろんですが、生き残ったミュータント兵士達へのカウンセリングもしなければなりませんね…。」
「今回のことで相当応えてるぜ。恐らく半数以上が退役を望むだろうな。熊坂の奴も重体だしよぉ。」
尾崎を逃すために操られた他のミュータント兵士達を引きつけた熊坂は、乱闘の末にこれを退けたものの大怪我を負った。
「今回のことはM機関の存続にも大きく響くことになったわ。…狙ってやったとは思えないけれど。」
「そりゃ偶然だろ。奴の目的は、ツムグの野郎を引っ張り出すことだった。なんでかは知らねーが、ツムグの野郎…、戦うことをえらく渋ってたがな。」
「ツムグのことだから何か理由があったのでしょうね。」
「それがな……、戦う相手が自分じゃなく、尾崎だって言いやがったんだ。」
「尾崎少尉が?」
「その件については、あいつ(ツムグ)を問いたださにゃならねー課題だ。渚カヲル…、使徒としての名前はタブリスって言うらしいが、一人で納得して、勝手に死にやがった。…ゴジラの口ん中に入ってな。」
「自ら死んだのですか、その使徒は。」
「気がかりなことを残してな。」
「気がかりな事?」
「ヲルカとかいう、渚カヲルによく似た男が来た。そいつは、ゼーレの部下だったらしいが、そいつが言いやがった。リリスの魂を持つ者を確保。人類補完の道標。アダムの魂を持つ。どうやらゼーレの連中の企みの要が一か所に集まってたらしいな。」
「魂ですって? 使徒の魂を持つ者がいたと?」
「恐らくリリスの魂を持つ者ってのは、綾波レイって娘のことだ。だが渚カヲルが言うには、あの娘が完全な人間になったことでリリスの魂は失われたらしい。そして残るアダムの魂を持っていた渚カヲルは、自ら死んだ。」
「つまりこれでゼーレの企みの要がすべて失われたというわけですね。」
「だといいがな…。」
ゴードンは、いまだ姿を見せぬゼーレがまだ燻っていることを直感していた。
まだ終わっていない。ゼーレを見つけ出し、一人残らず始末をつけなければ終わらないと。
「必ず終わらせてやる。」
ゴードンは、そう呟き、拳を握った。
***
地球防衛軍の広い訓練場の空き地に、布を掛けられた遺体が並べられた。
その数は凄まじく。人間の形をしていないものもある。
その中を歩いていたツムグは、ある一人の遺体の前に来た。
そしてソッと顔にかかった布を取る。
「………ナッちゃん。」
ナツエだった。
ナツエは、少し煤けているが、かなり綺麗な状態だった。
ナツエの傍らに、ツムグはしゃがみ込んだ。
「ねえ、ナッちゃん。前に言ってたよね。もしも俺が死の預言をしたらって聞いた時、私のことを少しは想ってくれますぅ?って。………心配せずとも、想ってるよ。」
ツムグは、もう二度と動かないナツエに語り掛ける。
「ねえ、ナッちゃん。最後の使徒が死んだよ。ここから先は…、どうなるのかな?」
返事はもう返ってこないと分かっているのに、それでも話しかけ続ける。
「俺も全部わかるわけじゃない。色んな人から責められたけど、波川ちゃんやゴードン大佐は相変わらず。カヲル君が自殺して、ゴードン大佐怒ってたな~。尾崎ちゃん達は…、シンジ君達慰めてたなぁ。食堂のね、あのおばちゃん死んじゃったんだ。シンジ君達の前で。レイちゃん、人間になれたけど、喜んでる暇ないね、これじゃ。ミュータント兵士達もこれから大変だ。たくさん死んじゃった。たくさん殺しちゃった。操られた時に神経がズタズタで、今までいたM機関のミュータント兵士は、もう半数もいないんだ。たくさん死ぬのは知ってたよ。誰が死ぬのかも知ろうと思えば知れたけど、やらなかった。」
ツムグは、ギュッと自分自身の体を抱いた。
「俺のやり方は、きっと間違ってる。でもね、ナッちゃん。」
ツムグは、笑う。
「死にたいんだ。俺。」
ナツエの汚れた頬を撫でながら、ツムグは笑って言った。
「先に逝けたナッちゃんが羨ましいよ。」
***
ずるり、ずるりと、ソレは這いずる。
破壊された地球防衛軍の基地の研究所から逃げ出したソレは、人知れず移動する。
第三新東京へ。
『アア……、モウスグ…、もう…、す、ぐ……。』
未完成の胎児のようにも見えるソレは、ブツブツと呟きながら這いずりながら進む。
『オニイチャン……、もうすぐ…、だ…よ…。』
幼い男の子のような声を発する。
後書き
オリキャラ達が多く死にました。
椎堂ツムグは、ナツエの死を預言していました。けど言いませんでした。ナツエだけじゃなく、死ぬ人間すべての死を預言していましたが、言いませんでした。
最後の使者のカヲルは、もう人類補完計画をしなくても、新人類(第18使徒)が誕生している環境ができていることを理解し、未来を託すことを決意してゴジラに食われて死にました。
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